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株式会社日立総合計画研究所

書評

研究員お勧めの書籍を独自の視点で紹介

踊る大捜査線に学ぶ組織論入門 :評者:日立総合計画研究所 松本洋人

2005年12月1日

Chain of Command

ドラマと映画で人気を博している『踊る大捜査線』のシリーズは、題記のような本が出版されていることからも分かるように、「本庁の官僚主義 vs 所轄の現場主義」といった構図がストーリーの底流にあり、組織論の視点からも示唆に富む作品である。
特に、映画『踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』は、旧来型の警察のピラミッド型の官僚組織が、ゲリラ的な犯罪に翻弄され混乱に陥る中、いわば21世紀型の「自己変革組織」に進化することで、事件を解決するといったストーリーとなっていて興味深い。サブタイトルの『レインボーブリッジを封鎖せよ!』とは、監督官庁が複数にまたがるレインボーブリッジをいかにして封鎖するか、つまり、縦割りの官僚主義をいかに超えるか、という意味が込められているのである。

そもそも、ピラミッド型組織がゲリラ戦において機能不全に陥ってしまうという事実は、1993年の米軍によるソマリア侵攻の失敗という深刻な形で露呈されている。この失敗は、瞬時に戦況が変わるゲリラ戦では、司令部がすべての情報を収集し、意思決定・命令するといった厳格なコマンドの流れ(the Chain of Command)が前線兵士の行動の足かせとなり、対応が後手に回ってしまったことが原因とされている。

『踊る大捜査線 THE MOVIE2』の中で捜査本部が相手にしたのは、「リーダーがいない。誰かが命令して誰かが従うのではない。参加者全員に意思決定権がある。目的だけを共有し、あとは各自が判断する」といった行動原理をもつグループであった。彼らの動きに対し、命令の鎖に縛られた捜査員たちは、捜査本部と現場との意思疎通の不良の中で動きがとれず混乱し、しまいには、所轄の刑事が拳銃で撃たれるといった悲劇を招くことになる。
そして、捜査本部長の交代。

新しい本部長となった室井官吏官(準主役)が最初に発した言葉は、 「この地域の実態を教えてくれ。捜査員に関わらず、役職や階級も忘れてくれ」 「被疑者を見つけ次第確保だ。本部の命令を待たなくてもいい」 「全捜査員、聞こえるか。自分の判断で動いてくれ。本部への連絡は厳守。現場の君たちを信じる」 といったものであった。

その後捜査本部は機能を回復し、映画の主役であり、所轄の刑事である青島刑事などの活躍で、事件も無事解決するわけであるが、事件解決後、捜査本部長の室井は同僚から「これからがたいへんだな、室井。所轄やSAT(特殊急襲部隊;Special Assault Team)に勝手なことをさせて。根回しもせずに橋を封鎖してしまったんだ」と言われ、「責任を取る。それが私の仕事だ」と語るのである。

もちろん、これは映画の話であり、現実はそんなに甘くはない。部下を信頼するということと、勝手を許すということは同じではないし、映画で描かれているようなエモーショナルなリーダーシップだけでは、部下はついてこないだろう。
そして、命令を受ける側も、単に上司の指示に従っていればよいということではなく、自分で情報を収集・判断し、自ら他の部署とコミュニケーションをとり、調整した上で自律的に行動するといった能力を身に着けていなければならなくなる。
被疑者と対峙した時に、青島刑事が発する言葉、「リーダーが優秀なら、組織も悪くない」と言い切れるほど、単純な話ではないであろう。

ただ、この映画の設定で考えさせられるのは、例えば大企業が、次々と現れる新興企業たちと対峙する姿と重なるのではないかということである。
専門能力を持ち、経験を積んだ個人が、あるビジネスを成功させるという共通の目的のもとに集い、自律的に行動し、目の前のチャンスを次々と取り込んでいく。
『踊る大捜査線 THE MOVIE2』は、そのような行動原理をもつ新興企業に、我々が対応していくためには、何をすべきかについて、考えさせられる映画であり、『踊る大捜査線に学ぶ組織論入門』は、そのためのヒントをくれる書籍である。

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