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株式会社日立総合計画研究所

書評

研究員お勧めの書籍を独自の視点で紹介

「知」のスピードが壁を破る:進化しつづける組織の創造 :評者:日立総合計画研究所 衣笠一歩

2006年4月25日

ローマは一日にして成らず

"ミスター・ラグビー"こと平尾誠二氏は、高校・大学・社会人で選手として幾度もチームを日本一に導き、その卓抜したリーダーシップから、"日本ラグビー界の知将"と称される人物である。本書は、個人の価値観を最大限に尊重した組織作りの重要性を提唱する著者が、日本代表監督としてチーム編成や選手の育成に 苦心 した実体験に基づき、組織の本来あるべき姿やそれに帰属する個の 強化 について詳述したものである。

「百年の計」と銘打ち、従来の縦列型・命令型組織から、並列型・提案誘導型に刷新するなど、長期的視点に立脚して抜本的改革を遂行した平尾氏。それまで官僚的であったラグビー界に新風を吹き込んだ革新的な組織論は、経営者、指導者はもちろん、組織の一構成員たるビジネスマンにとっても研さんの一助となろう。

著者によれば、組織のコンセプトは「型」と「オプション」の2つに大別されるという。前者は、全ての戦術が細部に至るまであらかじめ決められ、構成員は「型」通りに行動すれば良く、個々の判断力・創造力は要求されない。組織作りが容易であるゆえ、短期間である程度の成果が求められる場合には有効だが、永続的な強さが身に付かないというリスクも併せ持つ。一方後者は、「オプション=個々の判断力」が重視され、自発性・自主性を持った人材が組織の屋台骨を担う。強固な組織が構築される反面、人材育成に 長い時 間を要するという難点もある。岐路に立たされた 著者が選択したのは、目先の利益を捨て、個々を育成しつつ組織全体のボトムアップを図るという長途。自発性・自主性を持った人材を育てなければ、瞬間で変化する多様な局面に対応できなくなるという危惧に起因していたようだ。

では、強い個を育成するにはどうすればよいか?「内発的なモチベーションを誘発させること」と著者は強調する。モチベーションが自分の内から湧くことで自発的に行動するようになり、人は成長する。その結果、革新的な思考や創造が生まれ、個が帰属する組織自体も強化されるという論理だ。

さらに著者は、長期的スパンで組織強化策を考えることの重要性を説き、「長期的な視点をもってこそ、抜本的な改革ができる」と力説する。以下は私見であるが 、人は誰しも近視眼的になり、短期間で成果が現れる小手先だけの改革に走りやすい。成果が現れた時、最初に種をまいた者よりもむしろ、刈り入れた者の方が脚光を浴びるという不条理も短期志向に拍車をかけているように思える。だが、著者も言うように、スポーツにおいても一般社会においても、組織は急激に強くなりはしない。仮にそうなったとしても、それは砂上の楼閣にすぎず、急成長の代償を払うかのごとく、組織が 崩壊 したり、成長が長続きしなかったりした例は枚挙にいとまがない。そんな現実を目の当たりにしているからこそ、「急激な強化よりも確実な強化を」という著者の指摘は核心を突い ている ように思えてならない。

我々の日常に目を転じてみても、多種多様な局面で総じて正解の無い状況判断を強いられる。マニュアルを暗記することで、教科書的な答えを導き出せたとしても、直面する難題の大部分は、個々の状況判断で打開せねばならない。日々のたゆまぬ努力に裏打ちされた強い個の確立が求められている。

『一日生きることは一歩進むことでありたい』…ノーベル物理学賞を受賞した湯川秀樹氏の言葉だ。いつの世も、長期的な視点に立脚して、日々の着実な積み重ねを行うことから時代を揺るがす大きなイノベーションが生まれているという事実を忘れてはならない。

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