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株式会社日立総合計画研究所

書評

研究員お勧めの書籍を独自の視点で紹介

みんな力:ウェブを味方にする技術 :評者:日立総合計画研究所 林寛之

2007年11月1日

お客様からパートナーの関係へ、消費者と企業が協創するマーケット

評者には、テレビCMに踊る「お買い得」、「あなたにピッタリ」、「世界最高の性能」といったキャッチコピーが本当に"正しい"のか気になるときがある。テレビの前にいる消費者全員に対し、一概に「これがいい」と勧めてみても、それで本当にヒットするのかという疑問がわくのである。昔から世間でいわれる「良い物を作れば必ず売れる」という図式が今でも通用するなら、製品開発力の高い企業がシェアナンバーワンになるはずだが、店頭での商品の売れ行きを見ると必ずしもそうではない。本書は、マスメディアの広告宣伝に依存した企業からの一方的な情報発信が、もはや消費者の心には響かなくなったという視点に立ち、新たなマーケティングのあり方を企業に提示している。大切なことは、長い目で見て企業が消費者とどのような付き合い方をするのかという関係の構築であり、消費者からリスペクトされる企業になることだという。

そのために本書は、企業に対し、ビジネスのあらゆる局面において消費者を味方に付け、消費者との密接なコミュニケーションを繰り返せと提起する。そして、企業が消費者との効果的なコミュニケーションツールとしてウェブを活用できれば、企業と消費者は「みんな力」という市場を動かす大きなパワーを生み出せると説く。「みんな力」とは、企業と消費者がウェブの世界を通じて広く連携し、互いの思いや意見を尊重し合う関係から生まれる良好なクチコミによって、本当に愛される商品や息の長い市場を企業と消費者が一緒になって創造していく力である。

本書には、示唆に富む理論と「みんな力」の作り方が具体的に示されており、ウェブを活用したビジネスのあり方を理論と実践の両面から学ぶことができる。まず「カスタマー・コンピタンス」という理論が紹介されている。これは「顧客の力を企業の新たなコンピタンス(競争力)としていこう」という考え方で、次の4つの行動を企業に促している。

  1. 顧客と積極的な対話を行う
  2. 顧客コミュニティーを利用する
  3. 顧客の多様性を管理する
  4. 顧客と協力して顧客ごとに個別の経験を提供する

本書は、この理論を拡張させ、消費者が互いにつながり透明になったウェブの世界では、顧客だけではなく、その周囲や社会(コミュニティー)まで味方に付けることが重要だとする「ソーシャル・コンピタンス」という考え方を示している。例えば、「AシャンプーのCMは面白い」といったウェブ上のクチコミが販売拡大につながる宣伝になるといったことである。

また、本書は、消費者の自発的なクチコミで広まった評価は、市場調査より信頼性が高いと指摘している。なぜなら最近の消費者は、街頭やウェブでのアンケートでモニター慣れしてしまって、市場調査では、つい本音ではない回答をしたり、その場の空気に合わせた適当な返事をしてしまうからである。一方、ウェブのクチコミは、消費者が自分の経験に基づき、本当に伝えたいことを本心から書き込んでくれるというのである。そして、企業はウェブ上の消費者コミュニティーをファシリテートしたり、彼らの声を差別化要素として取り入れた商品を発売するなどして、一過性で終わらない長く愛される商品作りが可能になると指摘している。

このような企業と消費者の関係構築を理解した上で、本書は「みんな力」を作るための5つのポイントを企業に提示している。

  1. ウェブを通じて互いにつながった消費者は、企業以上に情報を持つようになった。そして市場が、消費の場だけでなく、イノベーションをはじめ、価値を生み出す場として大きく作用し始めるようになったパラダイム・シフトを受け入れる。
  2. 商品に対する評価だけでなく、不祥事への適切な対応など、自社の姿が消費者の目にどう映っているかにも敏感になり、レピュテーション(評判)を大事にする。
  3. 自分が力になれた、自分の意見が重要視されたと消費者が感じられる、消費者主体のネットワークをウェブ上に構築する。
  4. 商品を売る相手というだけでなく、「共同(協働)作業する、コラボレーションの相手」、さらには「話し合う、相談に乗ってもらう、情報を交換し合う、評価を問う相手」として顧客との関係を考える。
  5. 消費者の知識が集積した「集合知」としてだけでなく、個々の消費者が企業に対して抱く期待など、彼らの考えや意識までもが集まった「集合意識」としてウェブをとらえ、ウェブをみんなの「共通脳」として活用する。

ウェブの先進性や技術的進歩を解説したもの、「売れるウェブサイトの作り方」といったハウツーものなど、専門的あるいは極めて実務的な書籍は数多くある。しかし、ウェブとビジネスの関係を俯瞰でき、内容も平易で応用しやすい本書は、ウェブを媒介に消費者の行動が変化している姿を学ぶのに適している。ウェブ時代にビジネスのヒントを得たいと考える企業のマーケッターや宣伝担当、あるいはブランドマネジャーなど、企業と消費者のコミュニケーション戦略を担う立場の人には一読の価値がある。

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