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株式会社日立総合計画研究所

書評

研究員お勧めの書籍を独自の視点で紹介

Green to Gold :評者:日立総合計画研究所 坂本尚史

2008年2月14日

Green to Gold−"No" is not an option

「環境経営で収益を」という本書のタイトルを聞いて、そのような経営論があるのだろうかと懐疑的になるビジネスマンは多いはずだ。だが、本書を読んでいくと、環境事業と環境管理の両面が考慮され、環境経営の戦略立案と実行の方法が、網羅的・体系的に、整理されていることがわかる。しかも、理論主導ではなく、非常に現実的だ。著者に確認したところ、本年中に、本書の日本語訳が出版されるとのことだが、環境経営の再構築に取り組んでおられる実務者のために、少しでも早く本書を紹介すべきだと考えた。

本書の第一の特徴は、戦略立案テキストブックとしての完成度の高さだ。第一部は、環境問題の分析とステークホルダーの分析からなる「外部環境」、第二部は、リスク管理と事業機会獲得からなる「戦略立案」、第三部は、企業文化や従業員意識からなる「内部環境」、第四部は、環境経営の失敗分析と戦略遂行からなる「統合戦略」というように、通常の企業戦略論と同様の整理がなされている。競争戦略論の大家であるマイケル・ポーターが、本書の推薦文を書いているのもうなずける。また、本書は、いくつか独自の分析フレームワークを提案しており、その一つが、AUDIO分析である。これは、地球温暖化問題、廃棄物問題などの課題ごとに、Aspects(定量指標)、Upstream(部品・材料などの上流の課題)、Downstream(製品の利用・廃棄などの下流の課題)、Issues(事業リスク)、Opportunities(事業機会)に分けて、自社にとってのインパクトを網羅的に整理する枠組みである。UpstreamとDownstreamを明示的に取り上げ、常にバリューチェーン全体を分析するという点を組み込んでいることが重要である。

第二の特徴は、事業機会獲得と事業リスク回避のための現実的なアドバイスだ。例えば、「環境性能は第三のボタンである」との記述がある。これは特に、コンシューマー事業について言えることだが、環境性能は、価格、品質、サービスなどから独立では成り立ちえず、環境性能だけで製品を差別化することは難しい、ということを指している。当たり前のようだが、しばしば誤解されている点だ。また、環境ブランド・キャンペーンは、大きなメリットをもたらす可能性がある一方、リスクも伴うことを指摘している。例として、石油会社であるBP社のBeyond Petroleumキャンペーンを取り上げているが、企業が、環境キャンペーンを立ち上げて、環境経営の卓越性をアピールした場合、必然的に、社会的な注目を集めるため、その主張は言い過ぎではないかとか、対応できていない環境問題が残っているではないか、といった批判を受けるリスクは高まるのも事実である。企業は、こうした小さなリスクも、事前に認識しておかなければならない。

第三の特徴は、従業員意識と企業文化の重視だ。本書は、この問題にかなりの紙面を割いている。一番印象に残ったのは、「アポロ13号原則を採用する」との提案だ。映画化もされた有名な逸話だが、アポロ13号が月に向かう途中で液化酸素タンクが爆発し、ヒューストンの管制センターの誰もが、乗組員を地球に生還させることは不可能と思った時、主席管制官のジーン・クランツが言った有名な言葉が、「Failure is not an option(失敗は選択肢になり得ない)」だ。結果として、管制センターと乗組員は、さまざまな不測の事態に遭遇しながら、知恵を振り絞って、エンジニアリング的にあらゆる問題を解決して、乗組員を生還させるという目的を達成した。このことは、単なる精神論を超えて、課題の解決に「意志」が重要であることを物語っている。環境経営が優れていると言われる企業では、環境事業で大きな収益を上げる、あるいは、環境負荷を大きく下げるといった、一見不可能と思える課題の解決にも、「意志」をもって取り組む文化が根付いている、というのが、著者のリサーチ結果である。きれいに書いた戦略だけでは、物事が動かないという、我々の実感にも沿った内容だ。

なお、留意事項だが、環境管理に深く関わってこられた方々は、第一部のさまざまな環境問題に関する概説や環境管理の手法に関する部分は、読み飛ばされる方がいいかもしれない。環境負荷情報のモニタリングなどについては、日本企業の取り組みの方が進んでいると思われるからである。

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