研究員お勧めの書籍を独自の視点で紹介
2012年2月3日
本書は著者が1973年に発表した「マネジャーの仕事(原題:The Nature of Managerial Work)」の36年ぶりの改訂版である。本書の大きな特徴は、旧著もそうであったように実際のマネジャーを観察し、マネジメントという営みを網羅的に分析している点であろう。民間企業、政府機関、非営利団体などさまざまな組織のトップマネジャーから現場マネジャーまで29人を観察し、その調査結果がこの本の土台になっている。リーダーシップなどの特定の役割に焦点を当てるのではなく、日々多種多様な業務に追われているマネジャーの仕事の全てを現実的に捉えたマネジメント論であり、説得力の高い内容となっている。
そもそもマネジャーの仕事、マネジメントとは何であろうか。本書において著者はマネジメントの仕事の全体像をモデル化している。マネジメントは、「情報の次元」「人間の次元」「行動の次元」の3つから構成される。「情報の次元」は情報を収集するためにコミュニケーションを取ることや情報を活用して組織のメンバに行動をとらせること。「人間の次元」は人々の背中を押し本人が自発的に望んで行動することを促すことや組織外の人々と関わること。「行動の次元」とはトラブルの対処や対外的な取引などマネジャー自身が具体的・積極的に行動すること。マネジメントとは、この3つの次元の役割をすべて果たすことであり、マネジャーはマネジメントにおいて、この3つのバランスを保つ必要があると指摘している。
そして著者は、本書の後半で、この3つのバランスを取り有効なマネジメントを進めるための枠組みとしてマネジメントというタペストリーを織り成す「糸」という概念を示している。思考様式と呼んでもいい5つの糸「振り返りの糸」「分析の糸」「広い視野の糸」「協働の糸」「積極行動の糸」と「エネルギーの糸」「統合の糸」である。例えば「振り返りの糸」については「優れたマネジャーのなかには、振り返りを重んじている人がきわめて多く、自分の経験から学び、さまざまな選択肢を検討し、ある選択肢がうまくいかなければ別の選択肢を試していた」という。「これらの糸は一つのタペストリーに織り上げられてはじめて機能する」と著者は提唱する。
このようにマネジメントの仕事を理解し、それをうまく進めようとしてもマネジメントには困難やジレンマが付いて回る。本書では13のジレンマを取り上げ紹介している。例えば「多忙をきわめる仕事の場でどうやって未来を見すえ、計画を立て、戦略を練り、ものを考えれば良いのか」などである。これらのジレンマはマネジメントとは切っても切り離せないものであり、マネジメントそのものである。「マネジャーはジレンマと向き合い、それを理解し、それについてじっくり考え、それを楽しむべきだ」と著者は述べる。
なお、近年リーダーシップとマネジメントを別と捉え、リーダーシップを重要視する風潮があるが、著者は「リーダーシップはマネジメントの一部」であり、「リーダーはマネジメントを他人まかせにしてはいけない」「問題はリーダーシップの過剰とマネジメントの不足である」と指摘する。昨今、リーダーシップが重要視され、リーダーシップ論を教える研修も多い。研修を受けた方の中には、職場に戻ると日々の仕事に追われ、なかなか研修で学んだことが実践できないと悩んでいる方も多いのではないだろうか。著者は「リーダーシップにこだわればこだわるほど、好ましいリーダーシップの実例が減っていくように見える」という。
著者はマネジメントは、「実践の行為なので、サイエンスや専門技術と同じようには教えられない。マネジメントはさまざまな経験や試練を通じて仕事の場で学ぶものである」とも述べている。マネジメントという仕事は極めて複雑であり、ある一部の役割を重要視するのではなく、全体のバランスをとることが非常に重要であるということを本書から改めて考えさせられる。日頃のマネジメントがうまくいかずに悩んでいるマネジャーの方々、リーダーやマネジャーの育成に携わっている方々、これからマネジャーを目指す方々へ、ヒントを与えてくれる一冊である。