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株式会社日立総合計画研究所

書評

研究員お勧めの書籍を独自の視点で紹介

ブレーンステアリング:10億ドルのアイデアを生み出す新発想法 :評者:日立総合計画研究所 工藤智也

2012年7月2日

ブレーンステアリングは、マッキンゼーの国際戦略実践部門を長年主導してきた著者が導き出した、今までにない良いアイデアを効率的かつ継続的に生み出すための発想法である。同社は、この発想法を新製品や新規ビジネスの考案、顧客層の拡大、業務プロセスの効率化、コスト削減などの目的に活用し、200件以上のクライアント向けプロジェクトで成果を得ている。

本書では、ブレーンステアリングを、「正しい質問」を用い「正しいプロセス」を踏むことで思考をより生産的な方向に誘導する手法であると説明する。「正しい質問」とは、探るべき概念空間が適切に設定され、今までにない視点が備わり、良いアイデアが思いつく可能性を有する質問である。「正しいプロセス」とは、MECE*1の概念とロジックツリーを活用し体系的かつ網羅的に質問を作成、次にこの質問に答えることによってアイデアを創出し、さらに誰かに反響板の役目をしてもらい疑問や矛盾がなくなるよう調整することにより合理性を高める一連のプロセスである。本書では、具体的な活用方法を、著者の職場やヒアリングを通じて得られた数多くの事例を交えて、分かりやすく説明している。

従来、アイデア発想法としてはブレーンストーミングが広く活用されてきた。その特徴は、発散的な発想方法により多面的なアイデアを数多く、短時間で集中的に生み出せる点にある。例えば、リスクマネジメント分野において、潜在的なリスクを探求する際などに効果を発揮する。しかし、ブレーンストーミングでは、数多くのアイデアを得られるものの、その中から良いアイデアを一つだけ選び出すことは困難である。一方、ブレーンステアリングは、少数の実行すべき施策を発想する目的に利用することができる。その手順は次の通りである。 まず、類似分野で成功している手法の応用、今までに何らかの弊害により活用できなかった手法の改善、優先順位の関係で過去に未採用となった手法の適用などに範囲を絞り検討する。次に、これらの検討により導出されたアイデアに合理性が備わるように矛盾点や不足事項を補うことにより、最終的に実行すべき施策を生み出す。このように、ブレーンステアリングとブレーンストーミングは、良いアイデアや施策を生み出すための手法という点では共通だが利用目的に違いがあり、それぞれの発想法の特徴を理解した上で、求められる成果に応じた適切な手法を選択することが重要である。

企業を取り巻く環境は著しく変化しており、企業は競合との差別化を図るため、コスト低減による価格競争力の向上や新製品・新サービスの開発などを通じて競争優位を発揮する戦略が求められている。これらの戦略検討に際して、革新的なアイデアの創出を可能とするブレーンステアリングが有効と考える。著者によれば、ビジネスにおける革新的なアイデアはひらめきで生まれるのではなく、求められる条件に対して網羅的に整合性を有するよう組み上げて創造するものであり、ブレーンステアリングはその実践的な発想法である。本書は、新規事業、グローバル展開など、新たなビジネス領域に挑む方々に向けお勧めしたい一冊である。

*1
MECE(Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive:相互に排他的な項目による完全な全体集合の意味)

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