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株式会社日立総合計画研究所

書評

研究員お勧めの書籍を独自の視点で紹介

機械との競争 :評者:日立総合計画研究所 近藤雅俊

2014年1月23日

産業革命以降、200年以上にわたりデッドヒートを続けてきた人間と機械の雇用争奪レースは、今転機を迎えようとしている。近年急速な進化を遂げたITの力によって機械の知能は高度化し、これまで人間にしかできないと考えられていた仕事を機械が担えるようになりつつある。このままでは、人間の仕事の大部分が機械に奪われ、近い将来テクノロジーによる大失業時代が訪れるかもしれない。本書は、こうした未来に備えるべく、レースの状況を分析し、われわれ人間が勝ち残る方法を探っていく。

.2008年の金融危機以降、世界経済は回復途上にある一方で、先進国において失業率の高止まりが問題視されている。その原因として、景気の回復が不十分なために雇用が増えないとする景気循環説や、技術革新の停滞のために雇用が増えないとする停滞説が主流となっているが、本書は技術革新の進行が雇用を奪っているとする雇用喪失説の立場をとる。一見すると停滞説を真っ向から否定する主張のように見えるが、そうではない。技術革新は人間の仕事を機械に置き換える一方で、生産性を向上させ、経済成長の原動力となる。経済成長によって産み出された富が新たな雇用を創出する。こうした技術革新による雇用創出のメカニズムを著者は肯定している。問題は、技術革新の進行が速すぎる点にあるという。技術革新の進行が速すぎるために、雇用創出のスピードが人間の仕事を機械に取ってかわるスピードに追いつけなくなっている。

製造業における工場生産ラインのロボット化や、企業の基幹業務システムのIT化など定型化しやすい業務においては、すでに人間は機械にかなわない。それどころか機械は、定型業務の枠を超え、人間の高度な認知能力を要する領域にまで対象範囲を拡大してきている。例えば、車の自律走行や病気の自動診断など、10年前は実現困難と思われていた技術が、最近になって急速に実用化されつつある。

こうした急速な技術革新の背景には、半導体の進化にまつわる「ムーアの法則」と「チェス盤の法則*1」という2つの法則が関係している。「ムーアの法則」は、半導体の集積密度が18カ月ごとに倍増するという、半導体の進化に指数関数的な性質があることを示す。「チェス盤の法則」は、指数関数的な増え方により、序盤は穏やかな変化だが進行するにつれて直感的なイメージをはるかに上回り増加することを示す。登場から半世紀以上経過した半導体は、進化の過程において、すでにチェス盤の中盤に位置しており、進化が直感的にイメージしにくい領域に転じつつある。よって、技術革新が「ムーアの法則」に従って継続していくとすれば、今後の技術革新のインパクトは「チェス盤の法則」に従って我々の想像を大きく超えるものとなり、機械が人間の仕事を置き換えるスピードはさらに加速し、人間だけができる仕事の範囲は狭まる一方となる。

こうした機械の脅威に対し、われわれ人間がとるべき対抗策として2点挙げている。1つは、「機械を味方につけること」である。人間と機械が同じ土俵で争っても勝ち目はなく、人間と機械が協力し合うことで高いパフォーマンスが発揮できる。現在チェス界において、人間とコンピュータの合同チームが世界最強の座を手にしているのは良い例である。もう1つの対抗策は、「人間らしい能力を伸ばすこと」である。創造力、リーダーシップ、チーム作りなど、機械による自動化が困難なスキルを伸ばすことによって、人間と機械との差別化を図ることが重要であると説く。

なお、本書の原題は「Race Against the Machine」である。1990年代に活躍したロックバンド「Rage Against the Machine」を意識したこのタイトルは、融通のきかない機械に対して怒っている時代は終わり、優秀な機械が人間の脅威となる時代が来たという著者のメッセージであろう。

本書は、失業率高止まりの原因を、これまで傍流に過ぎなかった雇用喪失説の立場から、経済指標に基づき実証的に説明している点で説得力がある。加えて経済学に疎い読者にも理解しやすいよう、平易な言葉で説明されている点で、幅広い読者にお勧めできる。またフルオートメーション時代における人的資本形成の方向性やモノづくりの方向性を考える方々に、特にお勧めしたい一冊である。

*1
チェス盤の法則
チェスの発明家が褒美に「チェス盤の端から米を1粒、続けて隣に倍の2粒、4粒という具合に64マス並べていった合計を褒美として賜りたい」と王様に申し出たところ、王様は快諾。しかし、実際に並べてみると、チェス盤の中盤を過ぎたあたりから、米の量は競技場大に達した。想像をはるかに超えた米の増え方に対して、だまされたと腹を立てた王様は発明家の首をはねてしまった、という逸話に由来する。

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