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株式会社日立総合計画研究所

社長コラム

取締役社長 白井均のコラム

第6回:SF・未来学・シンクタンク

今をさかのぼること40年以上前の1970年、日本初の国際SF(Science Fiction)シンポジウムが米国、英国、カナダ、当時のソ連などから著名なSF作家を招いて開催されました。来日した各国の作家たちの到着第一声は、「ガスマスクを持っていけって言われたけど、大丈夫、息ができるわ」(ジュディス・メリル、カナダ)、「スモッグで空が見えないって聞いたけど、金星が見えるじゃないか」(ブライアン・W・オールディス、英国)。PM2.5が深刻な今の中国でもここまでは言われないと思いますが、各国間の人々の往来も現代と比べればはるかに少なかった時代、東京は世界からそのようなイメージで見られていたのでしょう。

さて、このシンポジウムには、日本からも小松左京、星新一、福島正実といった当時の著名なSF作家たちに加え、漫画家の手塚治虫、石森章太郎、イラストレーターの真鍋博など多彩な面々が顔をそろえ、東京、名古屋、大津と会場を移しながら、「SFと文明」、「SFはどうあるべきか」などさまざまなテーマで議論が展開されました。SFは、空想的な世界を科学的仮想に基づいて描いたフィクションですから、必ずしも未来を予測するものではありません。過去の歴史を振り返ってもSFと科学進歩が、結果としてシンクロすることは珍しくありませんが、作家たちは、むしろ自らの自由な発想に立って科学進歩はもちろんのこと、その先にある社会のより良き姿を考えることも使命としているように感じます。シンポジウムの議論の中でも、米国の作家フレデリック・ポールが、自らのSFへの思いを「SFは科学と文明の発展を予想するだけでなく、予想を実現させる働きをもつ。科学者がSFからヒントやアイデアを得た実例がたくさんある。それは社会問題に関しても同様で、予想しうるさまざまな未来を描くことによって、より良い社会への方向の選択が可能になる」、と語っています。

3日目のシンポジウムは会場を東京から名古屋に移し「空想的交通論」をテーマに開催され、自由かつ大胆なアイデアが飛び交いました。「引力を利用した地球貫通列車」、「魔法の空飛ぶじゅうたんのようにどこでもいける反重力装置」、「ベーリング海峡をせき止めて、ロンドン、パリ、モスクワ、ニューヨーク、ブエノスアイレス、南極を5日間で結ぶ原子力超音速列車」、極めつけは「ポンコツになったら食べてしまえる『テンプラカー』をトヨタに開発してもらおう!」。一連のやや発散気味の議論を締めくくったのは、特別ゲストとして参加した京都大学の社会学者 加藤秀俊の示唆に富んだスピーチでした。「人間はスピードの価値を人間の価値そのものと錯覚しがちだが、実はビジネスの価値にすぎない。われわれはスピードの価値を考え直す必要があるのではないか。われわれ人類は皆地球という空間を走る乗り物に乗って、未来へ運ばれているのだ。この乗り物をもっと大切にし、もっと乗り心地の良いものにしなければならない」。現代にもそのまま通じるメッセージではないでしょうか。

将来を考えるという意味では、「未来学」という学問領域があります。未来学は将来を長期トレンドで予測することにより、リスクを回避するとともに、新たな機会を発見し、その対応を考えることを目的としています。そこでは、ブレーン・ストーミング、デルファイ法、シナリオ・プランニングなど、さまざまな手法が使われます。実際の予測において最も難しいのは、過去から現在へのトレンドの延長線を将来に延ばしただけでは描けない「断絶的で大きな変化」の起こる可能性です。そのような変化が起こった場合、その影響は長期間、広範囲に及ぶからです。予測すること自体ももちろん重要なのですが、より重要なことは、「断絶的で大きな変化」も含め、将来におけるさまざまな可能性を考え、いかに対処するかを考えることです。この点においてシンクタンクの仕事は未来学と重なる部分が多くあります。

未来には常に不確実性が伴いますから、予測の対象が時間的に先であるほど、当然のことながら予測が当たらない確率は高まります。しかし多くの人は、およそ明日の天気予報から、時にはSF小説にまで当たることを期待するように見えます。英国のジョージ・オーウェルが1946年から48年にかけて書いた「1984年」も、スタンリー・キューブリックとSF界の大御所アーサー・C・クラークによって1968年に映画化された「2001年宇宙の旅」も、決して作者たちは「予測」として作ったものではなく、未来への警鐘として作ったものでしょうが、「その年」が近づくにつれて当たった当たらないの議論が起こりました。シンクタンクにとっても企業経営者にとっても重要なことは、未来を予測する作業だけでなくその先にある、未来に備える構想であり、未来を自ら創造していく活動です。その難しさと重要性が今後ますます高まっていくことだけは容易に「予測」できます。

(参考文献)
「SFマガジン 2014年7月号」 (早川書房)、2014年
浜田和幸 「知的未来学入門」 (新潮社)、1994年
根本昌彦 「未来学」 (WAVE出版)、2008年