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株式会社日立総合計画研究所

社長コラム

社長 溝口健一郎のコラム

第3回:デジタルとコンビニエンス

 わが街にコンビニエンスストアが来たのは、私が小学校高学年の時であった。週7日、朝7時から夜11時まで開店。当時の私は話を聞いて疑問に思った。本当だろうか?店は暗くなったら閉まるものではないのか?と。夜、友達と一緒に確認に行ってみた。商店街のはずれにある、夜なのに明るい小さな店。ハンドディップのアイスやドリンクも売っていた(当時)。その店の存在は私にとって大げさではなく衝撃的だった。「コンビニ」という言葉が無い時代。当時の私は、学校に持っていくノートが無い、遠足のお菓子を買い忘れた、と週末や夜バタバタしては、親が懇意にしていた近所の店(よろずやという名前の店だった)に連絡して、こっそり店を開けてもらっていた。もちろん、親に叱られながら。新しい店舗を見ながら、これからは、そのような心配が無くなると思ったのであった。

 社会人になってしばらくすると、ネットショップが登場した。私にとってのネットショップはアマゾンであった。それまで、アメリカンコミックや海外の雑誌を読もうとすると神田神保町の本屋に行かなければならなかった。取り寄せとなると何カ月も待たされた。それが、家のパソコンで注文して、安価で入手できるようになった。当時は、配送まで1週間以上かかっていたと記憶しているが、恐る恐る注文した商品が家に届いた時、遠くにあるものが家にいながらにして手に入る、ということを実感し、感動したことを覚えている。もう、海外出張の際に雑誌を買いだめしたり、神田に行って在庫を確認したりする必要がなくなると思ったのであった。

 国内のコンビニ登場から約40年、ネットショップ登場から約20年。コンビニは街中に店を構え、アマゾンは日用品なら何でも購入できるような勢いで品ぞろえを拡充している。今や多くのメーカーや小売店もネットショップを開いている。これらの店は夜でも、週末でも、年末年始でも開いている。プライム会員であれば、遅くとも翌日にはネットで注文したものが手に入る。配送時間が都合に合わなければ、コンビニに届けてもらえばよい。便利は時間を越え、空間を越えようと進化する。

 しかし、進化を続ける便利にも陰りが出始めている。国内の物流コストが上昇しているのである。最近では今年(2018年)4月にアマゾンが送料の一部を値上げした。輸送分野を中心とした物流業界の人手不足による人件費の上昇が配送運賃の高騰につながっているという。2018年8月発表の全日本トラック協会の景況感調査によると、調査対象の運送会社(国内約600社)の約7割が人材不足と回答している。業界での人材不足の拡大は、同調査によると、2013年頃から始まったようである。新聞記事検索をしてみると4年くらい前からぽつぽつと物流業界での人材不足が、世間でも取り上げられ始めている。ちょうど国内景気が持ち直し始めた時期と重なっている。

 一方で、マクロ統計をみると、少々様相が異なってみえる。国土交通省「交通輸送統計年報」によると、国内の貨物輸送量(トンベース)は漸減を続け、過去20年(1995〜2015年)で25%減少している。1件あたりの貨物量も過去20年減少を続けている。1995年に2.13トン/件が2015年には0.98トン/件と半減である。輸送量が減少しているのに、なぜ人手不足が深刻化しているのか。その間、貨物件数は増え、荷物待ち時間は拡大し、結果的にトラックの積載効率が悪化している。小口化、多頻度化、時間効率の低下、これらが人手不足の深刻化を生み出している。モノやサービスのサプライチェーンの構造変化が起きている中で、物流のシステムは根本的なアーキテクチャを変えられず、そのひずみが人材不足や積載効率の悪化という形で現れていると考えられる。

 モノ・サービスのサプライチェーンは、人々の便利に合わせて進化してきた。その中で物流は、データを基にした需要予測や品ぞろえ検討を行う販売システムや、ロボットによる自動化や少量多品種を実現する生産システムにはさまれる形で、必要な時に必要な量のモノをデリバリーすることを要請されてきた。ユーザ起点のデマンドサイドの便利の先行が、サプライサイドの不便利を拡大させたということだろう。ヒトは「便利」にお金を払う。シェアリングエコノミーの時代にあって、デジタルの進化とともにモノ・サービスのサプライチェーンは今後も変革を続けて行く。便利の進化は止まらない。時間制約、空間制約に挑戦するサプライチェーン革新はまだまだ続くのである。