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株式会社日立総合計画研究所

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フューチャースクール

所属部署:研究第三部技術戦略グループ
氏名:那須 哲平

フューチャースクールとは

フューチャースクールとは、ICTツールを利活用した先進的な学習を行う学校教育のことを指します。日本では2009年12月に原口総務大臣(当時)が発表した「原口ビジョン」の中で初めて提唱されました。フューチャースクールでは、学校の授業において生徒一人一人がタブレット型パソコンを使用したり、教師が電子ホワイトボードを使用したりするなどして、児童が互いに教え合い学び合う「協働教育」の推進を目指しています。

ICTツールが整った環境の中で、児童は自分のパソコン上で出題された問題を解いたり、動画を見たりすることができます。また、電子ホワイトボード上で互いのアイデアを確認し合ったり、学習の成果物を公開することもできます。こうした取り組みは、従来の紙と鉛筆、黒板を使った教育方法に完全に取って代わるものではありませんが、ICTツールが新しい価値を付加することによって、生徒の好奇心や自主性を高め、ひいては教育効果を高めるものと期待されています。

海外での先進事例

学校教育にICTツールを導入する動きは、海外でも多数見られます。シンガポールでは、教育省と情報通信開発庁が共同で立ち上げた「FutureSchools@Singapore」と呼ばれるプログラムの下、2008年からある小学校において1人1台のタブレット型パソコンを支給し、ワイヤレスネットワーク、電子ホワイトボードといったICTツール環境の中での教育を開始しました*1。タブレット型パソコンでは、専用のペンを使用するため、キーボードを打つことができない児童でも文字を入力することができます。その結果、キーボード付きのパソコンに比べて児童の適応性が高いことが分かりました。児童はこうした環境の中、ある課題に対して、デジタルカメラの画像や録音した音声を使用して観察日記を作成しています。また、その観察日記を他のパソコンや電子ホワイトボードで互いに閲覧するといった新しい形での学習が可能となりました。児童のICTツールに対する適応性は高く、1年生の児童がわずか15〜18時間でこのようなデジタル成果物を作成できるようになったという事例も報告されています。また、教師に対する調査によると、従来の学習方法に比べて児童の集中力が増し、意欲を持って積極的に学ぶ姿勢が多く見られたとも報告されています。

韓国、英国、米国などの国でも同様の取り組みが行われています。いずれの国においても教育におけるICTツール利活用のメリットが明らかとなっており、今後世界中で導入が広がるものと見込まれています。

日本の取り組み状況と今後の展望

日本では、2010年度に総務省が「フューチャースクール推進事業」として、全国から選定された10の小学校においてICTツールを活用した実証研究を行いました。この結果は「教育分野におけるICT利活用推進のための情報通信技術面に関するガイドライン(手引書)2011」として、使用されたICTツールの紹介と導入までの流れ、授業での利用例、実証研究の中で生じた各種課題とその対応策などが、教育関係者の参考となるようにまとめられています。本ガイドラインによれば、パソコン上の図を参照して算数の学習をしたり、体育の運動の様子をパソコン付属のカメラで撮ってフォームを確認したり、社会科見学のレポートをパソコンで作成し電子ホワイトボードで発表するといった取り組みが行われました。こうした授業を体験した児童からは、「楽しい」「分かりやすい」「もっと受けたい」といった感想が寄せられました。また、客観的評価としても、児童達が集中し落ち着いて学習ができていたと報告されています。さらに、授業を行う教員側でも、最初の半年ほどは教育カリキュラム作成やICTツールの使用方法確認といった準備作業の負担が多いものの、次第に慣れていき指導力の向上が確認されたと報告されています。

現時点では実証研究の件数や期間が不十分なため、今後も引き続き事例やノウハウの蓄積、教育効果の検証、最適な運用方法の確立などといった施策を進めていく必要があります。今後、総務省では文部科学省と連携し、2020年までにフューチャースクールの全国展開を計画しています。

デジタルネイティブと呼ばれる現代の児童は、ICTツールに対して大人の想像以上に高い適応力を発揮するといわれており、今後フューチャースクールの展開によって児童の学習効果が飛躍的に高まることが期待されます。

参考文献:

  1. テイ・リー・ヨン、リム・チェー・ピン、カイン・ミント・スウィー著「フューチャースクール シンガポールの挑戦」(2011年)

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