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株式会社日立総合計画研究所

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インフラデットファンド

所属部署:研究第三部 ファイナンスグループ
氏名:藤井 佑二

インフラデットファンドとは

インフラデットファンドとは、年金基金など投資家から資金を集めて、インフラ事業の事業主体(特別目的会社など)に融資や債券などデットと呼ばれる資金を貸し出すことで、資金を運用するファンドのことです。事業主体が調達する資金は、資金の出し手に対する返済義務の有無により、返済義務のあるデットと返済義務のないエクイティ(株式)に分類されますが、インフラデットファンドの運用対象は、デットの中でも事業主体による債務の返済順位が高いシニアデットと、デットの中でも返済順位が低い劣後デットなどからなります。運用は、インフラデットファンドが直接デットを事業主体に貸し出す、またはインフラ事業向けに組成された既存のデットを、他の金融機関から購入することなどで行います。デットの運用によるリターンは、直接デットを貸し出す場合は金利収入、デットを他の金融機関から購入する場合は、金利収入に加え、デット購入時の金額と債務者が返済する金額の差などから構成されます。

積極化するファンドの組成

インフラデットファンドは、米国の資産運用会社Darby Overseas Investmentsが1998年にDarby Asian Infrastructure Mezzanine Capital Fundを組成し、その後、他の資産運用会社による組成が2006年頃から相次ぎました。民間調査会社Preqinの調査では、2012年3月時点で投資枠の募集を終了したインフラデットファンドは、27本存在し、合計97億米ドルの投資を集めています。インフラデットファンドの資産運用会社としては、独立系の資産運用会社が多いですが、欧米の大手保険会社や総合金融グループの資産運用子会社も手がけています。

インフラデットファンドによる投資枠の募集では、2012年3月時点で18本のファンドが合計108億米ドルと、過去集めた投資枠の合計を上回る規模の募集を目指しており、投資枠が10億米ドル規模を超える大型のファンドの組成もみられます(Preqin調査)。例えば、保険会社Aviva(英国)の資産運用子会社であるAviva Investorsと投資助言会社Hardian’s Wall Capital(スイス)は、2010年2月にポンド建ての投資枠5億ポンドとユーロ建ての投資枠5億ユーロから構成される、Aviva Investors Hadrian Capital Fund1の設立を発表し、現在投資枠の募集をしています。

背景には銀行の貸出余力低下が影響

インフラデットファンドの組成が活発化している背景には、金融市場の混乱、景気後退などにより、従来インフラ事業へのデットの提供主体である銀行の貸出余力が低下し、長期のデットの調達が難しくなっていることがあります。一方、インフラデットファンドは、年金基金などが投資家となっており、長期の資金を提供できるという点で、銀行と同様の機能を持ち、銀行に代わるデットの提供主体として、注目されています。

インフラ事業の資金調達規模をプロジェクトファイナンスの規模でみると、銀行の貸出余力の低下から、近年大きく落ち込んでいます。プロジェクトファイナンスとは、事業から発生する資金と事業の資産のみを担保とする資金調達形態で、一般的に事業規模が大きく、事業期間が20年や30年など長期にわたるインフラ事業で広く採用されています。プロジェクトファイナンスでは通常、インフラ事業の事業主体として設立された特別目的会社が、株式とデットにより資金を調達しますが、資金調達額の7割から9割が、主に銀行などからのデットによる調達となります。民間調査会社トムソンロイターによると、プロジェクトファイナンスを採用する予定の、全世界のインフラ事業が計画する資金調達額の合計は、2008年の3.3兆米ドルから2011年には1.0兆米ドルまで減少しました。

また、中長期的にみても、銀行によるプロジェクトファイナンス向けの貸出は、過去と比べて、困難になる可能性があります。2010年12月に発表された、国際的に業務を展開する銀行を対象とした新自己資本規制「バーゼル?」の、安定調達比率と呼ばれる規制によって、短期間での売却が難しい、流動性が低い資産に対して、元手の資金として、長期の安定した資金(資本や満期が1年以上の負債など)の調達が求められたからです。その結果、流動性が低い資産を保有するには、従来以上に長期の資金による調達が必要となり、プロジェクトファイナンスなどで長期のデットを貸し出すことが困難になる可能性があります。

デットの新たな出し手として今後も注目

銀行によるインフラ事業への長期のデット資金は、以上のような背景から、過去と比べて調達が難しい状態が当面続くと予想されます。そのため、デット資金の新たな提供主体として、インフラデットファンドへの注目が今後高まると考えます。日本では、国内のインフラ事業でのインフラデットファンドの活用事例はみられません。しかし、海外のインフラ事業に参加する事業会社が、銀行などからデットを調達できない場合に、活用する事例が今後出てくる可能性があります。また、銀行がインフラ事業向けのデットの売却先としてインフラデットファンドを活用する、あるいは年金基金など長期の投資家が安定したリターンが期待できる資産として投資する可能性も考えられます。

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