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株式会社日立総合計画研究所

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エタンクラッカー

研究第二部 エネルギー・環境グループ
氏名:中沢 健二

エタンクラッカーとは

エタンクラッカーとは天然ガスに含まれるエタンを原料としてエチレンなどの化学材料を生産する装置の名称である。エチレンはさまざまな化学製品の原料となるため、エチレンの生産能力が石油化学工場全体の生産能力を示す尺度になっている。

表1:エチレンから生成される主要生産品目
主要生産品目 主要用途
低密度ポリエチレンフィルム、ラミネート、電線被膜
高密度ポリエチレン成形品、フィルム、パイプ
塩化ビニルモノマー塩化ビニル樹脂
スチレンモノマーポリスチレン、合成ゴム
エチレンオキサイドポリエステル繊維・樹脂、界面活性剤

シェール革命による天然ガス価格の低下とエチレン製造への影響

新たな掘削技術の開発により、今まで困難であったシェール(頁岩[けつがん])層からのガス・オイルの掘削が可能となった、いわゆるシェール革命が、米国を中心として世界のエネルギー情勢に大きな影響を与えている。

米国では、既設パイプラインの利用が可能なことから、シェール革命によって天然ガスの供給量が増加し、価格が低下している。これに伴い、米国において天然ガスを原料としたエチレン生産が拡大している。米国ではダウ・ケミカルやエクソンモービル、シェブロン、シェルなどによって、大型のエタンクラッカープラントの新規建設が予定され、2017年頃には新たに年680万トン以上(2011年の日本の年間生産量669万トンに匹敵)のエチレン生産能力の増加が期待されている。このような動きによって、エチレンの価格低下が引き起こされることが今後予想される。

一方で、エチレンを生産する装置には、原油由来のナフサを利用するナフサクラッカーも存在する。ナフサクラッカーは原油から精製されるナフサを分解することにより、エチレンやプロピレンなどの化学材料を製造する装置である。特に、日本を含むアジアや欧州では、エチレンは主にナフサから生産されているが、ナフサ価格は原油価格にリンクしており、原油価格が高止まりしている現在、ナフサクラッカーから生み出されるエチレンのコスト削減は困難な状況である。

日本の石油化学産業への影響

安価な天然ガスからのエチレン製造の増加により、ナフサからエチレンを製造している日本の石油化学メーカーは競争力が低下しており、国内プラントの減産や撤退などの選択を迫られている。住友化学は、千葉工場のエチレン製造設備を2015年9月までに停止し、エチレンの国内生産を中止すると発表した(2013年2月1日)。三菱ケミカルHDも鹿島地区のエチレン製造設備2基のうち1基を停止する計画を発表した(2012年6月11日)。

そのような状況から、国内石油化学メーカー各社は競争力確保のための海外進出や、事業ポートフォリオの再構築を進めている。出光興産と三井物産はダウ・ケミカルと提携し、安価なシェールガスから化学材料を製造・販売する合弁会社を2016年に米国に設立することを公表した。一方で、エチレン製造に比べて経済環境の変化に需給が左右されにくい分野で事業を拡大し、事業全体の安定化を模索する動きもみられる。例えば、三菱ケミカルは医薬品カプセルなどを製造・販売するクオリカプス、旭化成は除細動器などを製造・販売するゾールメディカル、三井化学は独ヘレウス社の歯科材料事業を買収するなど、医療分野での事業割合を高めている。このように大手化学メーカー各社は、シェール革命によって引き起こされた変化への対応を進めている。

天然ガスからのエチレン製造の課題と今後の動き

シェール革命によって化学材料の原料が天然ガスに移行することにより、新たな課題も発生している。例えば、従来ナフサから生産されていたプロピレンやブタジエン、ベンゼンなどは、エタンからは直接生産できない。ナフサクラッカーを代替する形でエタンクラッカーが拡大すれば、これらの原料の供給力低下による価格上昇が懸念される。なお、プロピレンからは汎用プラスチックであるポリプロピレンなど、ブタジエンからは自動車タイヤなどに利用されるスチレンブタジエンゴムなど、ベンゼンからはプラスチックの原料であるスチレンなどが生成される。

シェール革命に起因するエタンクラッカーの拡大は、工業製品の原料需給の関係に大きな変化を及ぼす可能性がある。ナフサ代替によって需給ギャップが発生すると予想されるプロピレンやブタジエン、ベンゼンなどでは生産プロセスの革新技術の開発や事業化が始まっており、それが日本の石油化学業界やプラントメーカーにとって新たなビジネスチャンスとなる可能性がある。

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