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株式会社日立総合計画研究所

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マテリアルズ・インフォマティクス

所属部署:研究第三部 技術戦略グループ
氏名:宇田 裕一

1.マテリアルズ・インフォマティクスとは

マテリアルズ・インフォマティクスとは、データマイニングなどの情報科学を通じて新材料や代替材料を効率的に探索する取り組みです。これまでの材料探索は研究者の経験と鋭い直感に依存していましたが、物質特性をコンピュータ上で高精度に計算した材料データベースや人工知能などを活用するマテリアルズ・インフォマティクスによって、時間とコストを大幅に削減することが期待されています。同手法は2011年に米国オバマ政権が打ち出し、既に2億5,000万ドル以上を投資している科学政策Materials Genome Initiative(MGI)をきっかけに注目され、欧州でもマテリアルズ・インフォマティクスの関連コンソーシアムが立ち上がるなど、世界的な動きとして広がっています。日本でも2015年物質・材料研究機構(NIMS)を中心とする推進体制が確立され、既に具体的な成果として京都大学を中心とした研究グループによる超低熱伝導物質発見などが注目されています。

2.マテリアルズ・インフォマティクス実現の背景と現在の課題

マテリアルズ・インフォマティクスは材料科学と情報科学の融合分野とも呼ばれ、両分野の技術発展により利用が加速しました。「京」をはじめとするスーパーコンピュータの高性能化、材料科学データベースの大規模化、センサなどによるデータ取得のリアルタイム化が徐々に推進され、膨大なデータを高速で取り扱える環境がマテリアルズ・インフォマティクスを後押ししています。これまで以上に材料データベースの重要性も高まっています。例えば米国のマサチューセッツ工科大学(MIT)を中心とする研究機関では6万6,000種以上の物質が登録されたデータベースが構築されており、日本でもNIMSが高分子材料・無機材料・超伝導材料・金属材料など幅広い分野のデータ蓄積を行っています。データベースの整備が新材料開発で必須となるため、各国間でのデータ共有や企業間・国家間の協調に関するルール作りに向けた議論が進む動きも見られます。
一方、マテリアルズ・インフォマティクスを担う人材には材料科学の専門性に加え、データサイエンティストの能力も求められ、その育成は今後重要な課題となることが予想されます。世界的にデータサイエンティスト不足が指摘されており、ニューヨーク市が1,500万ドルを投じコロンビア大学にデータサイエンス研究所を設立するなどの取り組みが始まっています。日本でも総務省統計局がウェブ上で講義サイト「データサイエンス・オンライン講座」を開設しており、データサイエンティストの教育環境整備は各国で進むと予想されます。

3.今後の展望

現在米国では、材料分野でのデータマイニングツール設計開発や高分子データベース整備などに取り組む大学間コンソーシアム、Center of Hierarchical Materials Design (CHiMad)にMGI予算が投入されています。日本国内でも、蓄電池材料・磁性材料・伝熱制御材料などの分野における新材料探索をめざし、使いやすいデータベースの構築やデータ科学的なツール開発が産官学一体となって推進されています。内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の対象課題の一つである「革新的構造材料」でもマテリアルズ・インフォマティクスを活用した研究開発の推進が予定されるなど、今後も同手法の発展を後押しする環境整備に対し、各国政府の投資活発化が予想されます。
一方で、同手法を活用して材料開発受託サービスを提供するスタートアップ企業も出現し始めており、自動車や医療をはじめ新材料を渇望してきた多くの産業で、業界横断や従来の常識を打ち破る新しい機能を持った材料が発見される可能性があります。今後、マテリアルズ・インフォマティクスがもたらす新たな発見、さらなる技術革新の動向が注目されます。

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