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株式会社日立総合計画研究所

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HRテック

所属部署:研究第三部 社会・生活グループ 
氏名:森嶋 豊幸

1.HRテックとは

 人事労務領域におけるモバイル端末やビッグデータ、AIなどの先端テクノロジー活用の総称です。金融とIoT、AIを組み合わせた「フィンテック」や教育との組み合わせによる「エドテック」に続く新しい適用分野です。経営者にとっては適切な人材配置、従業員にとっては自身のニーズと仕事のアンマッチ解消などをHRテックにより実現することで生産性の向上などが期待されています。その適用範囲は人事管理、採用、評価、配属、福利厚生、健康経営、企業文化浸透、教育・人材開発、退職予測など幅広い分野に及びます。
 米国でHRテックが広まった契機は、2011年の映画「マネーボール」です。映画「マネーボール」は、米メジャーリーグの弱小球団であったオークランド・アスレチックスが過去のデータ分析に基づいた選手編成で試合に勝ち、強豪チームになったという実話に基づく映画です。この時期は、企業活動のデジタル化・モバイル化などに伴い、人事労務に関する膨大なデータが取得・利用可能となった時期でもあります。人材確保、維持の重要性が増し、人事部門の経営へのさらなる貢献が求められる中で、人材活用のためのビッグデータ分析が進展してきました。
 CB Insightsによると、全世界における2015年度のHRテック関連スタートアップ企業の資金調達額は、4年前の2011年度から約8倍(約25億ドル)にまで拡大しています。また、IDC、Bersin by Deloitteによると、HRテックに関わるソフトウェアのグローバル市場は、2014年度から2019年度にかけて年平均成長率約9%で拡大すると予測されています。

2.HRテックへの注目が一層高まる理由

 近年、グローバル競争激化に伴う意思決定スピードの加速やイノベーション圧力の拡大など変化の激しい事業環境に対応するため、事業体制やプロジェクトの構築における迅速な人材の獲得、最適な配置が企業経営の課題となっています。また、米国においてはミレニアル世代と呼ばれる1980年代から2000年代初頭までに生まれたデジタルネイティブの世代が職場で最も多い世代となり、管理職層にさしかかっています。この世代においては、企業への依存度が低く、離職への抵抗感が少ないことが事業運営上の懸念事項となっています。このような社会的背景を踏まえて、各企業とも企業を支える人を戦略的にどう扱い、維持するかが経営者の最重要課題になっています。このような中、人に関わるさまざまなデータの利活用が可能になっており、それを分析するためのビッグデータ、AIなどといった急速な技術革新もあいまってHRテックへの注目は一層高まっています。
 日本においても人材獲得競争の激化やミレニアル世代の拡大といった動きは当てはまります。さらに、労働力人口の減少、長時間労働に対する規制の強化など法律・制度の整備なども加わり、日本企業の多くは優秀な人材の確保や生産性の向上が課題と考えています。人材管理の巧拙が起業価値向上を左右する状況下、HR分野の取り組み、それを支援するためのテクノロジーへの期待が高まっています。

3.HRテックの活用例

 HRテックの活用例は、採用から退職に至るまでの人事業務のワンストップ管理、適切な人材配置の提案、退職リスクの予測、コンピテンシーの見える化、人材派遣会社の蓄積したデータを活用した求職者と企業のマッチングサービスなど非常に広範にわたります。また、HRテックの適用レベルも、これまでの過去の人材管理データを元にした単純な経年比較から人材管理の改善、悪化に関わる要因分析や人材リスク予測分析にまで高度化しています。
 例えば、欧米の先進企業では、人材に関するデータを活用し、社内の人材の流動化と適材適所への配置転換につなげています。スイスに本社を置くCredit Suisseでは、人材の発掘、育成、定着のために社内の人材に関するデータを収集・分析し、人事施策に活用するプログラムを2011年から推進しています。このプログラムの下で、社内のジョブポスティングを進め、2014年までの3年間で社内の空きポストに関する情報公開の割合を全体の20%から80%に拡大しました。この結果、相対的に社内に長く勤めている人の管理職に占める割合が40%から60%以上に増加しました。人材の発掘、育成、定着にとどまらず、こうした人事データの活用先は今後ますます広がっていくと考えられます。

4.今後の課題

 人事KPI(残業時間や離職率など)だけでなく、ビジネスKPI(生産性や顧客満足度など)の改善に効果が高い人事施策を抽出するためには、事業活動を含めた人事領域以外のデータも広く分析の対象にする必要があります。また、人事施策導入効果分析のリアルタイム性を高めるためには年に数回の従業員サーベイのみでは難しいと考えられます。現在、米国企業では頻度の高い簡易アンケートの実施による従業員の意識調査や継続的なフィードバック、コーチングなどによる上長とのコミュニケーションが活発化しています。これはデータの収集や活用をいかに頻繁にして従業員にフィードバックをかけていくかという課題への対応の現れであると考えられます。HRテックの導入により今後このような課題を解決することで、迅速な人事施策の導入、経営パフォーマンスの向上が期待されます。

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