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気候変動対策で先を行くアメリカの地方自治体
執筆:Samuels International Associates, Inc.

アル・ゴア前副大統領のドキュメンタリー映画「不都合な真実」が、先日アカデミー賞を受賞した。議会公聴会のゴア証言に対するメディアの論調も好意的で、京都議定書に批准しなかったアメリカも、やっと気候変動の重要性を認識し始めたように見られる。実際、今では数年前まで聞かれた「地球温暖化には科学的根拠が無い」という議論はすっかり影を潜め、気候変動は「一部の環境保護団体が訴えるマイナーなイシュー」から、「2008年大統領選挙の行方を決定する重要なイシュー」の一つと言われるまでになっている。

連邦議会でも今年に入って既に何度か気候変動に関する公聴会が開催されており、民主党のナンシー・ペロシ下院議長は、夏前には気候変動法案を可決させたいと意欲を見せている。しかし、連邦政府より一足先に、州政府は既にさまざまな気候変動対策を取り入れている。

アメとムチによる気候変動対策

どんな政策でもそうであるが、州政府の気候変動対策にも「アメとムチ」の両方が採用されている。「アメ」は補助金や税控除などの奨励策、「ムチ」はさまざまな義務や規制である。「ムチ」政策に目を向けると、50州の3分の1近い14州が温室効果ガス削減目標を定め、今後10年〜20年の間に京都議定書が基準としている1990年(州によっては2000年)レベルまで排出量を削減しようとしている。また、全体の2分の1近い23州は、州内の発電事業者に対して、電力の一部を水力や風力など再生可能エネルギーにするよう定める「ポートフォリオ義務」を課している。また、電力料金の一部を気候変動対策基金に充てている州が23、州や地方政府施設の調達電力の一部を再生可能エネルギーにするよう定めている州が9つある。

再生可能エネルギーポートフォリオ

「アメ」政策は財源を必要とするため、それほど多くないが、代表的な「アメ」政策の一つにバイオ燃料奨励がある。既に15州がエタノール生産者にインセンティブプログラムを導入し、11州がエタノール混合ガソリン販売者に対するインセンティブプログラムを提供している。また、政策ではないが、既に38州が自主的に「温室効果ガス排出元目録」を作り、セクター別の排出量を把握している。

これらの政策は、州ごとに立法された「気候変動行動計画(Climate Change Action Plan)」に基づいて実施されている。アラスカ州とノース・カロライナ州には行動計画が無いが、それぞれ「アラスカ気候影響評価委員会」、「ノース・カロライナグローバル気候変動州議会委員会」を設置してこの問題に取り組んでいる。この二つを含めると、既に全米の半数以上である31州が何らかの気候変動対策を立法化している。連邦議会では、いまだに法案が提出されているレベルである事を考えると州政府の動きは早い。

ガバネーターからコンサベーショネーターへ

50州の中で目だって積極的な動きを見せているのがカリフォルニア州である。州知事アーノルド・シュワルツネッガーは映画「ターミネーター」とガバナー(知事)の造語「ガバネーター」とも呼ばれている。当初、環境保護団体は、共和党の同氏が大企業寄りの政策を取るのではないかと懸念した。しかし、予想に反して全米に先駆け次々に地球温暖化対策を導入していることから、最近のある会合では「コンサベーショネーター(コンサベーション+ターミネーター)」という新しいあだ名をちょうだいしている。

この一年間を振り返っても、(1)温室効果ガスを2020年までに1990年レベルに削減させる、全米初の包括的温室効果ガス削減法(AB32)を成立、(2)バイオガス車で先行するスウェーデンと代替燃料開発の共同研究に調印、(3)英国と科学者の交流や共同研究など多面的な気候変動研究の協力合意に調印、(4)32億ドルの太陽パネル補助金拡大法を成立、(5)排出権取引に向けた調査の開始など、活発な動きを見せている。

カリフォルニア州のGDPはアメリカ全体の10%を占め、フランス一国と肩を並べる経済規模を持つ。温室効果ガス排出量ではテキサス州に次いで全米第二位、米国全体の6.7%を占めており、同州のグリーン政策が全米に与える影響は大きい。

2004年二酸化炭素排出量トップ10

地域的イニシアチブ

こうした個々の州政府による努力に加えて、複数の州がまとまった地域的温室効果ガス削減イニシアチブも生まれている。2005年12月には米国北東部の7州が「地域温室効果ガスイニシアチブ(Regional Greenhouse Gas Initiative:RGGI)」を設立した。キャップ・アンド・トレードプログラムによる排出量削減を目指すもので、メンバーは現在9州に増えている。今年2月には、米国北西部の5州が「西部地域気候アクションイニシアチブ(Western Region Climate Action Initiative)」を発足させ、こちらもキャップ・アンド・トレードによる排出削減を目指している。

なぜ州政府は先行しているのか

なぜ州政府は連邦政府に先行して気候変動対策を取っているのだろうか。国土の広い米国では地域によって大きく事情が異なり、例えばトウモロコシ生産州にとっては、既に連邦政府から補助金が出ているエタノールを州内で奨励するメリットは大きい。また、連邦政府が決めたルールを義務付けされる前に、自分たちに適した対応方法で州内の体制を整えておきたいという理由もあるだろう。

しかし、最大の理由は温暖化が与える影響に対する懸念である。さまざまな規制を導入しても州民の支持が無ければ実施にこぎ付けることは難しい。例えば、2000年、2001年と電力危機に見舞われたカリフォルニア州にとって適正な価格の電力供給は死活問題である。天然ガス価格の高騰で電力価格も上昇している昨今、代替発電源の割合を増やすことはエネルギー安全保障の観点からも重要な問題である。また、2つの地域イニシアチブがいずれも海岸に面した州から発足しているのも、海面の上昇がこれらの州に直接影響を与えるためである。連邦政府の対策が遅れて温暖化が進んだ場合、直接被害を被るのは自分たちだという危機感が「アメ」よりも「ムチ」の多い気候変動対策を可能にしている。

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