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温暖化防止に向けて求められる個人の意識とライフスタイルの変革
日立総研 客員研究員(在ロンドン)
城野 敬子

温暖化に対する危機感の高まり

2月上旬、ロンドンはこの冬二度目の降雪に見舞われ、早朝の白い積雪の中でレンガ造りの町並みの美しさが際立った。しかし、この2回の積雪を除いては、私がロンドンに来て初めての冬は、「90年ぶりの暖冬と晴天」ともうわさされる穏やかな天候続きである。秋口には「ロンドンの冬は、耳あてがいるような寒さの日もあるよ。来る日も来る日も灰色の空にうんざりして、もう我慢できないと限界に達したころに、ようやく春が来るんだ。」と会う人ごとに脅かされたが、拍子抜けするような日々が続いている。日本も記録的な暖冬らしいが、ブリュッセルで働くドイツ人からクリスマスに届いたEメールには「ブリュッセルも暖かい。こんなのは欧州の冬じゃない。2006年は地球温暖化を実感する最初の年になってしまったね。」とあった。友人のイギリス人は「米国コロラド州に住む娘が『今年の冬の米国の気象は本当に異常。ブッシュ大統領のおひざ元である米国中西部でさえ、この異常気象は温暖化のせいで、何か防止策を講じないとまずいという意見が広がっている』と言っていたわよ。」と教えてくれた。2007年2月2日、2001年以来6年ぶりに国連が発表した報告書でも、温暖化の原因は人間の活動にあることが明記され、対策の加速を促すなど、温暖化防止は喫緊の課題との危機感は世界的にますます高まっている。

京都議定書目標達成確実となるイギリス

イギリス政府は、京都議定書で定められた削減目標達成に向けて温室効果ガスの排出量削減に取り組んでいるが、2007年1月31日に発表された推計結果によると、イギリスの2005年の温室効果ガス排出量は1990年レベルを15.3%下回った。これは京都議定書の削減目標値12.5%を超えるペースでの減少であり、イギリス政府は削減目標達成に自信を見せている。ただし、二酸化炭素については、2010年までに1990年レベルから20%削減するという目標達成は難しく、二酸化炭素排出量削減に向けて一層の努力が不可欠だと考えられている。2006年12月に発表された「Pre-Budget Report 2006」(2007年春の予算成立に向けてイギリス経済や財政の最新動向、政策の方向性などについてまとめた報告書)にも、エネルギー関連科学技術への資金の供給、排出権取引市場の整備、そのための国際的な検討を金融の中心地であるロンドンのシティで行うことなどの政策が盛り込まれた。このように温暖化防止策を進める中で困難な課題の一つが、二酸化炭素の排出量の40〜50%を占めるといわれている家庭からの排出量をいかにして削減するかである。

課題は家庭での取り組み推進

私が知る範囲では、温暖化防止を含め、家庭での環境保護の取り組みは、日本に比べてイギリスが特別に進んでいるわけではないという印象である。例えば、友人のイギリス人は「みんなこのままではいけないと思っているわ。だから、ゴミの分別収集だって始まったし。」というが、現在行われている分別収集はそれほど厳密なものではない。ロンドンでの分別収集の方法は区ごとに異なるが、例えば、私が住む地域では、汚れの少ない紙類、ビン、缶、ペットボトルがリサイクルの対象となる。これらは、区が配布するオレンジ色の透明なビニール袋に入れて回収される。しかし、それ以外のゴミは、壊れた電球も、プラスチックも、すべて一緒に黒い不透明なビニール袋に無造作に入れられて回収されていく。地域ごとにリサイクルセンターがあるものの、住民が古い電池1個、ダンボール箱1枚をわざわざそこまで届けているのか疑問である。また、日本でも問題になっているスーパーマーケットのレジ袋は、イギリスでも大量に使われている。こちらではまとめ買いの習慣があるためか、一回の買い物量が多く、それを詰め込むビニール袋の量は圧巻である。複数回使える厚手のビニール袋も店に準備されているが、利用している人はまだまだ多くはない。

個人の意識とライフスタイルの改革に向けて

イギリス政府は、家庭からの温室効果ガス排出量を削減するために、二つの方向から政策を展開している。第1に、地道な情報提供や教育を行い、個人の意識改革を進めようとしている。2006年12月には、政府の主要なホームページであるDirectgovに、買い物、旅行、飲食、リサイクル、エネルギーや水の節約、園芸、コミュニティや学校、職場など生活のあらゆる場面での環境保護のアイデアや関連情報を一カ所にまとめたホームページが開設された。また、子供のころから環境保護の意識を醸成することにも力を入れており、学校で子供たちに環境教育を行うとともに、学校をコミュニティの環境保護の中心的存在とすることを目指す「持続可能な学校(Sustainable School)」という政策を展開している。この一環として、米国副大統領であったアル・ゴア(Al Gore)氏が主演し、現在話題の映画「不都合な真実(An Inconvenient Truth)」をイングランド地方のすべてのセカンダリー・スクール(Secondary School:公立の中学校に相当)に配布することも2007年2月に決定した。

第2に、課税や税制優遇措置など、金銭面のインセンティブを与えることで、個人のライフスタイルの変革を促そうとしている。最近の動きとしては、自動車燃料税(2006年12月7日から1リットルあたり1.25ペンス引き上げ)や空港使用税(2007年2月1日から2倍に引き上げ)の引き上げなどが挙げられる。また2016年までに新築住宅をすべて一定の「排出量ゼロ」基準を満たすものにするために、こうした住宅の建築を促進する時限的な税制優遇措置を2007年度に導入する予定である。さらに、長期的な視点からは、排出権取引制度を個人の排出に適用する政策(Personal Carbon Trading)についても検討を進めている。これは個人にも排出枠(炭素ポイント)を設定し、ガスや電気などのエネルギー消費や航空機利用の際、料金だけでなく、炭素ポイントも支払う仕組みを導入し、省エネによって排出量を減らし余ったポイントを他の人に売ったり、不足した分を他の人から購入したりすることができるようにするというものである。この制度についての検討を行った報告書が2006年11月に発表されたが、この報告書では、排出権取引制度の個人への適用によって、個々人が自分の排出状況を把握しやすくなるとともに、炭素税の導入よりも公平な形で排出量削減を達成できる可能性があると評価されている。実際の導入にあたっては解決すべき課題は多いが、将来の政策の選択肢の一つとして、政府はその導入可能性についてさらに検討を続けているところである。

このように、イギリスでも家庭からの温室効果ガス排出量を減らすための、個人の意識やライフスタイルの改革が求められている。こうした中で、チャールズ皇太子の行動が注目を集めている。チャールズ皇太子は1980年代初めから環境に優しい有機農業に取り組み、それをダッチー・オリジナルズ(Dutchy Originals)というイギリスで人気の有機食品ブランドに発展させるなどの実績を挙げ、イギリスでは、環境保護の取り組みに熱心な人物と認識されている。2006年12月に、チャールズ皇太子は、専用ジェット機やヘリコプターの利用を減らし、一般の航空機や電車の利用を進めることなどで「自らのライフスタイルや公務を変革して環境への負荷を軽減する」と宣言し、その二酸化炭素排出量削減効果について、2007年6月に報告書を発表するとしている。

イギリスの家庭からの温室効果ガスの排出量は2005年には減少傾向を示したが、チャールズ皇太子のみならず、国民一人ひとりに環境に優しいライフスタイルが定着し、この減少傾向が継続するかはまだ不透明である。

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