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電子化が進展するイギリスの入国審査
日立総研 客員研究員(在ロンドン)
城野 敬子

虹彩を登録すれば、入国審査はあっという間?

この1年間でイギリス出入国を数回行った。入国審査の際には「EU域内(のパスポート保持者)」と「EU域外(のパスポート保持者)」は別々の列に並ぶことになるが、「EU域外」の列は時間がかかることが多い。飛行機を降りてやれやれロンドンに帰ってきたと思っても、その後、疲れた子供を連れて入国審査の行列に並ばなければならない。これは結構くたびれる。

先日、「イギリスでは虹彩の情報を登録しておけば入国審査はあっという間だ」という話を聞いた。日本でも2007年1月から、出国審査と搭乗手続きを連携させ同時進行で行うとともに、指紋情報などを利用して電子化することを目指す実証実験が、成田空港で始まったそうだが*1、イギリスでは虹彩の情報を活用し電子的に入国審査を行うシステムがすでに複数の空港で導入されているらしい。自分の生体情報をイギリス政府のデータベースに保管するうんぬんと考えるとあまり気持ちの良いものではないが、狭い機内で入国カードを記入しなくても、ぐずる子供を連れて行列しなくても、荷物を抱えてパスポートを取り出さなくても、あっという間に入国できるというのはとても魅力的である。

出国時に空港のターミナルで登録できると聞いて、4月上旬に家族で出国した際、早速登録に行ってみた。虹彩の登録を行う事務所はヒースロー空港の出発ターミナルにある。搭乗手続きを行ってセキュリティ・チェックを受けた後、近くの係員に「虹彩の登録はどこでできるのですか?」と尋ねると、「2番ゲートのそばだ」と教えてくれる。行ってみると、まさに瞳のマークの看板を掲げた小部屋に、受付カウンターがあり、その隣にパソコンとプリンターやカメラのような周辺機器が2台ずつ置かれている。受付とパソコンの前には、それぞれ男性と女性の係員が座っている。「登録したいのですが」と男性に話しかけると、「イギリスにはどのくらいの頻度で入国するのか?」「今、ロンドンに住んでいます」というやりとりの後、登録ができることになった。

IRIS(Iris Recognition Immigration System)*2とは

このシステムは、IRIS (Iris Recognition Immigration System: 虹彩認識入国システム) と呼ばれている。瞳の虹彩のパターン写真を取り、それをデジタルコードに変換してデータベースに保管する。入国時には、虹彩認識カメラを見るだけで虹彩の写真が取られ、データベースに保管されたコードと比較される。これで個人が特定されれば、入国管理の自動ゲートを通ることができるというものである。虹彩の登録は5〜10分程度で済み、いったん登録しておけば、自動ゲートを通過するのは20秒ほどで済むという。

IRISに登録できるのは、(1)イギリス永住者、(2)イギリスに6ヶ月以上滞在予定で、滞在期間が2ヶ月以上残っている者、(3)半年に2回以上イギリスを訪問する者などである。ロンドン近郊にあるヒースロー空港やガトウィック空港のほか、マンチェスター空港、バーミンガム空港などの地方空港でもIRISが利用されており、出発ターミナルに虹彩の登録を行う事務所が設置されている。

イギリス政府が推進するeボーダーズ(e-Borders: 国境管理の電子化)*3

イギリス運輸省(Department of transport)によれば、イギリスの空港を通過する人は2003年現在で年間2億人。現在の傾向が継続すれば、この人数は2030年までに4〜5億人に増加する見込みであり、出入国管理の負担は増える一方である。そこで、国境管理に関係する省庁間のデータ共有とリスク評価の方法を一新すべく、イギリス政府はeボーダーズというプログラムを推進しており、IRISはその主柱をなすものである。

eボーダーズは、具体的には、陸路、海路、空路いずれにおいても、すべてのイギリス入国、出国予定者の情報とリスク評価を関連省庁で電子的に共有し、通常の出入国管理業務の効率化を図る一方で、要注意人物を早期に特定することなどでテロの脅威や国境を越えた犯罪への対応の強化を図ろうとするプログラムである。eボーダーズでは、Semaphore、IRISの二つのパイロットプロジェクトが開始されている。Semaphoreは、航空会社がイギリス出入国予定者の情報を提供し、それを事前にデータベースに登録された要注意人物のリストと照合しチェックをかける仕組みを確立することを目指すプロジェクトである。2004年11月に、プロトタイプ開発など1,500万ポンドの3年契約がIBM社と締結され、着手されている*4。IRISについては、フランスのSagem Defense Securite*5と、ソリューション開発と運営、サポートメンテナンスの契約が2004年4月に結ばれた。2005年6月にはヒースロー空港で導入が開始され*6、その後ロンドンの地下鉄テロに伴う一時中止や、システムの不具合などもあったものの、2006年5月にはパイロットプロジェクトの段階を脱却することが決定された*7。イギリス政府は、SemaphoreとIRISの両プロジェクトが2014年までに完全に稼動することを目標としている。

登録はしたものの・・・

さて、IRISに登録すべく空港で私たちが行った手続きは、申込書などの記入はなく、パスポートを提示して、パソコンのそばのカメラの前に座って、顔写真と虹彩の撮影を行うのみであった。瞳をスクリーンの所定の位置に合わせる必要があり多少コツがいるが、5〜10分程度で簡単に終了した。手続きが短時間で済むためか、登録希望者がまだそれほど多くないのか、事務所には数名の登録希望者が待っているだけで、混雑はしていない。

8歳の娘については、女性係員に「子供は8歳から登録することができる*8が、自動ゲートは一人で通過しなければならない。自動ゲートで虹彩がうまく認識されないことがあり、その場合はゲートに閉じ込められる可能性があるが大丈夫か」と念を押された上で、登録しようとしたが、瞳をうまくスクリーンの所定の位置に合わせることができず、登録できなかった。2歳の息子は、8歳以上という年齢制限があるため、問題外である。結果として、今回登録できたのは大人だけであった。今後、大人だけが旅行する時にはIRISの自動ゲートを通過できるが、子連れで旅行となると、子供の虹彩が登録されていないため、結局従来通り入国審査の列に並ばなければならない。8歳以上という年齢制限は、子供の成長に伴い虹彩の情報が変化するのか、技術的な限界なのかわからないが、技術進歩によって、幼児も簡単に登録できるようになってくれれば助かるのだが。

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