ヘッダをスキップ

印刷用

株式会社 日立総合計画研究所トップページへ

日立トップページへ

検索 by Google

イギリス政府に見る行政サービスオンライン化の課題
日立総研 客員研究員(在ロンドン)
城野 敬子

日本でもイギリスでも身近になったオンラインの行政サービス

日常生活のちょっとした疑問をインターネットで調べてみる。オンラインでショッピングをする。パソコンが苦手だった20年前の私には想像もできなかったことだが、今では私を含め多くの人にとって、こうした光景は全くありふれた出来事になっていると言ってよいだろう。

2006年4月まで暮らしていた東京では、粗大ゴミ収集の申し込みや図書館の本の予約サービスなど、住んでいた区のオンラインサービスを結構利用していたような気がするが、ロンドンでは政府のウェブサイトにアクセスすることが少なくない。子供が入園するナーサリー(保育園)を選ぶ際には、オンライン上で公開されている評価報告書を検討した*1。2006年9月には、チャイルドシート装着が義務付けられる対象が拡大すると聞き、わが家はどう対応したらよいのかを確認した*2。またある日、庭に大きなハトが死んでいて驚いた。知り合いのイギリス人には「袋に入れてゴミ箱に捨てればいいのよ」とこともなげに言われたが、イギリスで鳥インフルエンザが問題になっていた時期でもあり、不安を感じながら、鳥インフルエンザの危険性はないのか、どのように処分したらよいのかを調べた*3。これらの疑問はいつも、イギリス政府のポータルサイトであるDirectgov*4にアクセスすることで解決できた。

イギリスでは会計検査院が5年ぶりに評価報告書を発表

そういえば、現在2007年7月だが、日立総研が各国の先進的な電子政府の取り組みを分析し、日本政府に向けた政策提言をまとめた「電子政府−ITが政府を革新する」*5という書籍を出版したのが、2000年の7月10日である。それからちょうど7年になる。当時は「電子政府」という言葉がブームになりつつあり日本政府の重点プロジェクト(ミレニアムプロジェクト*6)としても電子政府が話題になっていた。まさに「電子政府元年」ともいうべき時期であったが、政府のウェブサイトで取れる情報やサービスはまだまだ限られていたし、そもそもそれらにアクセスしようという人も多くはなかったと思う。7年がたち、今は個人的にはイギリスの政府のウェブサイトを便利に利用させてもらっている。しかし、イギリスの行政サービスのオンライン化は一般にどう評価されているのだろうか。

そんなことを考えていたところ、2007年7月13日、イギリス会計検査院(NAO: National Audit Office)が、「Government on the internet: progress in delivering information and services online」*7という報告書を発表し、イギリス政府の行政サービスのオンライン化について、議会に報告を行った。このテーマについては2002年以来5年ぶりの報告だそうである。この報告書によれば、完全にオンライン化された行政サービスの割合では、イギリスはヨーロッパを中心とした28カ国中5位にランキングされている。また、イギリスで過去3ヶ月間に政府の情報やサービスを利用するためにインターネットを利用した人の割合は24%(2005年)である。ヨーロッパを中心とした26カ国中12位であり、必ずしも高い割合ではないが、2003年の21%、2004年22%から緩やかな増加傾向が続いている。また、「情報の新しさ」「情報の見つけやすさ」「使いやすいか、わかりやすく書かれているか」などを今回アンケートした結果と2001年の同様のアンケート結果を点数化して比較したところ、政府のウェブサイトの全般的な品質は2001年に比べ改善していると評価している。

費用と利用者ニーズの把握を通じた投資効果の向上も未実現

しかし、イギリスの行政サービスオンライン化にもまだまだ課題が残されているようである。報告書では、大きく言って、3つの問題点が指摘されている。

第一に、全般的な品質は向上したとするものの、(1)内部の検索エンジンが使いづらいこと、(2)省庁のウェブサイトは平均17,000ページに上る膨大な情報を掲載しており、求める情報を見つけにくいことなど、使い勝手に問題が残っている。これを解決しようとする取り組みはすでに着手されており、それが、先に紹介したポータルサイトDirectgovと、ビジネス向けのポータルサイトbusinesslink.gov.co.uk*8である。政府はこの二つのポータルサイトを「スーパーサイト(supersite)」と呼び、これらにオンライン上の政府の情報やサービスを集約しようとしている。

第二の問題は、サービスをオンライン化する費用を政府が把握していないということである。前回2002年の報告書でも同様の問題が指摘されたが、今回の報告書では、この分野についてはほとんど改善が見られないとしている。IT関連の一括契約の一部としてウェブサイト関連のサービスを外部に委託している省庁が多く、委託先から詳細な費用の報告を受けていないケースが散見される。省庁の4分の1近く、政府機関全体では4分の1以上が、ウェブサイト関連の費用を把握していないため今回の調査に回答できず、回答を寄せた政府機関の中でも、5分の2が推計値を回答してきたという驚くべき状況である。こうした中で、会計検査院が行った試算では、政府のウェブサイト関連の費用は年間2億800万ポンド(約694億円)に上るという。

第三の問題は、利用者に関するデータの未整備である。この点も前回の報告書に続いて指摘された問題だが、政府機関の6分の1が利用者に関する調査を依然として行っていない。また、調査を行っている政府機関でも、そのデータを利用者ニーズの把握に生かしていないところが多いと言う*9

行政サービスオンライン化推進の原理原則

日本では、電子政府がブームとなった2000年前後から「ワンストップのオンラインサービス」「利用者ニーズを調査・分析し、その結果をオンラインサービスの改善に反映することで投資効果を向上させることが重要」というキャッチフレーズがいろいろなところで掲げられてきた。これらの実現には複数省庁の連携や継続的な取り組みが必要であり、私が便利と思って利用しているイギリス政府のウェブサイトでも、実はまだ達成されない課題であるようだ。今回の報告書を見て、「ポータルサイトが存在しない」「全く費用を把握していない」「全く利用者調査をしていない」という極端な状況は別にしても、ポータルサイトが設置され、費用や利用者ニーズの分析がある程度なされたとしても、さらに使いやすいポータルサイト、さらになる費用と利用者ニーズの分析が求められるのではないかと感じている。結局、これらは行政サービスオンライン化を進める際の永遠の課題、逆に言えば、原理原則なのであろう。

免責事項や著作権など