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イギリスCCTV(Closed Circuit Camera: 監視カメラ)事情
日立総研 客員研究員(在ロンドン)
城野 敬子

イギリスの町にあふれるCCTV

ロンドンで暮らしていてCCTVという文字を1日に何回目にするだろうか。CCTVとは、いわゆる監視カメラだが、空港や鉄道の駅、レストランやパブ、スーパーマーケットなど人の集まる場所では当たり前。「こんな小さなお店でも・・・」と思うような小規模な雑貨店でも「CCTVで監視中」という表示を見かける。「(自動車のスピード違反を取り締まる)監視カメラあり」の標識は地方の高速道路でも頻繁に目にするし、有名なロンドンの二階建てバスの中でもCCTVが稼働している。

1990年代に政府がCCTV設置を推進、イギリスは「CCTV大国」に

イギリスは、犯罪の抑止、探知、調査などに役立てるために、数多くのCCTVが設置された「CCTV大国」として有名だ。現在イギリスにあるCCTVは420万台、14人に1台の割合で存在することになるそうだ*1。冒頭に書いたように「CCTVがそこら中にあるなぁ」という印象を持ってはいたが、イギリスで暮らす人間は毎日平均300回CCTVに撮影されている*2というから、私が気付いている以上にたくさんのCCTVがあり、私が思っている以上に頻繁に撮影されているらしい。

イギリスに監視カメラが急増したのは1990年代のことである。1990年代前半以降、荒廃した中心市街の商店街での犯罪対策、そしてテロ対策のために政府はCCTV設置に力を入れた。1990年代に内務省(Home Office)は犯罪防止予算の78%をCCTVの設置にあて、10年間で5億ポンドがCCTV関連に投入された*3という。

進化するCCTV

こうしてイギリス中に設置されたCCTVの使い道は、テロのような深刻な事件の防止から、軽犯罪防止や風紀の改善まで、幅広い。そして、犯罪・テロ対策のツールとしてのCCTV利用方法は進化しつつある。

最近の話題を拾ってみると、例えば、イギリスの複数の空港は、テロ防止のための新たなセキュリティー強化策の一つとして、ビデオ・アナリティクス(Video Analytics)という高機能のCCTVの導入を検討している。現在イギリスの空港のCCTVで撮影した映像はコントロールセンターにいる人間が監視しているが、ビデオ・アナリティクスでは、コンピューターを利用して自動的に映像を監視し分析する*4。オランダのアムステルダムの空港やイギリスの一部の鉄道の駅ではすでに設置されているこのシステムは、「バーチャル・トリップワイヤ(tripwire: (地雷の)仕掛け線)」が非常事態体制を作動させるのが特徴である。例えば、滑走路に進入する不審車をコンピューターが認識すると、これが「バーチャル・トリップワイヤ」になるわけである。このほか、人の流れに逆らって不自然な動きをする人物や放置された不審な荷物を特定することが可能だそうだ。

このようにテロ防止のために高機能のCCTVの導入が進められる一方で、軽犯罪防止、風紀向上策としてのCCTV活用も、最近話題になっている。ここで使われているのは、スピーカー付きの、いわば「話すCCTV」である。ゴミを散らかしたり、器物を破損したり、暴力をふるったりといった反社会的な行動がCCTVを通じて発見された場合には、コントロールセンターの監視員がスピーカーを通じてその場で注意を促すのだそうだ。2007年4月に政府は、このプロジェクトを20地域で展開し50万ポンドを投じると発表した*5。このプロジェクトに参加する地域では、プロジェクト開始の初日に子供たちを招いて、スピーカーを通じて注意をする役目を経験させる計画で、招待される子供の選考も行われたようである。政府は、2007年はじめに行った試験利用xでは大変な効果があったと意気盛んであるが、街角での振る舞いをどこかで誰かに監視されているだけでなく、それに対する注意の声が聞こえてくるとは、漫画の世界のようでもあり、なんともいえない違和感がある。

「監視社会」との批判も根強いCCTVの実験場

個人情報保護と公共機関の情報公開推進を担当するイギリス政府の独立機関、イギリス情報委員会(Information Commissioner)は、公共のものであれ、私的なものであれ、CCTVの設置にあたっては、個人情報保護法(Data Protection Act 1998)の対象となるかどうかに考慮し*6、対象となる場合は個人情報保護法を順守するよう注意を促している。また、イギリス情報委員会は、(1)CCTV設置の目的や法的責任者を明確に文書化すること、(2)設置の場所を慎重に選ぶこと、(3)設置されていることを知らせる標識を掲げること、(4)記録した映像の利用目的を限定すること、(5)プライバシー侵害につながるような映像の流出や加工を避けるため、一定期間以上映像を保存しないことなど、CCTVの設置や利用についての詳細なガイダンスを2000年7月に発表している*7。しかしその実効性については疑問視する声もあり、現在設置されているCCTVの90%がイギリス情報委員会のガイダンスに従っておらず、多くが個人情報保護法にも違反していると批判するNPOもある*8

空港で人の動きを自動的に分析する高機能CCTVや、街角での振る舞いに注意をする「話すCCTV」などは、犯罪・テロ対策として従来のCCTV以上に効果的であると期待されてもいるが、「監視社会」「プライバシーの侵害」との批判が高まることも避けられない。世界のCCTVの20%が存在する*9という「CCTV大国」イギリスは、CCTVの実験場にほかならず、今後もCCTVの進化に伴い発生するであろう問題にどう対処していくか、要注目である。

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