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イギリス議会における「クイーンズ・スピーチ(Queen’s Speech)」
日立総研 客員研究員(在ロンドン)
城野 敬子

クイーンズ・スピーチとは

2007年11月6日、エリザベス女王は恒例の「クイーンズ・スピーチ」を行った。クイーンズ・スピーチとは、イギリス議会の開会にあたって、女王が演説を行う儀式*1である。クイーンズ・スピーチと聞いて、初めは「なぜ女王が議会で演説をするのだろう」と素朴に疑問に思ったが、考えてみれば、女王の権限は限定的なものになってきている*2とはいえ、イギリスは君主国であり、君主である女王が施政方針を発表することになっているのだ。現実には、予算案などでも戦略の設定や政策の発表が行われるため、クイーンズ・スピーチだけで必ずしもすべての重要法案をカバーしているわけではないが、伝統や原則を大切にするイギリスらしいイベントといえる。

当日は、エリザベス女王が馬車でバッキンガム宮殿から議会まで移動*3し、貴族院で演説を行うらしい。報道された映像を見ると、正装した女王が貴族院の玉座からクイーンズ・スピーチを読み上げるさまは、なかなか重々しく、壮麗である*4

クイーンズ・スピーチにみる今期議会の重要法案

2007年のクイーンズ・スピーチは「わが政府はイギリス国民の高まる熱望(aspiration)に応え、すべての人に安全を保証し、議会と国民にさらなる力を委ねる政策を進める。わが政府のプログラムは、より良い教育、住宅、保健、児童向けサービス、よりクリーンな環境を求める国民の熱望に対応するであろう」という一文に始まった。2006年のクイーンズ・スピーチ*5が「わが政府はイギリスが国内外で直面する挑戦に対応することを目指した政策を追求する」という一文で始まったことに比べ、党の支持率アップを狙った内向きものとの批判もあるようである。2007年の内容は新鮮味に欠けるという声も多い*6

また、政治的な駆け引きの末に閣僚が内容を決定し、最終的に首相が意見を述べるというプロセスを経て作成されるため*7か、盛り込まれる項目が多岐にわたり、総花的な印象もある。2007年のクイーンズ・スピーチ*8に盛り込まれた項目を見ても、教育訓練、住宅・再開発、都市計画、ヘルスケア・社会福祉、児童サービス、ワークライフバランス、雇用、休眠口座の扱い、年金、温暖化、エネルギー、鉄道、司法、移民、テロ対策、経済安定、金融システム、政治資金、北部アイルランド、スコットランド、EU改革、国際援助、イラク、アフガニスタン関連などなど、多岐にわたっている。その中から、主要な法案のポイントを要約しておこう。

  • 教育訓練*9
    16歳で義務教育を修了した後も引き続き高等教育や高度な訓練を受ける若者の数を増やすための取り組みを推進中。この取り組みをさらに進め、2015年までに18歳の若者全員が教育訓練に参加しているようになることを目指す*10。また、成人にも技術訓練を受ける新たな権利を提供。
  • 住宅*11
    より手に入りやすい住宅の供給や再開発推進を担当する、住宅コミュニティ庁(Homes and Communities Agency)を創設。
  • ヘルスケア*12
    ヘルスケア・サービスの安全性や品質を監視する新たな監督機関(Care Quality Commission)を設置。病院が衛生基準を満たさない場合には罰金を科す権限を持つなど、強力な権限を付与。
  • ワークライフバランス*13
    仕事と家庭生活のより良いバランスを達成することを助け、子供のいる人が仕事を継続できるようにするために、フレキシブル・ワーキング制度の対象を拡大する法案(現行、6歳未満の子供、または18歳未満の障害を持つ子供のいる親が対象)。
  • 地球温暖化対策*14
    イギリスをCO2排出量削減について法的拘束力のあるフレームワークを導入した世界最初の国にする法案。すなわち2050年までの長期的なCO2削減計画に法的フレームワークを導入。
  • エネルギー*15
    ガス供給プロジェクトへの民間投資を促進するための法制度を整えるなど、クリーンで安全で安価なエネルギー供給を進めるための法案。
  • テロ対策*16
    国民に不可欠の権利と自由を保護しながら、公衆を守るために必要な権力を、警察とその他省庁が持てるようにするための法案。DNA情報を含めた情報共有によりテロ捜査を支援すること、テロ容疑者を起訴なしで拘束できる期間を延長すること(現在28日間)など。

クイーンズ・スピーチの内容と議論の行方は分かりやすく公開

クイーンズ・スピーチは、イギリス議会において会期中もっとも華やかなイベントと考えられており*17、マスコミも盛んに報道する。また政府は、スピーチに盛り込まれた項目を一覧で発表し、そのすべてについてブリーフィング資料を発表する*18。さらに、議会のホームページでは、クイーンズ・スピーチで挙がった法案の審議状況を一覧で容易に確認することができるように工夫されている*19。国民に政策の動向を分かりやすく伝えるという点では、クイーンズ・スピーチとそれを軸にした情報提供が一役買っているのではないかという印象を受けた。

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