交通渋滞緩和を目指すイギリスの混雑税(Congestion Charge)−ロンドンに続きマンチェスターにも導入計画
日立総研 客員研究員(在ロンドン)
城野 敬子
城野 敬子
車社会のロンドン
有名な二階建てバス、1863年以来の長い歴史*1を誇る(それゆえか故障も多い)地下鉄など、公共交通機関が古くから発達しているにもかかわらず、イギリスの首都ロンドンは、日本にいたころ予想していた以上に車社会である。私自身、ロンドンでは日に何回も運転しなければ日常生活がスムーズに運ばない。
まず子供の学校への送迎。イギリスでは小学生が一人で登下校することは認められていないが、娘のクラスメイト14人中、親と一緒に徒歩で登校しているのは一人、それ以外は全員、親が自動車で送迎している。3人兄弟のクラスメイトの母親は「あちらに送って行き、こちらに迎えに行き、まるで専属運転手みたいよ。バスを使っていてはとても間に合わないわ。」と言う。
次に、日常の買い物。イギリスに来る前は、イギリス人は買いだめをしないで毎日少しずつ買い物をすると聞いていたが、見ていると、決してそうとも言えない。高齢者には少量の買い物をして徒歩で帰っていく人も多いようだが、それ以外の多くの人は大型カートいっぱいに驚くほどたくさんの買い物をしており、自動車で買い出しに来ているようだ。
ロンドンへの混雑税導入の経緯
さらに、ロンドン中心部への通勤に自動車を使っている人も少なくないと聞く。そのせいもあってか、ロンドン中心部の渋滞は深刻である。今から8年前、2000年時点で、ロンドンの渋滞はイギリス国内のみならずヨーロッパ全体で見ても最悪の状況と言われていた。ロンドン中心部を運転するドライバーが費やす時間の半分は渋滞の行列の中、渋滞による時間的損失を金銭に換算すると毎週200万〜400万ポンドに上ると推計されていたそうだ*2。
そこで、ロンドン市は2001年7月に包括的な交通戦略(Transport Strategy)を発表し、さまざまな対策*3を行っているが、その重要な柱の一つが、2003年2月に導入された*2混雑税混雑税である。
混雑税の仕組み
現在、認定を受けたタクシーなど免除の対象となる自動車以外が、月曜日から金曜日(ただし祭日は除く)の7時から18時の間にロンドン中心部の混雑税課税区域*4に入ると、8ポンドの混雑税が課せられる*5*6 。課税区域周辺には、自動車の出入りを監視するカメラが設置されており、このカメラから撮影した自動車の高精度のデジタル画像は、ナンバープレート認識ソフトウェア(90%以上のナンバープレートを正確に分析)によって、データベースと照合される。照合の結果、混雑税を支払い済みの自動車や支払う必要のない自動車の画像は、自動的に削除される*7。
混雑税は、オンライン、携帯電話、電話、店頭、セルフサービスの機械、郵便などで支払うことができる*8が、支払いが課税区域を運転した翌日になった場合は10ポンドに値上がりし、翌日中に支払いを行わない場合には罰金が課せられることになっている。このため、混雑税支払い義務が発生した日の翌日の深夜の時点で、まだ支払いを行っていない自動車については、担当者がデータを確認し、罰金通知(Penalty Charge Notices:PCNs) を送付する。
マンチェスターでも混雑税導入の計画
前述したようにロンドンの渋滞はまだまだ解消にはいたっていないものの、TfL(Transport for London=ロンドン交通局)の報告書*9によれば、2006年に課税区域に入る自動車は2002年に比べて21%減少したというから、以前より状況は改善されているらしい。このように混雑税は一定の効果があるとの評価を受けて、課税区域は、2007年2月には西に拡大され*2、従来の22平方キロメートルから42平方キロメートルへと倍増した*10。
さらに、ロンドンに続き、マンチェスターでも混雑税導入の動きが具体化しつつある*11。2008年6月9日、政府はマンチェスターの混雑税導入計画に対し、財政支援を行うことを決定したと報じられている。10自治体の代表から成るグレーター・マンチェスター地方自治体協会(AGMA)は、2013年に混雑税を導入することを目指し、それに合わせてバスの増便や新しいトラム、鉄道など公共交通機関の充実を図る28億ポンドの計画を提案しており、政府がこのうちの15億ポンドを支援する予定である*12。
マンチェスターへの混雑税の導入が実現すれば、イギリスではロンドンに続いて2例目となる。実際の導入には10の自治体のうちの7つ以上の賛成が必要であるが、住民には反対の声も多く、3自治体がこの計画に反対、または計画支持を取り消している*11ため、計画の実施が難航することも予測されているが、今回の動きは、渋滞解消、環境対策推進の観点から、混雑税が注目を集めていることの現れであることは間違いない。
参考文献、注釈
- ロンドン地下鉄の歴史に関するTfL(Transport for London:ロンドン市の交通戦略を実行し交通システムを管理運営する団体。2000年に設立)のウェブサイト
- TfLのウェブサイト。混雑税導入の背景
- 交通戦略(Transport Strategy)に関するロンドン市ウェブサイト
- Tflウェブサイト。混雑税課税区域
- TfL「ロンドン中心部混雑税課税区域について知っておくべきこと(What do I need to know about the central London Congestion Charging zone?)」
- TfLウェブサイト。課税対象と金額など
- TfLウェブサイト。混雑税の仕組み
- TfLウェブサイト。支払い方法
- TfL「第5回年次報告書(Impacts monitoring, Fifth Annual Report, July 2007」(2007年7月)
- 「Central London Congestion Charging Western Extension-Early Results」
- インディペンデント紙記事 (2008 年6月10日)
- タイムズ紙記事(2008年6月)
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