再生可能エネルギー戦略展開の準備を進めるイギリス政府−求められる消費者の意識改革
日立総研 客員研究員(在ロンドン)
城野 敬子
城野 敬子
求められる再生可能エネルギー利用拡大
洞爺湖サミットでは、地球温暖化対策が主要議題となったが、地球温暖化防止のみならず石油価格高騰の折から、化石燃料依存を脱却する必要性がこれまでになく高まっている。東京ではこの夏「再生可能エネルギー世界フェア」が開催されると聞いた。この催しを主催する再生可能エネルギー協議会によると、「再生可能エネルギー」とは国際的な言語であり、「太陽がある限り地球が存在し、地球上で絶えることない再生可能なエネルギー」だそうだ。発電分野では、太陽光発電、風力発電、廃棄物発電、バイオマス発電など、熱利用分野では、太陽光熱利用、廃棄物熱利用、バイオマス熱利用などが挙げられている*1。
イギリス政府の再生可能エネルギー戦略案
地球温暖化防止のため、イギリス政府は、2008年から2012年の間に温室効果ガス排出量を12.5%削減するという目標を設定している。また、2050年までにイギリスの二酸化炭素排出量を現在よりも60%減らすことも2003年のエネルギー白書で約束した*2。
これらの目標達成の手段のひとつとして、再生可能エネルギーに対する関心は高い。イギリス政府は「再生可能エネルギーとは、風力など、環境の中で自然に継続的に発生するエネルギーで、その多くの源は太陽(太陽エネルギーによって発生する地球の天候変化)であるため、本質的に枯渇することはないと考えられるエネルギーである」と定義し*2、その利用促進の目標を設定している。具体的には、2020年までにエネルギー利用量の20%を再生可能エネルギーとするというEU域内で合意された目標の枠組みの中で、イギリスは2020年までにエネルギー利用量の15%を再生可能エネルギーとすることが提案された*3。これは再生可能エネルギーの利用を現状の10倍に増やすことを意味している。
この度(2008年6月26日)、イギリス政府は、この「2020年までにエネルギー利用量の15%を再生可能エネルギーとする」という目標達成に向けた「再生可能エネルギー戦略案」(以下、「戦略案」)を発表した。今回公表された戦略案では、これまでの政策に加えて
- 再生エネルギー利用の義務を強化し、2020年までに、30〜35%の電力が再生可能なエネルギー源から発電されるものとする
- 再生可能な熱利用を大幅に増やすことを促進すべく新たに金銭的なインセンティブメカニズムを導入
- 家庭や様々な施設での熱や電気の発生技術への効果的な経済支援の拡大
- 配電のための計画システムの援助
- 新しい電力グリッドインフラのための適切なインセンティブ
- バイオマス埋め立てに対する規制を進めることにより廃棄物からエネルギーを得る潜在的可能性を最大限に利用
- 食品価格などへのマイナス効果などの社会・環境面の懸念を限定的なものにするためにすべてのバイオ燃料が厳しいサステイナビリティ基準を満たすことを要求
- 特にイギリスが市場リーダーになれそうな分野で効果的な支援を確実に行うことで、再生可能エネルギーに関する新しい技術の開発を奨励
- 明確で長期的な政策フレームワークを提供することでイギリス企業の利益を最大化
消費者は好意的?
政府が行った世論調査では、84%の人が再生可能エネルギーの利用に対して好意的、64%の人が風力発電設備の5キロ以内に住んでもよいと考えているといい、政府は再生可能エネルギー利用促進に対して、広範な支持が得られていると考えている*4。
政府は「よりクリーンで環境にやさしい経済国となるために、できるだけ早く取り組みをすすめなければならない。最も効果的な方法で、消費者の負担を最小化しつつ、こうした変化を起こすために努力する。」*5,*6と前向きだ。
しかし、消費者は総論としての再生可能エネルギー利用促進に好意的ではあるものの、実際のコスト負担などについての理解が不十分であるという指摘もなされている。アーンストアンドヤング(Ernst & Young)社が2008年6月に発表した報告書*7によると、2020年の排出量削減と再生可能エネルギー利用拡大の目標達成のためには、1000億ポンドの投資が必要で、これをまかなうためにイギリスの消費者のエネルギー関連の支出がさらに53億ポンド追加されることになるという。これは各家庭のエネルギー関連支出が213ポンドの増加、現状よりも20%増加することを意味するそうだ。アーンストアンドヤング社は「消費者は(1)燃料・原油価格の高騰、(2)地球温暖化対策のためのコスト、(3)エネルギー効率向上のために必要な投資という三重苦に直面する。しかし、そのことを消費者は自覚していないことが問題だ。」と指摘している。アンケート調査の結果、イギリス人の半数以上が、今後1年でエネルギー関連支出が200ポンド増えたとしても省エネに取り組むつもりはないといい、3分の2以上のイギリス人は、地球温暖化対策のためにエネルギー関連支出が増加するのを受け入れるつもりはないと回答しているという。
今回発表された「戦略案」については、政府は2008年9月26日までパブリックコメントを受け付けており、その後2009年春までに最終的な戦略が決定される予定である*5,*6が、省エネ促進、コスト負担の問題など、消費者の意識改革に向けた取り組みも不可欠のようである。



