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2008年「欧州文化首都(European Capital of Culture)」−文化主導型地域再生に取り組むリバプール(Liverpool)
日立総研 客員研究員(在ロンドン)
城野 敬子

20年以上の歴史を持つ「欧州文化首都」プロジェクト

2008年に入って「欧州文化首都」という言葉を初めて耳にした。2008年の「欧州文化首都」開催地の一つがイギリスのリバプールであり、リバプールでは2008年1年間に350以上ものイベントが行われる予定だという*1

「欧州文化首都」とは、EUを中心に行われている文化プロジェクトで、1985年以来すでに20年以上も続いているのだそうだ*2。このプロジェクトでは、現在は毎年2つの国から1都市ずつが開催地となり、さまざまな文化的なイベントが行われる。もともとは、1985年に「欧州文化都市(European City of Culture)」と称するプロジェクトとして始まり、その後「欧州文化首都」と改名したものである。その目的は、欧州の文化の豊かさと多様性、欧州各国の文化が共有する特性に光を当て、相互理解を深めて欧州市民としての感情を醸成することとされている*3

「欧州文化首都」に選ばれた都市は、文化面のみならず、観光客の増加など地域再生に向けたメリットを享受することも期待できる。このような社会経済的メリットを期待して、「欧州文化首都」に立候補する都市間の競争が激化したため、2005年からは、EUメンバー各国が順番に「欧州文化首都」開催国となる仕組みに改められた。このため2019年まではどの国で開催されるかが決定済みである*4。2008年はイギリスのリバプールとノルウェーのスタバンゲル(Stavanger)が「欧州文化首都」の開催地となっている*5

■地域再生加速の契機として2008年「欧州文化首都」に期待するリバプール

リバプールは、イングランド北部に位置する人口約44万人*6の都市である。まだ訪れたことはないが、手元のガイドブックによると、ビートルズの故郷として有名なリバプールは、ロンドンに次ぐイギリス2番目の貿易港*7であり、産業革命時代にはアメリカや西インド諸島との交易で繁栄*8を謳歌(おうか)したらしい。

しかし、近年、とりわけ1980〜1990年代に経済的に衰退し、困難に直面する中で、地域再生への取り組みが始まった*9,*10。1980年代初めに市内のアルバート・ドック(Albert Dock)を再開発し有数の観光地に転換したことや、1984年にイギリスで初めての国際的なガーデン・フェスティバルをリバプールで開催したことを皮切りに、港湾地域の住宅地への転換などを進め、以前は荒廃していた港湾地域や市の中心部への人口回帰が起こったといわれている。

2003年に、リバプールが2008年「欧州文化首都」に決定したことは、地域再生の動きに弾みをつけ、現在も、幅広い取り組みが展開されている。例えば、市の中心部では、(1)キングズ・ドック(Kings Dock)への大型アリーナの建設、(2)駅前であるライム・ストリート・ゲートウェイ(Lime Street Gateway)地域の数百万ポンド規模の改修計画、(3)欧州最大規模の商業地域プロジェクトといわれる、9億ポンドを投じたパラダイス・ストリート(Paradise Street)プロジェクト*11などが進められている。また、市全体でのホテルの開発や22の優先地域での産業育成のための財政支援なども実施している*12

しかし、依然として、リバプール市の区の60%が全国最悪の10%を占めるという貧困を抱えるなど*13課題は残されており、リバプール市では、2008年の「欧州文化首都」開催がさらなる地域再生の起爆剤となることが期待されている。インディペンデント紙によれば、「欧州文化首都」の開催は、リバプール市に200万人の訪問者、20億ポンド以上の投資、14,000人の雇用をもたらすと見込まれるという*14

リバプール市は、「欧州文化首都」に選ばれたことに伴う、社会、文化、経済、環境面の影響を評価することを目的に、リバプール大学などに「インパクト08(Impacts 08)」と称する調査研究を委託している*15。2007年5月に発表された調査研究結果では、すでに、経済、雇用、文化に幅広い効果が見られることが指摘されている*16。具体的には、リバプールへの旅行者の中で初めてリバプールを訪れる人が占める割合は41%となり(ほかの都市では新規の旅行者は平均26%)、旅行者の支出は4億ポンド以上を超えているそうだ。2000〜2005年にかけて、雇用創出も全国平均以上のスピードで進み、建築・エンジニアリング、ホテルやバー、クリエイティブ産業の雇用が急増していると報告されている。

文化主導型地域再生効果測定モデルを開発中

「インパクト08」の目的は、文化主導の地域再生の効果を測定することだけではない。こうした効果を測定し評価する革新的なモデル「リバプールモデル(The Liverpool Model)」を開発すること自体が、「インパクト08」の重要な目的になっている*17。その際には、雇用創出や観光業の伸びなど数量的な指標だけでなく、市民の生きた経験を考慮に入れ、長期にわたって(立候補前:2000年、立候補と指名:2002〜2003年、イベント準備期間:2004〜2007年、開催年:2008年、その後)、「欧州文化首都」の効果、経験、意識や理解の変化を研究することになっている。

また、これまでの同種の研究の問題点を克服するために、(1)影響範囲の広さを認識すること、(2)結果だけでなくプロセスにも焦点をあてること、(3)ほかのプログラムの影響を排除すること、(4)地域の特殊性などを考慮すること、(5)政策主導型の実用的な研究を行うこと、(6)全体像を把握できる研究モデルを開発すること、などに配慮して研究が進められている。「インパクト08」の研究分野は6分野にわたり*15、具体的には、

  • 経済面への影響(地域内投資、観光業、雇用、産業部門の競争力など)
  • 文化システム(文化関連産業の特色、文化部門での技術の育成など持続性、投融資などを通じた「欧州文化首都」関連組織の貢献など)
  • 文化へのアクセスと参加(文化活動への参加者と非参加者に関するデータ、市民の幸福やクオリティ・オブ・ライフへの「欧州文化首都」の影響など)
  • アイデンティティーやイメージ(「欧州文化首都」前後のリバプールの位置づけ付けの変化、国内外からの訪問者などがリバプールに関連付ける意味の変化、地域のアイデンティティーの強さや自信など)
  • 物理的インフラと市の持続可能性(文化施設の種類や質、そこまでの交通手段、環境面での持続可能性など)
  • 哲学と運営のプロセス(「欧州文化首都」の運営と開発の土台となる手法や哲学の効果、またそれらの強みをどのようにして他の文化主導型地域再生プログラムに活かすことができるのかについて検討)

に関する調査研究が行われる。

他事例への応用に期待

リバプール以外に、これまでにも「欧州文化首都」開催を活用した地域再生の取り組みが各地で行われており、アテネ(1985年開催。「欧州文化首都」の前身である「欧州文化都市」の最初の開催地。交通や文化施設が大幅に改善し、世界で6番目に旅行者の多い首都となる。オリンピックを開催)、グラスゴー(1990年開催。貧困都市という評判からの名誉挽回(ばんかい)のきっかけとなり、年間旅行者数は1983年の1万人から現在400万人に増加)、ダブリン(1991年開催。観光業の振興、再開発、投資促進を目指す。2003年にはBBC調査で「生活するには欧州最良の都市」となる)、リール(2004年開催。ユーロスター開通により交通ハブとなったが、町としてのアイデンティティー確立、訪れる価値のある旅行先としての地位確立にも成功)などの例が挙げられる*18。「リバプールモデル」が確立されれば、こうしたイベント後の政策の展開や成功事例の他地域への応用などに役立つものと期待される。

「欧州文化首都」のみならず、「リバプールモデル」をイギリス国内外のほかの事例に適用することも考えられている。例えば、2012年のロンドンオリンピックに伴い行われる「文化オリンピアード(cultural Olympiad*19、2008〜2012年に開催)」*20にも「リバプールモデル」が活用される予定である*15

日本でも数年来、地方自治体などを中心に地域再生への取り組みが進められており、文化主導の地域再生に対する関心は高い。日本と欧州では歴史や文化的背景も異なるため、「リバプールモデル」をそのまま日本の地域再生に活用することは困難かもしれないが、2008年のリバプールでは、開催される数々のイベントのみならず、今後の研究成果にも要注目である。

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