中国における賃金の二重構造
復旦大学国際関係・公共事務学院
副教授(博士) 陳雲
副教授(博士) 陳雲
2001年12月に中国はWTO加盟を果たし、驚異的な価格競争力で輸出規模を拡大してきた。この価格競争力の源泉は中国の賃金水準の低さにある。
1978年以来、中国のGDP成長率は個人経営や小規模零細企業などを除いた従業員1人当たり賃金上昇率を上回って推移してきた(ただし、1990年を除く)。しかし1999年以降は、賃金上昇率がGDP成長率を超えるようになった。また1980年代以来、国有企業の賃金上昇率は集団所有企業や民営企業、外資企業を上回っており、1996−2002年は特にその開きが大きくなっている(『中国統計年鑑』2005年版)。従来から指摘されている通り、国有企業がその体制の特徴から、常に過剰分配傾向にあることが分かる。
留意すべき点は、中国の製造業の担い手には都市部の労働力だけではなく、農村地域から移ってきた1.2億人に上る「農民工」も含まれることである。これによって、工業部門では賃金の二重構造が形成されている。一部の都市では経済発展水準が高く、平均所得水準も高いが、最低賃金基準(月給)が非常に低い状況にある。珠江デルタ地域では農民工の月給は500−600元に過ぎず、一日12時間働かなければならない(『国際金融報』、2005年10月21日)。
2004年1月に国家労働・社会保障部が「最低賃金に関する規定」を公布した。各地域で最低賃金基準を作る際に、3種類の計算法(比重法、エンゲル係数法、社会平均賃金法)によることが可能とされ、また少なくとも二年に一回は同基準を調整しなければならないと規定された。現実には、一部の地域で長年にわたって全く調整が行われていないケースがある。また経済発展水準の差もあり、最低賃金の地域間の開きも大きい。同部が公表した「各省・自治区・直轄市(市)最低賃金基準」によると、最低賃金が最も高いのは上海市、江蘇省、深
市の690元/月で(上海は2006年9月1日より750元/月に切り上げ)、最も低いのは甘粛省の340元/月である。また地区内の地域差を考慮し、さらに数種類の最低賃金ランクを設定している。なお、最低賃金の中に個人が納めるべき社会保険料を含むか否かが地区によってばらばらであり、単純比較ができない点にも留意が必要である。例えば、上海市と北京市の最低賃金には含まれないが(別途、支給する)、深
市では含まれている。
広東省は最近2006年9月1日に最低賃金基準の引き上げを行った。広東省では七回目の調整であり、その伸び率は最も高い17.8%である。新基準では省内の地域発展水準に合わせて、5種類の最低賃金が定められた(780元/月、690元/月、600元/月、500元/月、450元/月)。しかしどの基準を採用するかは各地域の判断に任せられているため、地方政府は企業の反応を考慮し、低い種類を選ぶ傾向が見られる。例えば、省都である広州市も最初は690元/月にしようとしたが、反対が大きかったため(広州市が690元/月にするならば、780元/月の存在する意味が全くなくなるではないか)、780元/月となった経緯がある(『経済参考報』、2006年9月4日)。
一方、実際の労働力市場での賃金水準はどうなっているのであろうか?広東省統計局の農村調査隊が2005年に行った比較的大規模なサンプル調査によると、農民工の平均賃金は905元/月であることが分かった。また、広州市労働力市場サービスセンターが行った全市の労働集約型企業(245社)の労働者(20万人)に対する調査では、賃金の中位数は943元/月であり、これは同時期の広州市の最低賃金基準より38%高い。さらに、時間給でみると広州市1時間当たりの賃金は10元を超えており、最低基準の4.66元より倍以上高い。
上海市は国内で最も早く最低賃金基準を導入した地域の一つであるとともに、1993年から2006年の13年間に合計14回の調整を実施し、年平均の引き上げ率は10.3%に達した。上海市労働・社会保障局の発表によると、個人が納めるべき社会保険料を算入すれば、2005年の最低賃金はすでに上海市従業者平均賃金(2,662元/月)の44.3%に達している(これはいわゆる「社会平均賃金計算法」による計測で、最低賃金に関する国際的基準は地元平均月給の40〜60%と言われている)。一方、2005年の北京市の平均賃金は2,734元/月で、これで計算すると、北京市の最低賃金は社会平均月給の24%しかない。ただし、上海市と同じように社会保険料を算入すれば、やはり40%を超えるという。
ルイス(A.Lewis)が最初に考案し、後にレイニス(G.Ranis)とフェイ(J.Fei)により精密化された有名な「二重経済モデル」に関して、「改革・開放」前の中国においては、戸籍制度など労働力の自由移動を制限する厳しい制度が存在したため、このモデルは当てはまらないと言ってよい。しかし1980年代以来、三大制度が緩和されたことに伴い、このモデルが当てはまり始めているとの指摘がある。事実、農村の過剰労働力は都市部に向けて流動化していることが顕著に現れている。中国における賃金の二重構造はこのような現実を反映していると思われる。
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