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第9回:他者のために

ワシントンDCのナショナル・プレス・クラブ最上階で、日米両国からの120人の出席者が見守る授賞式において、ジョージア州ストンマウンテン・シャイロー高校出身の、ジャセンカ・ベシックさんは、少し涙を浮かべながら彼女の社会貢献活動を語った。


彼女は、1990年代初め、ボスニア内戦を逃れて家族とともに母国を離れ、ドイツに移り住む。生まれて間もない幼児のころであった。ドイツで8年間生活するが、それ以上のドイツでの生活は困難な状況となった。そこで、ボスニアに再び帰国するか、それとも新天地(彼女の言葉による、Country of Opportunity)である米国をめざすかの選択を迫られる。彼女の両親は、ボスニアに戻るのではなく、米国をめざすことを決断する。米国には、チャンスとともに、試練も彼女たちを待っていた。ジョージア州難民キャンプでの生活は想定した以上の試練であったが、難民支援団体「Refugee Family Services(難民家族サービス)」など、受け入れる米国の社会は温かかった。


ベシックさんを支援した難民支援団体が当地で難民の子供たち向けに開催したサマーキャンプにおいて、彼女は、自分以上の試練に曝(さら)されている一人の少女の存在を知ることとなる。6歳のアフリカ難民の少女が性的虐待を含むあらゆる虐待を受けながら、キャンプでひとりでなんとか生活を送っていることに、べシックさんは大きな衝撃を受けた。そこで、彼女はボランテイアのチュータやサマーキャンプのカウンセラーとして、「Refugee Family Services(難民家族サービス)」に参加し、活動を開始する。彼女が影響を与えた難民の子供たちは100人を超える。これは、自らが難民としてサービスを受けた経験を生かそう、なんとか恩恵を返そうとしたものだと、べシックさんはスピーチにおいて述べた。そして、何年かの後、すっかり見違えるように成長したアフリカ難民の彼女と、キャンプで再会することとなる。


べシックさんは高校に進んだ後、「Rise Above」プログラムを立ち上げる。これは、中学生のための放課後補修プログラムであり、34人の高校生が40の中学校を対象とした指導を行っている。この秋、大学に進学したべシックさんは、自分が大学に進学してもプログラムが続くように、その運営を後輩に指導しているのである。今回の受賞は、このプログラムが対象であった。


20年に満たないベシックさんのこれまでの人生の過酷さと多難、それを見過ごすことのなかった米国の人々、そして、多難な経験を生かし他者を思う彼女の気持ちが、出席した120人に等しく抱かれた。彼女は、一生忘れられない言葉として、キャンプでの体験を通じて教えられた次の言葉を引用して、受賞のスピーチを締めくくった。


“What we do for ourselves dies with us. What we do for others and the world remains and is immortal.” (注)

私たち自身のためになすことは、私たちの死と共に失われるが、他者と世界のためになすことは、失われず、死滅することはない。


ベシックさんは、今年第20回を迎えた吉山賞の受賞者の一人である。日立製作所社長であった吉山博吉さんは、この5月、95歳の天寿を全うされたが、吉山さんの真に米国の青少年を思う気持ちは、受賞者の肉体と精神を通じて永遠に死滅することはないであろう。

  • (注)Albert Pine(没1851)英国の作家

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コメント一覧

他人のために何かをする。なかなか難しいと思います。

特に「フィランソロピー」の概念が薄い日本社会では、他人に親切にするのに躊躇する場合が多いと感じています。
小生も以前外販業務に従事していた際、ある中小企業の社長さんで情熱を持って仕事に取り組んでいる方をサポートしたかったのですが、上司から「我々の活動は、ボランティア活動ではないから日立にとってメリットが無ければやる必要はない」といわれ、がっかりするとともに、こうした場合には何からの企業のビジョンがないと行動しづらいなと感じました。

J.コリンズの「ビジョナリーカンパニー」にはアフリカで「糸状虫症」で苦しんでいる人のための治療薬「メクチザン」を無料で提供したメルク社の例が載っています。いまの日立の方針であれば、このようなことがあった場合には、収益の上がらないこのような事業には投資をしないということになりかねません。

「新しい酒は新しい皮袋に入れよ」ということわざもありますが、上記のようなデリケートな問題にも従業員が迷い無く対処できるよう、幹部のリーダーシップとアラタなビジョンの確立をお願いしたいと思っております。

2008-2-5

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