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第15回:絵はがきを書く

海外に出かけた折のささやかな心がけは、日本に向けて絵はがきを書くことである。海外といっても、業務での海外出張がほとんどである。昔から時間があればどんどん仕事を詰め込むたちであり、今でも変わりがない。それではなんだか、人生が面白くならないし、人間もつまらなくなりそうだと、30年ほど前にふと目覚める瞬間があった。確か米国東海岸だったように記憶している。そこで旅先という非日常の空間であらためて家族のことや自分の人生を振り返り、滞在した土地のこと、そこで出会った面白い出来事や人物などを記録しようと、絵はがきを書くことにした。


絵はがきのあて先は自宅の家族である。今風にいえばさしずめブログであろうが、書き始めた70年代後半には、PCなどは空想の対象ではあったが、もとより現実ではなかった。海外に日記帳を持ち歩くのは重いし、義務になるのもいやだ。メモをとっておいても残らない。少しは現地の思い出も記録したい。数行で印象が残せる媒体はないのか。絵はがきなのである。


他人がみたら何ということもない内容だが、興にのれば一日4〜5枚書くこともある。ペンではがきに「書く」という行為は、パソコンでキーボードを打つという行為とは異なる効果を、身体に与えるのではないだろうか。書いた後の軽い達成感は捨てたものではない。仕事とは異なる脳と手へのトレーニングは、ストレス解消になっていると思う。


絵はがきの楽しみは、まずはがきの絵や写真を選ぶことだ。プロの写真家がとったものであり、国によって写真のとり方が異なるのが面白い。近年急激な近代化を遂げた新興国では、4〜5年前の絵はがきの在庫が店においてあって、今はもうみることのできないかつての町並みや風俗を絵はがきの中に発見し、激変ぶりを堪能することもある。美術館の絵はがきも忘れてはならない。各国の芸術品の絵はがきからは、その国の美に対する価値観もにじみ出る。絵はがきを手に入れる時間のない旅はどうするのか。偶然入ったレストランのメニュー、またはホテルのガイドに目をつける。これを適当な大きさに切って、はがきに替えて送ったことも何度かある。食事の痕跡が残っていたりして、絵はがきにはない生の記憶を運んでくれる。


問題は切手である。国によっては面白い切手もあるが、郵便局の営業時間は私も懸命に仕事をしている時間帯でもあり、郵便局以外にこれを売っているところが案外少ない。それにホテルのサービスが変わった。かつては、ホテルの各階にポストがあり投函(とうかん)でき、はがきの角が筒状のポストに当たって、カタコトかすかな音を残してロビー階まで落ちていく数秒に、旅にいるロマンスを感じたものだが、そうした古い造りのホテルの多くが消えた。なにより、IT全盛の最近では、切手を売らないホテルが主流になりつつある。


このように、けっこう気合をいれて絵はがきを書くのだが、家族の評判はいまひとつである。海外が珍しくなくなったというわけではなく、私があまりの悪筆だからだ。届く絵はがきは、家族にいわせると、「ロゼッタストーンの魚拓版のようなもの」らしい。判読に大変な時間を要するものの、家族には意味不明のうちに本人が帰宅。「どうだった、絵はがき読んだ?」と聞くと、「うーーん、写真の豚がかわいい」程度のことしか返事が返ってこない。


だから、絵はがきの行き先が今から案じられる。70年代に初めて米国から出したものから靴の空き箱にしまって保存しており、もう何箱にもなる。近所の古本屋に売られている絵はがきのコレクションを見つけたが、あんな風に売られてしまうのであろうか?これまで外国から一番長い旅をした絵はがきは、ロンドンからJAMAICA経由で自宅にようやくたどりついたものである。この絵はがきは半年の旅をした。JAPANがJAMAICAにみえたらしい。うむ。


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