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「実行力不全」
評者:日立総合計画研究所 山本 薫之

The Knowing-Doing Gap

「The Knowing-Doing Gap(知識と行動のギャップ)」。本書の原題である。それに対し邦題には「知識」という要素が抜け落ちている。しかし、この「知識」という要素が題名に含まれていることが重要なのである。「多くのマネジャーが経営手法をよく知っており、業績を上げるためのノウハウについて気のきいた言葉を口にする。努力も惜しまない。それなのに、その反対の行動ばかりする企業の中で彼らは身動きがとれなくなっている。なぜだろう?」これが、本書の主題である。


例えば、次のような事例が挙げられている。「あるコンサルタントが、アメリカの大手銀行でプレゼンテーションを行った。その銀行は過去6年間に4つの会社のコンサルティングを受けており、結論はどれもまったく同じだった。そのデータをスライドで示しながら、分析結果より実行と改革が大切だとコンサルタントは強調した。『5度目も同じ助言でいいのですか?』このコンサルタントは仕事を得た。」本格的な「知識」社会の到来がいわれる昨今、本書は「企業はなぜ知識を行動に変えられないのか?」「この問題を克服した企業はどのような手段を用いたのか?なぜそうしたのか?」という重要な問題を扱っている。


本書は、スタンフォード・ビジネススクールのフェファー教授と同エンジニアリングスクールのサットン教授の共著であり、両教授の専門である組織行動論の観点からこの問題に取り組んでいる。本書において企業が知識を行動に変えられない理由を幾つか挙げているが、その一つに「言葉を行動と錯覚してはいないか?」ということがある。すなわち、「問題点を話し合っただけなのに、仕事をこなした気になることがある。これが知識を実践するための大きな壁になっている」というのである。さらに、言葉が行動のかわりになってしまう理由としては次のようなことを挙げている。


  • 話し合いの結果を実際に行ったかどうかを確かめるフォローアップが行われない。
  • 決定しただけでは何も変わらないことを、人々が忘れている。
  • 計画立案、会議、レポート作成などがそれ自体重要な「行動」になっている。しかし、実際の行動には何の影響も与えていない。
  • 話し合ったのだから、社訓に書かれているのだから、それは事実に違いないし、社内で実行されているはずだと考える。
  • 実行力より、スマートな発言が評価される。
  • 発言が多いことが、仕事ができることだと誤解される。
  • 複雑な用語、アイデア、プロセス、構造などが、単純なものよりもよいと考えられている。
  • マネジャーは言葉の達人であり、部下は行動する人という考え方がある。
  • 社内でのステータスが、たくさん発言し、相手の発言をさえぎったり、批判的なコメントをはさんだりすることで決まる。

シンクタンク構成員の端くれとして、いちいち、胸を刺す指摘である。


本書はある意味、自己矛盾を抱えている。本書自身が、本書でいうところの「巷にあふれかえっている」ビジネス書の一つとして、限界的な「知識」を世にはんらんする知識のプールに付け加えたにすぎないともいえる。「知識と行動のギャップ」を埋めるための方策を幾らか提示してはいるものの、あまり具体的とはいえず、一見すると当たり前と思われる内容も多い。「この本自体がKnowing-Doing Gapそのもの」との批判も故なしとはしない。


では、本書の価値はどこにあるのか。私は、本書は「気付き」のきっかけとして非常に優れたものと思う。本書には数多くの「知識と行動のギャップ」に関する失敗事例、成功事例が掲載されており、自分自身や自分の属する組織に引き合わせて考えさせられる点も数多い。「人のふり見て我がふり直せ」ではないが、その「気付き」により、本書が読者および読者の属する組織の「知識」と「行動」のギャップをつなぐ触媒の役割を果たすのである。「行動」は結局のところ、行動するその人自身が考え、行動するしかない。そのきっかけを本書は果たすのである。そういう意味では、この書評で興味を持った人よりも、興味を持たなかった人に是非とも読んでもらいたい一冊である。

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