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「マネー・ボール」
評者:日立総合計画研究所 手島 俊平

不公平に打ち克つ科学。金権野球に対する貧乏球団の挑戦

10年間2億5,200万ドル (アレックス・ロドリゲス ニューヨーク・ヤンキース)

8年間1億6,000万ドル (マニー・ラミレス ボストン・レッドソックス)

8年間1億3,600万ドル (アルフォンゾ・ソリアーノ 元広島 現シカゴ・カブス)

7年間1億1,900万ドル (カルロス・ベルトラン ニューヨーク・メッツ)


年々高騰を続けるMLB(アメリカ大リーグ)の選手年俸。当然、優秀な選手は金持ち球団へ流れるため、“富める球団”と“貧しい球団”間の戦力不均衡が叫ばれて久しい。総じて選手年俸総額の高い球団が好成績を残すようになる。

その中で、年俸総額が低いながらも毎年好成績を残すオークランド・アスレチックス。チームの戦力強化に関する全権を委ねられているGM(ゼネラルマネージャー)ビリー・ビーン。本書は“貧乏球団の雄”と呼ばれるアスレチックス、ビリー・ビーン独自の視点から見た選手評価、戦力補強について記されている。


選手年俸総額がニューヨーク・ヤンキースの1/3(2002年度)という貧乏球団であるアスレチックスが、ほぼ互角の成績を残せるのはなぜか?その秘密はビリー・ビーン独自の評価基準による選手の獲得にある。とにかくデータを重視する。例として


  • 野手に必要なのは出塁率(“アウトにならない確率”と同じ)
  • 四球とヒットは同価値である(“アウトにならない”という点では同じ)
  • 盗塁は極力使わない(失敗のリスクが大きい)
  • ホームラン以外のヒットは投手の責任ではない(守っている野手の守備力、球場の広さなどが絡むため、投手独自の能力がわかるとは言い難い)
  • 救援投手のセーブ数は意味が無い(セーブシチュエーションはイニング冒頭でランナー無し、ということが多いが、そのような楽な場面では真の投手の価値は分からない)
  • 球速は重要ではない(球速がなくてもアウトは取れる)

さらに、新人選手獲得においては、契約金が高騰するという理由で、高校生選手はドラフトで指名しない。そのような理論で他球団が見向きもしない選手や、短所には目をつぶり先に挙げた長所を持つ選手を仕入れ(他球団が目を付けないからこそ、安く仕入れることができる)、優勝を争うチームに仕上げる。そして、活躍した選手を高く売り、その資金で選手を補充し再び優勝を争うチームにする。フリーエージェントで優秀な選手を引き抜かれても、ドラフトでの補償の権利を最大限活用し、(アスレチックスの観点から見て)優秀な新人を獲得することにより穴埋めをする。一方、“この選手は”と見込んだ場合は、若いうちからその選手と長期契約を結んでおくことにより確保する。結果、年俸調停やフリーエージェントなどの年俸高騰のリスクを回避でき、長期的に見ると支出を抑えることができる。特筆すべきは、彼の目利きの良さである。他球団には長期契約を結んだは良いが故障などで、“不良債権”化する選手が少なくない中、アスレチックスにおいてはそのような例はほとんど見られない。


彼のすごいところは、その方法を採用するという決断のみならず、その方法を取り続けることを徹底した点である。先に述べた、“高校生選手は絶対にドラフト1位で獲るな”という哲学であるが、年配のスカウトが彼の意向を無視し、高校生投手を1位指名したことがあった。ビリーは激怒し、そのスカウトを激しくしかった(結果として、そのスカウトは居づらくなり、間もなく退団する)。ここにも、彼の信念の強さが見てとれる。時に非情さ、冷徹さを見せ、他球団のGMに「ビリーはサメだ」と言われながらも、自らの意志を貫き通すのである。


従来の評価基準を覆して他球団が見逃している選手を必要最低限の資金で獲得する手腕、長期契約を結ぶ際の目の確かさ、自らの信念を曲げずに貫き通す意志の強さをもとに、ビリー・ビーンは今後もオークランド・アスレチックスのGMとしてらつ腕を振るうであろう。冒頭で述べたように、選手人件費の高騰が続き、裕福な球団との格差はさらに広がることが予想される中、ワールドシリーズ優勝を夢見て、彼とアスレチックスの挑戦は続く。


上記以外にも、彼自身がドラフト1位で指名されながら大成できなかったこと、ドラフト当日やシーズン中における選手獲得をめぐる他球団との駆け引き、ビリーが獲得した選手自身が思いもつかない評価に驚く様子など、テレビなどでは見られない舞台裏に関してもふんだんに記載されている。メジャーリーグに興味のある方はもちろん、そうでない方にも是非一読をお薦めする。

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