●序章 グローバル・リージョンズ革命の進展
冷戦が終わり、国境を越えた人、モノ、資金の移動が活発化する中で、国ではなくより細分化された「地域」を起点にした新たな変化が起こっているのではないか。そんな漠然とした仮説に立って日立総合計画研究所(日立総研)でひとつの研究プロジェクトがスタートしたのは、今から一年半ほど前、一九九六年の春のことだった。
我々の当初の関心は冷戦終結後の経済社会をどのように認識すべきか、という視座を確立することにあった。当時、既に「大競争時代」の到来が広く語られるようになっていた。「大競争時代」という概念で理解されていた内容はおおむね次のようなものであったと思う。すなわち、「市場メカニズムが国境の壁(また冷戦時代に存在した体制の壁)を越えて貫徹する結果、グローバルに資源の最適配分が達成される」、というものである。そこでは古典的な経済学が前提とする市場への素朴なオプティミズムが国境を越えて成立することが前提とされていた。しかし、そもそも地球上の人口の八〜九割までが自由な市場経済のメカニズムの中に組み込まれるという状況は、人類の歴史の中でも初めての現象である。従って「大競争時代」の現実と今後の経路を考えるに際して、古典的な経済学の理論を単純に拡大解釈するのは、明らかに無理がある。
なぜなら経済要因はグローバルな規模を指向するとしても、例えば文化や習慣に関する要因は全くそれと違う規模を目指すはずである。その規模とは突きつめていくと、「国家」やそれを構成する行政単位 とは別の、文化、慣習、何らかの価値を共有する「地域」という単位になるであろう。従って「地域」こそが「大競争時代」の本質を見極めるカギとなる。我々は当時そのように考えた。研究がスタートして以来、世界約四〇ケ所の「地域」を日立総研の研究員が自らの足で歩き調査を続けていった。そして研究が進むにつれて、我々は先進国だけでなく、途上国も含め、「地域」を中心に新たなダイナミズムが起こりつつあることに次第に確信を強めていったのである。
一九九七年二月より、我々の研究は第二段階に入った。「グローバル・スーパーリージョンズ」という名称のホームページをインターネット上に開設し、世界に向けて情報発信を開始したのである。これは、我々自身が世界各国から集めた地域振興の事例をホームページ上で紹介するとともに、「地域」をめぐる新たな動きに関する「情報」がそこに集まってくるような、言わば「情報の結節点(ハヴ)」をつくることを目ざしたものである。幸いにもこのホームページは世界各国から多数のアクセスをいただいている。
更に研究の第三段階として、そうしたホームページ上で形成されたネットワークを現実の人と人とのネットワークへ展開するため、一九九七年九月一日に「グローバル・スーパーリージョンズ国際フォーラム」を東京で開催した。この国際フォーラムには、米国シリコンバレーのスマートバレー公社副会長であるウィリアム・ミラー氏、オーストラリアの南オーストラリア州政府情報産業部ディレクターであるスー・スペンサー氏、EUからコンサルティング会社ロンジャン・アンド・アソシエーツ社を経営するピエール・ロンジャン氏、マレーシアのマルチメディア・ディベロップメント・コーポレーション社のスペシャル・アドバイザーであるモハメド・サリ・マスダッキ氏をお招きした。当日はまた全国から多数の方に参加いただき、フォーラムを起点とした新たなネットワークも生まれつつある。
本書では、我々自身の研究成果をまとめるとともに、「グローバル・スーパーリージョンズ国際フォーラム」で講演してくださった四人の方々の講演内容(第三章〜六章)も収録した。更に現在世界の各地で進みつつある「地域」を基盤とした新たな取り組み(第七章)を紹介するとともに、日本国内でも新たな試みが広がりつつあることを紹介(第八章)する。
今後の日本を考える視点に立つならば、おそらく過度の楽観も悲観も禁物であろう。本書で紹介する世界各地の事例は、現在の日本がおかれた状況と大きく異なる点も多い。産業発展の歴史や背景が異なるのであるから、それは当然のことである。仮に今後地方分権など制度改革が進むにしても、長年にわたり国の公共事業や補助金に依存してきた日本の地域経済が自律していくことは、けっして容易ではない。しかし、既に先進的なリーダーやNPO(非営利組織)などによる新たな取り組みが始まっていることも冷静に評価すべきである。
これから進む「改革」は橋本内閣の六大改革のような上から、そして中央からの「改革」だけでなく、「地域」を起点とした民間経済主体が主導する、下から、地方からの改革も不可欠である。そうした双方向からのエネルギーによって初めて真の改革が進展するものと考える。
目次
- 序章
- グローバル・リージョンズ革命の進展
- 第1章
- 地域が競争力を考え始めた
- 第2章
- グローバル・リージョンズへのうねり
- 第3章
- ビジネスNPOの台頭 ― 米国 シリコンバレ―
- 第4章
- 国際競争力を有する行政と産業の形成
- 第5章
- 「地域」からの環境問題への取り組み
―EUの環境政策― - 第6章
- 次世代成長エンジンの模索
- 第7章
- 世界各地に見られる地域自律への新潮流
- 第8章
- 日本のグローバル・リージョンズ革命の最前線
- 第9章
- グローバル・リージョンズ革命の展望
- 終章
- 日本版グローバル・リージョンの形成に向けて
- 著者:
- (株)日立総合計画研究所
- 出版社:
- 東洋経済新報社
- 発売日:
- 1998年1月12日
- 定価:
- 1500円(税別)


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