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(政策経済グループ)

市場経済化の流れが加速する中で、世界的に政府の役割が大きく変貌しようとしている。過去20年あまりの間に、政府の役割は縮小もしくは低下し、過去に果たしていた役割の一部を企業やNPO(非営利団体)など他の経済主体に移転するか、あるいは分担して責任を果たすようになった。こうした流れのきっかけとなったのは、1970年代末のイギリスにおけるサッチャー政権、米国における1980年代初めのレーガン政権のとった政策である。両政権は、それまで多くの先進国において政策の中心であった、政府自らの支出による公共的な需要創出による成長政策から、大規模な規制緩和と減税の組み合わせによって市場競争を拡大させ、経済の活性化を図る政策へと大きく舵をきった。


市場競争の主体である企業にとって、規制緩和の進展とともに、活動の自由を拡張していくと、やがて国家という枠組みを飛び越えて活動することが必然となる。企業は、もし本国以外の国に比較優位をもたらす経営資源、投資環境が存在するならば、それらの国に事業基盤を移転させ、国境にとらわれないオペレーションを加速させる。政府は、自らが企業に対して圧倒的な支配力を有していた状況が逆転したことを認識しなければならない時代が到来した。


現在、欧米先進国だけでなく、シンガポールなど一部アジアの国も含め今や多くの国が、産業構造を製造業中心から知識産業中心へとシフトしようとしている。知識産業を支えるべき国家の基盤は、製造業中心の産業構造の時代とは当然異なるものとなる。すなわち、高度な教育を受けた知識労働力、情報通信の高度利用を可能にするインフラとその低料金での利用を可能にする規制緩和が進んだ競争環境、そして効率的で利便性の高いサービスを提供する政府・行政部門の存在がこれにあたる。官民はこうした環境を整備するために、互いにパートナーとして補完的に共同作業を行うにはどうすべきかを考えなければならない。


米国では、クリントン政権の発足時に、当時の労働長官ロバート・ライシュや大統領経済諮問委員会委員長ローラ・タイソンらが「戦略的経済」の概念を提起し、企業に見捨てられない国家を作るにはどうすればよいか、さらに進んでエクセレントな企業を生み出すために政府はいかなる役割を果たすべきかという観点から政策が検討された。これは、市場経済化がグローバルに進展する中での「国家」の自己再認識であったと言ってもよい。クリントン政権が掲げたNII (National Information Infrastructure)構想の背景となったのもこうした考え方であり、IT産業発展の環境整備、規制緩和、研究開発投資の税制優遇、ベンチャー企業支援などが実施された。


こうした事業環境整備の流れは、やがて必然的に国家権力を構成する政府部門そのもののあり方を問い直すことになる。市場競争がグローバルな広がりを見せる中で、企業にとって、効率的で質の高い政府が存在することは事業環境においてきわめて重要である。新たな流れは、1990年代初頭において既に米国最大のIT産業の集積地となっていた西海岸のシリコンバレーからおこった。シリコンバレーに集積したIT企業にとって、製品寿命が6ヶ月から1年しかないことが予想される中で、例えば、工場建設に対する地方政府の許認可が6ヶ月もかかるとすれば、事業にとって致命的となる。必然的に、地域企業は、市場では競争しても行政、議会、政治家に対しては協力して、政策決定のスピードと効率を強く求めるようになっていった。シリコンバレーでおこった行政改革(Reinventing Government)、すなわち行政の効率化とサービスの質の向上を求める動きは、やがて他の地方政府に広がり、ついには連邦政府へと飛び火していく。この間、並行して進んだインターネットの爆発的な普及によって、行政における活用も広がり、米国の行政改革は、「電子政府」という新たな概念へとつながっていく。結果として、「電子政府」という形で、知識産業時代における政府の新たな役割にいち早く気付いた米国は、戦後最長の景気拡大を実現することになった。


日本でも昨年3月に発足した政府の産業競争力会議の提言に基づいて、2003年までに世界最高水準の電子政府を実現するという「電子政府」プロジェクトが、官民の協力によって進められることが決まった。「電子政府」の構築が単に政府や行政におけるIT活用に終わっては意味が無い。日本経済が知識産業中心に転換していくためには、「新たな知識」を継続的に作り出していくことが不可欠である。従って、「電子政府」もまたこのコンテクストの中で、情報技術(IT)、ネットワーク技術を活用することによって効率的かつ透明で、質の高いサービスを提供するものでなければならない。また地方分権の大きな流れの中で、地方自治体が自らの創意工夫によって、地域の発展を図ることを促すものである必要もある。


知識産業社会におけるイノベーションの担い手は民間経済主体であることを前提にすれば、民間は仮に市場で敗者となることがあっても、それはあくまで自己責任であるという市場経済の原則を再確認する必要がある。その上で、民間が求める「電子政府」のあるべき姿を官に積極的に提示するとともに、その実現に貢献していくことが重要となる。「電子政府」の構築は、21世紀の日本の産業競争力の基盤となるだけでなく、今後官民が一方的な依存関係を超克して、相互の緊張関係の上に立った新たな経済活力を生み出していくための試金石となる重要課題である。

本政策提言のポイント

1. 電子政府実現の枠組み構築

首相による基本理念「電子政府実現大綱」の公表

電子政府構築の意義は2つの方向からとらえることができる。一つは政府・行政部門自らが先行して情報化を進めることで、民間部門の情報化を推進する触媒としての役割を果たすことである。もう一つは、より効率的で質の高いサービスの提供を目指した行政改革を進めるために電子政府構築をその重要手段と位置づけることである。電子政府構築によりこれら2つを達成し、ひいては知識産業社会への転換、国際競争力向上の起爆剤とすることを目指すという基本理念を、政府トップ自らが「電子政府実現大網」として発表し、政府内外の理解と合意形成を促すことが必要である。


電子政府3法で義務づけた行動計画の推進

2003年に世界最高水準の電子政府を実現するという政府目標を達成していくためには、電子政府化の目的である効率向上、情報公開、サービス向上の各々について段階的で明確な目標設定を行い、その目標達成を法律で義務づけて実現に拘束力をもたせることが有効である。これらの目標にしたがって「行政評価法」「電子情報公開法」「行政サービス電子化法」を電子政府3法として制定した上で、その内容に従って各省庁が投入する予算や責任者を明確化した行動計画を策定、実施していくことが必要である。


電子政府統括推進本部の設置

電子政府プロジェクト推進にあたっては、首相直轄の常設組織として、推進機能を集約し、プロジェクトの中核的役割を担う電子政府統括推進本部を設置することが望ましい。また、プロジェクト遂行にあたっては、政治レベル、各省庁の実務レベルの責任者として電子政府特命国務大臣、電子政府推進最高責任者(CIO)を任命し公表することが必要である。


官民共同による「情報セキュリティ総合計画」の推進

大量の機密情報を扱う電子政府の構築にあたっては、情報セキュリティ上のトラブル予防体制の確立、人材の育成・確保、技術開発推進など情報セキュリティ確保策を総合的に推進することが必須条件である。今後ネットワークセキュリティは国家安全保障上の課題との認識に立ち、政府全体での取り組みと官民の連携強化の下に「情報セキュリティ総合計画」を策定し、展開していくことが重要である。具体的には、情報セキュリティーポリシーガイドラインの策定、システム監査技術者試験制度についての広報強化に加えて情報セキュリティスペシャリスト試験制度の確立、情報セキュリティ研究所の設立、セキュリティ関連国際規格(ISO/IEC15408)への対応などを計画に盛り込むことを検討する必要がある。


官民協力による電子政府先進技術開発の推進

電子政府に必要なITについて、基盤となる既存技術・製品の活用を図りつつ、将来の電子政府の基盤となるデータマイニングやデータ処理などの重要技術、高度ネットワーク教育、判例検索・分析、知識人データベースなどのシステム開発については政府も資金提供を行い、官民の協力を通じて研究開発を進めていくことが望ましい。

2. 行政部門の効率化による本来業務への集中


行政評価法の早期制定

電子政府を活用して、行政の実質的な効率化を実現するためには、具体的な目標を制定し、目標に対する達成度を評価すること、それを次の目標設定に反映させる仕組みを構築することが必要となる。現在検討が進められている行政評価法を早期に成立させるとともに、目標設定、業務見直し、達成度の評価の妥当性を監査するチェック機関の存在も不可欠である。


行政部門におけるナレッジマネジメント導入

文書フォーマット統一やペーパーレス化から更に踏み込んで、今後は行政部門においても民間企業のBPR(Business Process Reengineering)やナレッジマネジメントなどの経営手法を導入し、業務プロセスの見直しや異部門間の業務の共通化、知識の共有を図ることが重要となる。日本が知識産業に立脚した競争力ある国家に転換するためには、意思決定と実行の迅速化が官民ともに求められている。行政各機関において、一連の業務プロセスの見直しとネットワークを活用した業務の簡素化や改廃を実施し、さらにナレッジマネジメントを導入することにより、省庁や自治体間で優れた知識やノウハウの共有化と業務の共通化を図ることが望まれる。


自律分散型行政E-モールの構築

行政部門の電子調達は、事務効率を引き上げ、購入単価を引き下げるだけでなく、民間も含めた日本の電子商取引全体の発展にとっても不可欠である。システム構築にあたっては、中央省庁や地方自治体の独自性を生かし、地方自治体間の地域連携にも対応可能な自律分散型行政E-モールとすることが期待される。


電子政府投資基金の創設

電子政府構築に必要な資金を継続的に確保するには、単年度で区切られ、省庁ごとに配分される既存の予算制度とは異なる柔軟な執行を可能にする仕組みが求められる。そこで、2000年度のミレニアムプロジェクト電子政府予算特別枠の金額を2003年度まで確保した上で、新たに1,000億円規模の電子政府投資基金を設立することが望ましい。また、中央政府だけでなく地方自治体による同様の基金設立を実現することも期待される。

3. 情報公開による行政の透明性向上


電子情報公開法の制定

今後日本においても民間部門を中心にITが広く利用されるようになるものと考えられるため、情報公開の請求や請求に応じて公開される情報の入手においても ITの活用を視野に入れた電子情報公開法の制定が望まれる。一方、政府・行政部門におけるデジタルデータの管理は従来以上に厳重に行う必要がある。とりわけ個人情報の漏洩に関しては細心の注意が必要となる。行政情報公開の拡大とともに、全ての地方自治体における個人情報保護条例の制定や各省庁や地方自治体におけるプライバシー保護責任者の任命などのプライバシー保護徹底策が望まれる。


インターネット掲載情報の品質基準設置

政府は情報公開の手段としてインターネットをより積極的に活用し、情報公開の品質向上を進めることが期待される。その際、省庁や自治体といった管轄の違いを意識することなく、ユーザである国民や企業のニーズに応じて行政情報の入手などが容易にできる状態にすることが重要となる。そのために、省庁間・自治体間で異なる公開・非公開の基準を可能な限り統一し、政府・行政部門のホームページに品質基準を設け、基準を満たしたホームページに対し、電子政府統括推進本部が品質保証マークを発行することも有効となろう。


知識産業支援データベースの構築と公開

2003年に向け、知識産業立国に相応した政府情報のデータベース化が望まれる。知識産業を支援するデータベースとは、各分野において膨大な量のデータが蓄積されているとともに、地図や立体画像情報など、より高度な情報が含まれている。こうしたデータが含まれるデータベースを、容易に利用・分析・加工できる状態にすることが期待される。


専門情報に対する利用料徴収

政府・行政部門が公開する情報を住民への基本サービスとしての情報と専門情報に分類し、一部の専門家の利用が中心となる専門情報に関しては、受益者負担の観点に立って利用料を徴収することによって経費回収を図ることも考えられる。その際、紙ベースで同じ情報を入手する場合より価格は安く設定する、支払はデビットカード、将来的には電子マネーも認めるなどの工夫も有効である。

4. 利用者の利便性の視点に立ったサービス提供


行政サービス目標の設定と活用

電子政府構築と並行して国民への行政サービス向上を業務サイクルの中に組み入れ、継続的に推進する仕組みを構築することが必要である。すべての省庁が行政サービス目標を設定し、サービス利用者に対する定期的アンケート実施などによって達成度を計測、その結果に基づいて新たな目標設定を行うという一連のサイクルを確立することが有効である。


「ゆりかごから墓場まで」「ノンストップ・ワンストップ」行政サービスの提供

電子政府先進各国の現状と将来計画を踏まえ、日本も2003年までに中央政府が提供するサービスの40%、2005年までに100%をオンライン化することを数値目標として設定し、その実現を行政サービス電子化法にて義務付けることが必要である。現在のミレニアムプロジェクトで計画されている以外にも、国民の利便性が向上するサービスを選定し、「ゆりかごから墓場まで」、「ノンストップ・ワンストップ」でのサービス提供を目標に進めていく必要がある。地方自治体に対しても、同様の視点に立ったガイドラインを示すとともに、各自治体の自律的な取り組みを後押しする財政措置が望まれる。


デジタル・デバイド予防策の推進

情報弱者に配慮した施策を電子政府構築と並行して進めることで、わが国の電子政府をデジタル・デバイド予防型のものとしていくことが必要である。パソコン、キオスク端末の他、ゲーム機、携帯電話など多様な端末の活用を含め電子政府によるサービスを利用できる環境の提供と、図書館、公民館等での無料講座の開催などの情報リテラシー教育の推進がデジタル・デバイド防止の必須条件である。民間企業もユニバーサル・デザイン(最大限可能な限り、すべての人にとって利用しやすい設計)の視点に立った製品設計に積極的に取り組む必要がある。


電子政府関連分野でのPFI活用

行政サービスの提供、公共施設の運営など電子政府関連各分野でPFIの活用が有効と考えられる分野は多い。「電子政府PFIガイドライン」を2000年度中に策定した上で、2001年度から、電子政府事業運営にPFI導入可能性事前検討制度を導入し、リスク回避策や官民のリスク分担について十分検討した上で推進することが望ましい。

5. 次世代電子政府構築への挑戦


デジタルデモクラシーの早期実現

インターネットを通じての電子投票は国政選挙における在外邦人の不在者投票など、遠隔地からの不在者投票の有効な手段である。さらに、インターネットの活用は、議員とのインターネットを通じた選挙前の討論、選挙後の政治家の行動に対する有権者のフォローアップ実現など、これまでの間接民主主義の限界を克服する可能性を秘めている。セキュリティ技術の開発や公職選挙法の改正により、デジタルデモクラシーの早期実現を目指すことが望まれる。



アジア・デジタル共同体構想

電子政府構築をトリガーとして、アジア各国との間で知識と情報の共有化、人材交流を進めることは、相互理解を深め、地域の平和と安定に資するだけでなく、世界で最も成長力の高い経済地域の活力を取り込む観点からも重要である。日本の電子政府構築の経験を、将来的にはアジア各国に積極的に提供するとともに、 ODAも活用しながら電子政府基盤の共通化、知識人材データベース、学術・統計データベースの共有化を進めることが重要である。



デジタルユニバーシティ支援

今後、知識産業社会への転換をはかっていくためには、効率的で質の高い行政サービスを電子政府で実現することに加えて、高度な知識を有する人材を生み出す教育制度の構築を政府が進めていくことが必要であり、教育等の公共分野での情報化を推進するべきである。競争原理導入による高等教育の活性化を目指して、独立法人化を進めると共に、大学の情報化投資への補助金や財政措置など支援策の検討を進めることも必要である。こうした動きを先導するモデルとしてネットワーク上で完全単位取得が可能な国立デジタルユニバーシティの創設も検討に値する。また、受講者がこうした教育制度を選択する際の手がかりとして、国として遠隔教育評価制度を確立することも望まれる。

免責事項や著作権など