1. 調査概要
情報技術(IT化)の急速な進展により、適切なITガバナンス*を構築していくことは、企業競争力を維持、向上させていくうえで必要不可欠なものとなっています。
そこで日立総合計画研究所では、ITに関する組織運営のあり方を自治体、民間企業に対して具体的に提言するため、2003年度に引き続き、民間企業向けITガバナンス度調査を実施いたしました。
- *ITガバナンスとは「企業が競争優位性構築を目的に、IT戦略の策定・実行をコントロールし、あるべき方向に導く組織能力」(1999年当時の通商産業省(経済産業省)の定義)である。
| (1)対象: | 東証、大証上場企業および新興市場(ジャスダック、マザーズなど)における全上場企業3,819社の情報部門あるいはそれに準じる方 |
|---|---|
| (2)期間: | 平成18年3月3日から平成18年4月11日 |
| (3)調査方法: | 郵送によるアンケート調査 |
| (4)回収結果: | 発送総数2,577社で有効回答数311社(東証、大証上場企業139社、新興市場上場企業172社)。発送数に対する回収率は12.1% |
2. 調査結果
「予算」「投資評価」「情報利用者」「IT業務プロセス」の各質問項目に関して、2003年度に実施した前回調査との経時比較および企業規模別比較(東証、大証上場企業および新興市場上場企業)を行いました。
(1) 経時比較
IT関連予算については、前回調査と比較して、「適正である」と考えている企業が増加している。投資評価については、全社レベルで財務的指標を用いた評価方法を導入している企業が多少増加している一方、特に評価を行っていない企業も10%増加しており、IT投資評価に対する企業の考え方に二極化の傾向があることが見てとれる(表1)。
情報システム利用者のスキルについては、前回調査と比べて、「情報システム利用者からの低レベルな問い合わせが多く、全社的にスキルを上げるべき」と考えている企業が増加している。さらに、IT部門の人材については、「現状はシステムの技術そのものに精通した人が多いが、今後は利用者の業務に精通した人材の充実が必要である」という回答が約5割を占める結果となった。
表1.「ITと経営(IT投資への評価)」についての経時比較
(2) 企業規模別比較
IT関連予算について新興市場上場企業の方が、東証、大証上場企業よりも、「適正である」と考える企業の割合が少ない。さらに「少ない」と回答した新興市場企業は、「多い」と回答した企業の約5倍も見受けられたことから、IT関連予算が慢性的に不足している新興市場上場企業が多いということも推測される。
さらに新興市場上場企業では、予算上の制約などの要因から東証、大証上場企業よりもIT投資評価に積極的に取り組めておらず、「情報システム利用者からの低レベルな問い合わせが多く、全社的にスキルを上げるべき」と考えている企業が多い(表2)。
表2.「情報システム利用者(社員のスキル)」についての規模別調査結果比較
(3) 全体総括
今回のITガバナンス度調査におけるアンケート結果から、日本企業のITを取り巻く環境に関して、いくつかの見解を述べることができよう。
第一に、今後、IT部門の人材は、『情報システム利用者の業務』により精通していくことが求められていくだろう。その背景には、業務の多様化やITの高度化あるいはIT部門の階層化(本社IT部門と事業部IT部門の二重構造など)によって、IT部門と利用者部門の関係が希薄化していることが挙げられる。今後は、IT部門の人材の利用者業務への一定期間のローテーション、利用者への積極的なヒアリング、他部門や他社との協働作業などの現場経験を通じて、利用者業務に精通した人材を育成していくことが望ましい(表3)。
表3.「IT業務のプロセスとIT部門の人材」についての前回および今回の調査結果比較


第二に、全体を通じてROIやEVAなどの財務的指標を用いたIT投資評価を行っている企業は数%と非常に少ないことが明らかになった。IT投資評価指標は、大きく利益評価型とキャッシュフロー評価型に大別でき、その代表的な指標には、それぞれROI*、PBP*が挙げられる。これらの指標に関しては、投資の対象ごとにその特性に合った指標を選択することが可能で、IT投資評価の初歩段階では、指標の選定基準に関する社内統一ルールを策定しておくことが望ましい。
- *ROI:Return on Investment(投資収益率)
- *PBP:Pay Back Period(回収期間法)
第三に、新興市場上場企業では、東証、大証上場企業に比べて相対的に、ITに関する環境整備が遅れている。CIOの新規登用などによりIT部門の地位を向上させること、あるいは社内リソースを十分整理したうえで足りない部分について外部リソースを有効活用すること、などが望ましい。



