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1. はじめに

厳しさを増す財政環境のなかで全国の自治体は、行政サービスの質の向上も求められる困難な局面に直面しています。こうした状況下で、ITガバナンス*は自治体における経営戦略においてますます重要性を増しています。
私ども日立総合計画研究所では、全国の自治体のITを取り巻く現状を整理し、ITに関する組織運営のあり方を具体的に提言するために題記の調査を実施いたしました。以下、調査概要、調査結果をご覧ください。

*ITガバナンスとは「組織体の価値向上のためのIT戦略策定から実現までの仕組み」のこと。組織体の役割を十全に果たすことを念頭に、IT戦略に関しては選択と集中を進め、また、最小限の投資で最大限の効果を得るために、提供される情報システム、サービスの品質を向上させることが重要です。そして提供されたシステム、サービスのパフォーマンスを評価し、必要に応じてIT戦略の方針変更などにフィードバックしていくことで、最終的に自治体の経営戦略とIT戦略との連携をより密接にすることが可能です。

2. 調査概要

(1) 対象 : 全国の自治体2,676団体の情報システム部門又はそれに準じる方

(2) 手法 : 郵送によるアンケート調査

(3) 期間 : 平成17年2月10日〜平成17年2月28日

(4) 有効回答数 : 846団体(市以上280団体、町村566団体、回収率30.6%)

3. 調査結果

(1) 情報システム利用者(職員)の情報リテラシ−について

今回の調査からは、情報システム利用者に対する利用者サポート体制の遅れが見て取れる。自団体の情報システム利用者が現在の情報システムに対して不満を抱えていると答えた回答者が54%に上り、さらに自団体の情報システムを十分に使いこなせていないと考える回答者が64%に上った。それにもかかわらず、 86%の自治体が専任の利用者サポート体制を設置していないという実態が明らかになっている。
その一方、少数ながら、情報システム利用者に対して、満足度調査等を実施、他業務との連携や情報の一元化などの利用者ニーズを積極的に取り入れている自治体が存在している。今後、情報システムの活用をさらに高めていくためには、情報システム利用者に対するIT教育や説明の機会を増やすことに加え、利用者のニーズや不満を幅広い対象者から積極的に吸い上げ、情報システムに反映させていく仕組みが必要となりそうだ。

(2) IT業務プロセス、IT部門の人材育成について

IT業務に関する運営基準、手順の整備状況についてみると、32%が下流部分にあたる情報システムの運用・保守をマニュアル化して推進している。また、52%の自治体が外部機関によるITプロセスの評価が重要なことであると考えており、実際に外部機関による評価を実施している自治体も少数ながら存在している。

また、望ましいIT人材に関しては、現時点ではシステム利用者の業務に精通した人材が多いが、今後はシステムそのものを理解する人材の確保が重要であるとの見方が多い。その一方で、IT人材の確保・育成の面では各自治体とも具体的な取り組みが行われておらず、より長期的な視野で人材を育成していくことが求められる。

表3:詳細(新規ウィンドウを開く)

(3) ITと自治体経営との関わりについて

今回の調査からは、ITに対する意思決定と投資効果に対する体制が十分に確立していない傾向が見て取れる。経営戦略とIT戦略との関連性についてみると、専任の情報システム担当責任者(CIO)を置いている自治体は6%しかない。また、首長又はCIOが「ITを使って何をやりたいのか」について具体的に要請・指示している自治体は少なく、回答者の90%がITの投資効果について評価していないことが分かった。これはITの投資効果における明確な評価基準がないことやその数量化が困難であることに起因している。
ITによってもたらされる自治体経営への効果に関しては、これまでは「庁内での情報共有の徹底」が最も高い割合を占めていたが、今後の期待では「住民参加の高まり」「行政へのアクセシビリティの向上」「地域経済の活性化、雇用促進」といった住民・地域企業への行政サービスに関する項目が顕著な伸びを見せている。

(4) IT関連の予算・コストについて

今回の調査から、IT関連予算は約75%の自治体が過去3年間、増加あるいは横ばいの傾向にあり、今後の見通しでも同様の傾向が続くことが予想される。しかし、IT関連コストの約80%はシステムの運用や保守といった現状システムの維持のためのものであり、IT戦略の計画やシステム開発といった将来志向の分野にかけられているコストは20%しかない。また、回答者の88%が「IT化がある程度成果を上げている」としているのに対して、TCO*を測定して、コストとの見合いで成果評価を行っている自治体は、未だ少数にとどまっている。また、回答者の64%が専門ノウハウの活用、人材不足への対応を期待して、 IT機能を民間に外部委託(アウトソーシング)することを検討、あるいは既に実施している。

*Total Cost of Ownershipの略でシステム総保有コストの意。情報システム構築関連の直接的な費用のみならず、業務改善など間接的なコストを含めて、包括的に把握する考え方。

表6:詳細(新規ウィンドウを開く)

(5) 総括

弊所では、以前にも東証1部2部及び大証上場企業を対象に今回とほぼ同様のアンケート調査(2003.3)を行っている。その結果、企業におけるIT活用は「人件費の削減」から「顧客満足度の向上」へとシフトしていく傾向にあった。今回、自治体に対する調査でも、IT活用は、「業務の効率性向上」から「住民への行政サービスなど行政の付加価値向上」にシフトしていく傾向にあることが読み取れる。ITガバナンスの観点からみると、最も重要なステークホルダーである住民への貢献に意識が向かっており、好ましい変化ということができる。

しかし、今回行った自治体のITガバナンス調査結果では、企業と比べて相対的に人材面、組織面などの基盤の整備あるいは投資効果の把握に基づいたパフォーマンス管理の面でやや遅れが目立つ。ここで目を米国に移すと、各省庁にCIOを創設して、IT投資に関するコスト、収益、リスクに関する分析を行うフレームワークを策定したクリンガー・コーエン法(1996)に代表されるように、全庁的にCIOの役割と権限の強化、IT投資効果の把握を行う動きがみられる。したがって、リソースの限られた個々の自治体が、独自にガバナンス適正化に向けた対応を取るには限界があることを考慮に入れると、効果的なITの戦略的活用を行うためには、国や都道府県レベルによる対応や一部の先進自治体における事例の共有化を行うなど、個々の自治体の枠を超えた広範囲での協力が求められていくだろう。

今回のアンケート調査において30%を超える高い回収率を得ることができたのは、自治体におけるIT情報化戦略に対する高い関心を反映したものと思われる。今後も私ども日立総合計画研究所は、ITに関する組織運営のあり方を具体的に提言するため、引き続き調査研究を行っていく所存である。

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