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株式会社日立総合計画研究所

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Employee Satisfaction(従業員満足度)

所属部署:国際グループ
氏名:宮下 章

Employee Satisfactionとは

Employee Satisfaction(以下、ES)とは「従業員満足度」と訳され、組織において従業員のやる気(業務を遂行しようとする積極的な気持ち)が満たされ、かつ不満要因が取り除かれストレスが少ない状態で仕事ができているか、を表す定性指標です。(1)ESが低ければ、従業員の生産性は低下し退職率の上昇にもつながります。(2)ESが高ければ、従業員間の一体感が増し生産性は向上、CS(Customer Satisfaction:顧客満足度)も上昇し、売上増につながります。ESは従業員の生産性を左右する重要な指標でありながら、個々人の定性的な主観の総和であるため計測することが難しく、また売上増などほかの経営指標との因果関係を証明するのが難しいという難点を抱えています。通常、ESは従業員へのアンケート調査などを通じ、定量指標に置き換えられ管理されます。

近年ESが注目を集める理由

近年、ESが注目を集めている背景には、労働環境の変化が挙げられます。多くの業種で業務の高度化・専門化が進み、仕事の役割分担が細分化するようになりました。また目標管理制度など成果主義の導入が進んだ結果、従業員個人は自分の専門能力をいかに高度化するか、という点に強い関心をもつようになりました。
その結果、現代の従業員は「この仕事は自分にとって得なのか、自分が描くキャリア像と合っているのか」を意識する傾向が強くなっています。労働市場の流動化も手伝って、自分のESが満たされない場合に、会社を辞める行動に出ることに対する抵抗感も小さくなっていると考えられます。職場の同僚との飲み会、社員寮、運動会など、会社内での「個人間のつながり」を広げる機会が減少したことも影響していると考えられます。常にESに着目し、ES調査によって実態を把握した上で向上策を検討、実行しなければ、従業員の生産性を維持することが困難な時代となっています。メンタルヘルスに不調をきたす従業員が増加していることも、ESへの注目を高めている要因です。

ESは3つの因子に分けて考えるのが有意義

やる気を要素分解する研究は古くから行われ、ハーズバーグの「2要因説*1」、マズローの「欲求5段階説*2」などが有名です。両者が挙げるやる気を構成する要素は、以下3つの因子に整理することができます*3。これら3つの因子に関連づけたアンケート項目をもとに、ES調査を実行することによって、各因子ごとに組織の問題点を整理し、各因子を引き上げる対策を検討、実行することができます。

資料:2003年『やる気の構造』同文舘出版
3つの因子 因子の説明
人間関係因子 職場における一体感や打ち解けた雰囲気、またチームワークや信頼関係を重要視する因子
自己実現因子 仕事における自己能力の開発や目標達成へのコミットメントなどを重要視する因子
経済性因子 賃金、処遇制度、雇用の安定のように収入を得る手段に関する点を重要視する因子

各因子を引き上げるにはどうしたら良いでしょうか。「A.人間関係因子」を向上させるには、個々人の評判情報を流通させる(人となりを相互に知る)、仕事のたこつぼ化を防ぐ(仕事を公開し周囲の助言を仰ぐ)、協力へのインセンティブを生む仕組みを作る(協力の場を作る、自発的協力を評価する)などの対策が挙げられます。これら「A.人間関係因子」向上の対策は、費用がかからず大掛かりなシステムも不要です。しかも一定の効果が期待できるので、優先的に取り組むべきです。「B.自己実現因子」の向上は、個々人の性格分析も踏まえ、自己実現の中身を分析した上で対策を打たなければいけないので、個別対応が必要になります。中でも難しいのが「ゴールに向け成長が実感できているか」の点です。個々人にゴールを描かせ、そこに向かって持続的に成長していくことを周囲が協賛・承認し、当人に自信をつけさせる長期的な取り組みが必要です。「C.経済性因子」の向上にはもっとも手間と費用がかかり、組織的対応が必要になります。

ESに着目したアプローチが日本的経営の強みを取り戻す

従業員の協力と創意工夫を基盤に共通のゴールを目指すのは、日本的経営を支える強みでした。ESに着目し、ES向上の取り組みを広げることは、日本企業の強みを再構築する上でも、重要な課題と思われます。

*1
米国の心理学者F.ハーズバーグは、1968年『仕事と人間性』にて、仕事に対する満足をもたらす要因と不満をもたらす要因が異なることを示し、前者を動機づけ要因、後者を衛生要因と呼んだ。動機づけ要因には、仕事の達成感、責任範囲の拡大、能力向上や自己成長、チャレンジングな仕事などが挙げられる。衛生要因には、会社の方針、管理方法、労働環境、職場の人間関係などが挙げられる。
*2
米国の心理学者A.マズローは、1943年『A theory of human motivation』にて、人間の欲求を5段階(生理的欲求、安全・安定の欲求、社会的欲求、尊厳の要求、自己実現の欲求)に分類し、重要性に従ってそれらが階層構造をなしているとした。低次元の欲求が満たされれば、さらに高次の欲求を満たすべく行動する。
*3
参考文献2003年『やる気の構造』クレイア・コンサルティング著。

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