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株式会社日立総合計画研究所

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レベニュー債

所属部署:研究第三部 ファイナンスグループ
氏名:上原 麻悠

I. レベニュー債とは

レベニュー債とは、日本では、『事業目的別歳入債券』とも呼ばれており、水道や病院などの公営企業によるインフラ整備を目的に発行され、返済財源が特定された新型地方債です。公営企業の事業収益のみを元利金の支払いに充てる仕組みとなっています。例えば、レベニュー債を発行して病院を建てた場合、その病院の収益が元利償還に充てられます。レベニュー債を導入する自治体には以下の3点のメリットがあります。1つ目は、一般的な地方債とは異なり、自治体による債務保証が不要なため財政負担を軽減できること、2つ目は、事業の採算性が重要となるため、公営企業の効率化が期待できること、3つ目は、資金使途が、安定した一定の需要が見込めるインフラ設備であるため、長期的な資金を安定的に調達できることです。
1897年に米・ワシントン州スポケーン市において水道施設建設のために発行されたのが始まりといわれており、米国やカナダでは積極的に発行されています。

II. 膨らむ財政赤字とインフラ再整備の必要性

日本においても、ひっ迫した財政状況の中、インフラ老朽化対策の資金調達手法として、レベニュー債が注目されています。
日本では、高度経済成長期に大量に整備されたインフラ設備の老朽化が進み、再整備が急務となっています。さらに東日本大震災で壊滅的被害を受けたインフラ設備の復興事業も早急に進めなければなりません。しかし、自治体の財政赤字は膨らむ一方で、各自治体は財政支出の削減と資金調達に奔走しています。
2011年6月に茨城県が廃棄物公共処分場のために、レベニュー債に類似した「レベニュー信託」という手法を用いることで100億円の資金調達を行い、話題を呼びました。レベニュー債を発行するための法整備や仕組みがなかったため、信託の仕組みを用いた複雑なスキームとなってしまいましたが、この事例が注目されたことからも、レベニュー債のような民間資金をインフラ事業に投入するためのスキームには、ニーズがあるといえるでしょう。

III. 2013年度レベニュー債解禁を目指した政策

現在、政府は2013年度にレベニュー債の発行を自治体に解禁することを目指して、以下のような法制度の改正を行おうとしています。1つ目は、公営企業に事業・資産の分離を認めることです。公営企業がレベニュー債を発行するためには、債券を発行するための別会社を設立して事業・資産を移管する必要があります。しかし、現行制度では、公営企業には事業・資産の分離が認められていません。2つ目は、海外投資家の利子にかかる15%の所得税をレベニュー債の利子について非課税にすることです。今年度の税制改正で、東日本大震災の被災地のインフラ事業への投資に限り認められていた非課税措置を、全国のインフラ事業にも適用させるという案です。これには海外投資家の資金をインフラ事業に呼び込む狙いがあります。このレベニュー債解禁に関する政策は、政府が今年度に発表する『日本再生戦略』の柱の1つになるでしょう。

IV. 新たな資金調達手法として期待

レベニュー債が自治体の資金調達手法として一役を担いながら、同時に公営企業のガバナンスを強化させる一石二鳥のツールとなることが期待されています。 今後、自治体の財政事情を取り巻く環境は、ますます厳しいものになっていくと予想されます。さらに景気停滞が続けば、金融機関による長期貸付も難しい状態が続くでしょう。そのような中で、継続的なインフラ整備を行うためにも、レベニュー債を解禁することが自治体の資金調達力の強化につながると期待されます。
また、レベニュー債の元利償還は事業の収益に依存するため、投資家の監視を受けて事業の効率化が実現される可能性が高まると考えられます。レベニュー債の解禁が、公営企業のガバナンスを抜本的に改革する転機となるかもしれません。 自治体にとって多くの投資家から、より柔軟に資金を調達することが可能になる点も特徴の1つです。レベニュー債には、一般的な地方債にはないと解釈されていたデフォルト(債務不履行)の可能性があり、投資家が負担するリスクに見合った利回りが見込まれます。それにより市場が拡大すると期待されています。
自治体がレベニュー債による資金調達を行う際には、メリットとデメリットを明確にした情報を適切に開示し、ステークホルダーの理解を得ることが重要となるでしょう。

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