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株式会社日立総合計画研究所

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「旬」なキーワードについての研究員解説

デジタル密

研究第三部 技術戦略グループ
氏名:白倉知拓

1.デジタル技術でバーチャル(仮想的)に密を再現する手段の必要性

新型コロナウイルスの感染拡大により3密(密集、密閉、密接)を避けフィジカル・ディスタンスを確保することが社会的に要請され、生活様式は大きく変わろうとしています。例えば、外出自粛が求められる中でも購買や労働などの活動は必要であり、EC(電子商取引)利用やテレワーク労働が生活の中に定着してきました。一方、外出機会減少への反動から人と人のつながりが強く求められるようになり、オンライン飲み会のようなデジタル空間での社会活動も増加しています。このような中、物理的には距離を取りつつ社会的には親密な関係を保ちたいという相反するニーズが高まり、デジタル技術で解決しようとする試みが進んでいます。
日立総研では、デジタル技術を用いてバーチャル(仮想的)に密を再現する手段を「デジタル密」として、注目しています。また、IT分野を中心とした調査会社であるガートナーも、「デジタル密」に近いコンセプトを「ソーシャル・ディスタンシング・テクノロジ」として、ハイプ・サイクル1で取り上げ、社会からの期待度のピーク期に位置付けています。特に、プライバシー保護の観点で企業経営者やIT部門の注目を集めており、社会の関心の高さを表しています。
デジタル密の動向が、パンデミックにより不可逆に変化したライフスタイル、ワークスタイルに大きな影響を及ぼすものと考えられます。

1
ハイプ・サイクルとは、時間を横軸に、期待度を縦軸にし新しい技術に対する期待度が時間経過でどのように変化するかを表現した図。(ガートナー:「先進テクノロジのハイプ・サイクル2020年」より)

2.社会的な親密性を高めるデジタル密の取り組み

デジタル密実現には「物理空間と同等のサービス・コミュニケーション品質」が重要です。例えば、リモートでの人と人のコミュニケーションでは、会話の参加者は物理的に同じ場所に存在しませんので、相手の様子が分からず、コミュニケーションを取る場合でも都合を確認する必要が生じます。これに対してデジタル技術を活用し、仮想空間上にコミュニケーション参加者間の「デジタル密集(相互認識)」「デジタル密接(親近感)」「デジタル密閉(空間共有)」を演出し、気ままに雑談ができるような環境を創出することが求められます。以下に、この課題への対応と取り組みを紹介します。
デジタル空間上での「密集」を実現した例として、ソニックガーデン社の「Remotty」というサービスが挙げられます。利用者は、PCを用い、Web上のRemottyオフィスに参加します。画面上には自席が存在し、約2分間隔で撮影された各自の画像が表示されるため、自分と周囲のヒトの心理的距離感が分かり、各自の画像をクリックすることで雑談や簡単な相談事などを、ビデオ会議やチャットツールを用いて、リアルタイムで、気軽に開始できるようになっています。
また、「密閉」を実現した例として、SoVec社の「そのまま展示会」というサービスが挙げられます。これはVR(仮想現実)空間上で物理空間そっくりに展示会場を開設するサービスで、バーチャル会場ではブースの設置や参加者同士での連絡先交換などが可能です。参加者はVRゴーグルやPCを用いて展示会に参加し、実際の展示会のようにバーチャル会場を自由に行き来しながら、興味のあるブースに立ち寄ったり、他の参加者とアバターを使って意見を交わしたりすることが可能です。 「密接」を実現する取り組みとしては、ミライセンス社(2019年に(株)村田製作所が買収)の3D触力覚技術があります。これは、脳の錯覚を利用し、振動子を内蔵した小型デバイスを使って皮膚を刺激することで触感を再現する技術です。デジタル空間上で握手した相手の手の感触をリアルに感じることで、相手との空間的な近さを体感できる可能性があります。
以上のように物理空間同様のコミュニケーションや体験をデジタル技術を用いて、仮想空間で実現する取り組みが始まっています。

3.デジタル密の普及に向けた課題

このように、デジタル密では、PC、スマートデバイスを介して、さまざまなユーザが仮想空間に入退室可能な環境を創出することで、物理空間と同等のサービス・コミュニケーション品質を実現します。そこでは、ユーザID、センサーデータ、アクセスログなど、個人行動履歴に関わる情報のやりとりも発生します。そのため、人々が安心してデジタル密を利用できるようになるためには、セキュリティ確保とプライバシー保護が課題になります。例えば、オンライン会議サービスのZoomですが、利用者が急増した当初、会議のパスワード設定が必須ではなかったため、会議に招待されていない者が会議IDを盗用して会議に参加し、妨害行為を行うなど、セキュリティ上の問題が多発したと報告しています 。2Zoomはセキュリティ対策として、会議画面にセキュリティアイコンを追加し、会議室のロックや、参加者の管理を容易に行えるようにしました 。3
デジタル密を用いた生活が普及すると、ヒト・モノ・サービス・カネに関わる機微な情報がデジタル・データとしてエッジやクラウドに蓄積されます。そのようなデータは悪意のある攻撃の対象となる可能性があります。今後デジタル密の普及に合わせ、多段階セキュリティ認証や不正アクセス監視といったセキュリティ技術、匿名化や秘密計算などのプライバシー技術が重要度を増していくと考えられます。

2
https://blog.zoom.us/navigating-a-new-chapter-for-zoom/ Navigating a New Chapter for Zoom
3
https://blog.zoom.us/zoom-product-updates-new-security-toolbar-icon-for-hosts-meeting-id-hidden/ Zoom Product Updates: New Security Toolbar Icon for Hosts, Meeting ID No Longer Displayed

4.今後の展望

デジタル密を実現する技術は、現在はB2Cの分野で開発が進んでいますが、B2Bの社会インフラ運営においてもこれら技術を活用することで、フィジカル・ディスタンスを維持しながら、生産性向上を実現することが可能になります。例えば、遠隔作業用アバターロボットに触力覚技術を搭載すれば、遠隔地からの制御でも熟練作業者が精緻な現場作業を行えるようになります。
ここまでご紹介してきた事例は、デジタル空間での活動が物理空間の活動を補完する取り組みでした。しかし、デジタル空間は、物理的な距離や施設の収容力といった制限に関係なくコミュニケーションが取れる環境をユーザに提供します。多くのユーザがデジタル空間のメリットを認識し、デジタル密を実現する技術がさらに進展していくことで、デジタル空間を中心とした生活様式も選択できるようになります。例えば、物理空間で行われる講演会は、参加者にとって講演者の素顔や生の声に触れ、また会場の雰囲気を感じ取ることのできるものですが、会場のキャパシティや、開催場所によっては遠隔地で参加できないなど、物理的な制限があります。もし、講演会をオンラインで開催すれば、3密回避のみならず、講演者は会場のキャパシティに関係なく多くの参加者に自分の話を届けることができ、また参加者は、チャット機能などを活用することでより手軽に講演者に質問ができ、講演者・参加者のコミュニケーションが活発になります。withコロナやafterコロナ時代でフィジカル・ディスタンスが不要な生活が戻っても、あえて講演会のオンライン開催を選ぶ機会も増えてくるでしょう。
デジタル密の進化により、日常生活でデジタル空間活動の比率が高まっていくと期待されます。デジタル技術を提供する企業には、デジタル密が実現する価値を重視したソリューションの提供が求められるようになるでしょう。

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