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社長 溝口健一郎のコラム

第21回:2026年はどのような年になるだろうか

    新年がどのような年になるのか考えるにあたって、2025年はどのような年であったのか振り返りたい。政治面では、トランプ大統領の就任以降、自国優先主義の拡散がより鮮明になった。安全保障面でも、経済面でも、移民政策においても、多くの国において右傾化が進み、自国の利益と安全をまずは優先するのがニューノーマルとなっている。これは、地政学的な緊張が高まる中で自国民を守るための「嵐からの避難」であると同時に、各国指導者のエゴと社会の格差が招いた国民の鬱積(うっせき)による選択でもあった。2025年の世界経済は、トランプ政権による極端な関税政策によってめちゃくちゃになるのではないかとの懸念で始まり、実際米国の政策不確実性に翻弄(ほんろう)されたが、防衛費増額などの各国の財政支出やAIが牽引(けんいん)する投資に支えられ、奇妙な安定を見せた。

    欧州の極端な熱波、スリランカやパキスタンの大洪水、南米や米国カリフォルニア州での大規模な山火事など、異常気象は常態化かつ激甚化した。世界の富裕層上位10%が世界の富の75%を所有し、下位50%は2%しか所有しないという貧富の格差拡大はさらに顕著になっている。2024年に世界の上場企業時価総額の合計は114兆ドルに達したが、その54%は米国に集中し、上位10カ国で9割を占めている。トマ・ピケティが解明したように、資本収益率が経済成長率を上回るため、資本所得が労働所得よりも有利な構造が持続するのであれば、この格差は今後も拡大を続ける可能性が高い。2025年の資本市場成長を圧倒的に牽引したのはAIによる価値創造への期待であった。米国株式市場の約40%をAI関連銘柄が占め、AI開発やデータセンター建設のための巨額な投資計画が連日のように発表された。

    第2次世界大戦終結から80年間、世界で大国間の直接の戦争はなく、世界は平和の恩恵を享受し、この間世界の人口は3倍、平均寿命は2倍、世界GDPは15倍に成長した。民主主義国家の数も増え続け、1974年には権威主義国家の数が121、民主主義国家の数が37であったが、2002年にはそれぞれ85、91と逆転した。しかし、2024年には22年ぶりにこの数が再逆転し、権威主義国家の数が91、民主主義国家の数が88となっている。世界人口に占める割合で見ると、2004年には世界全体の49%であった権威主義国家の人口は、2024年には72%を占めるに至っている。世界の秩序は、「力」、「ルール」、「国際協調」のバランスによるものから、「力」が優先するものへと変化している。価値は揺らぎ、世界が再編されつつある。

    こうした世界への認識をベースに、日立総研では2026年に想定しておくべきリスクは以下だと考えている。

    1. 「力」が優先する国際秩序への移行
    2. 中間選挙をめぐる米国社会の混乱
    3. 中国のグローバルな影響力が急拡大
    4. 停戦あるいは悪化の予見が困難となる世界各地の軍事紛争
    5. AIのガバナンス不全が引き起こす混沌(こんとん)
    6. 国家運営や企業活動をまひさせるサイバー攻撃
    7. 自然災害の常態化に追いつかない防災対策
    8. AI関連投資への期待剝落による資本市場の調整
    9. 政治の過度な経済介入による米国発の世界景気後退
    10. 電力需要の急拡大に追いつかないエネルギー供給

    AIは今後、初期の試行段階を経て、Agentic AI、AIモデル、データ基盤、AIインフラの各層の統合体として構成される「AIスタック」として、次世代の重要社会基盤となっていくだろう。AIは、生産性向上やバリューチェーンの統合、難病の克服とヘルスケア革命、宇宙環境や原子炉内など危険環境下の作業代替など、人類の飛躍に貢献する可能性がある。一方、AIは、ガバナンス不全による社会の混乱、戦争拡大への悪用、人間の精神破壊などを引き起こすリスクがある。世界のマネーは拡大を続けていて、マネーのGDP比は140%以上に達している。世界の上場株式の時価総額GDP比は、ドットコムバブルや世界金融危機時以上に高くなっている。AI技術と膨張するマネーは、「力」優先の地政学情勢との相乗作用で、世界のボラティリティを高め、予見可能性を低下させている。ノストラダムスやババ・ヴァンガにもこれからの未来の予言は難しいだろう。幅広い可能性を見極め、多様なリスクシナリオに備えていくしかないのであろう。

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