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Voice from the Business Frontier

ディスラプションの到来:非金融系参入企業は、如何にして米国金融部門にアプローチしているのか

    Michael Lewandowski

    Michael Lewandowski

    Method, a GlobalLogic Company*1
    Principal, Financial Services Lead

    Methodで5年、それ以前も含めると12年以上にわたって大企業、スタートアップ企業、非営利団体が顧客に価値をもたらし、自らの目標達成につながる製品や体験を創造できるよう支援を行ってきた。戦略的計画におけるLewandowski氏の経験は、顧客の目標の明確化に寄与している。顧客ニーズを踏まえて戦略を最適化し、組織の目標に到達するための計画立案に尽力している。

    MethodのLewandowski氏を迎え、ご自身の専門分野や、米国金融業界に参入する非金融プレイヤーの現状、将来の展望などについて伺った。

    *1
    Methodは、戦略設計とデジタル商品開発を専門とするコンサルティング会社。2011年にGlobalLogicの傘下となった後、2021年にGlobalLogicが日立グループに加わったことから、現在はMethodも日立グループの一員として事業を展開している。

    Q1. Methodでの主要イニシアチブと、ご自身の専門分野についてお話しいただけますか。

    Methodでは5年にわたり金融サービスの責任者を担当しており、弊社に持ち込まれる様々な案件に対して金融サービスの視点からソリューションを導出するとともに、デリバリー、ソートリーダーシップ、オファリング開発にも携わっています。また、GlobalLogicの金融サービス部門とも緊密に連携し、市場アプローチや市場に提供するオファリングに関する協力関係を築いています。

    Methodに入る前は、戦略コンサルティング企業で3年間M&A支援に従事し、非金融ソフトウェア企業数社を買収しようとしていた米国5大銀行の1つを支援しました。これらの非金融企業は、決済処理にも活用できる優れたビジネスソフトウェアを開発しており、同行は決済分野での競争力維持を目的として、買収を検討していました。さらにその前職はフィンテック企業で、選択的医療処置の決済方法としての消費者向け個人ローンの戦略・商品開発を担当していました。

    Methodは銀行、保険会社、資産管理会社に対して、より多様な商品を顧客基盤に提供し、顧客エンゲージメントを高めることで、顧客の財務目標達成を支援する方法を把握するサポートをしています。販売業者やサービス企業に対しては、リピートや取引増加という観点から、エンゲージメントプログラムやロイヤリティプログラムを通じた販売機会の拡大に焦点を当てて、支援を行っています。

    Methodはまた、コア技術プロバイダだけでなく、金融サービスバリューチェーンの特定領域を選択してディスラプトしてきたB2Bプレイヤーも支援しています。金融機関や非金融機関といった各組織が、ロイヤリティ、顧客エンゲージメント、そしてマルチプロダクト統合に関連する目標を達成できるよう、弊社はあらゆる側面で連携しています。

    Q2. 非金融プレイヤーが金融サービス分野で存在感を高めるにつれて、どのような課題に直面するのでしょうか。

    私見では、金融サービス分野に参入する非金融プレイヤーには、1) 売上と利益の最適化を追求する販売業者やサービスプロバイダ、2) 販売業者やサービスプロバイダを顧客と繋ぐプラットフォーム、3) 販売業者やサービスプロバイダ、金融機関、または顧客の間に立つB2Bプロバイダという3つが存在しているように思います。これらのプレイヤーは、バリューチェーンの特定領域に狙いを定めることで重要な役割を果たし、独自のポジションを築いています。販売業者やサービスプロバイダは、売上増や顧客との関係強化、そしてビジネスモデルの最適化や効率化を実現したいという意欲に満ちています。そこで課題となるのが、「如何に売上を増やすか」、「如何に取引コストを削減するか」ということです。
    数ある論点のうち、販売業者、プラットフォーム、金融機関の間で最も対立が生じやすいのは、顧客関係とデータに関する問題です。販売業者が、プラットフォーム、サービスプロバイダ、金融機関に業務を委ねるほど、顧客に関する知識と理解を失っていくため、将来の売上確保に向けた取り組みに悪影響が及ぶおそれがあります。プラットフォーム側も、販売業者やサービスプロバイダと同様に、顧客関係やデータの所有を重視しますが、これにより、プラットフォームと販売業者、さらに金融機関との間の緊張関係が生じます。多くの場合、販売業者、決済プロバイダ、技術プロバイダ、そして金融機関が、同じ顧客データを巡って競い合っています。

    一方、B2Bプロバイダは、販売業者、サービス事業者、プラットフォームが掲げる目標を実現できるように支援し、支援の対価としてこれらの当事者から手数料を受け取っています。また、金融機関からは取引手数料を受け取っています。

    Q3. 非金融機関が金融サービス部門に参入する際に遭遇する大きな障壁は何ですか。

    米国における規制は、金融サービス部門に参入する販売業者や非金融プレイヤーにとって、大きな障壁となります。規制対象金融機関の地位を維持するだけでも高いコストがかかることを、すべてのプレイヤーが認識しています。ソフトウェア企業やその他の非金融ビジネスモデルに比べると、その地位を維持することで、収益性は低くなります。非金融機関が金融機関への依存や手数料を排除したいと望んでも、仲介業者排除の代償として負担する金融コンプライアンスのコストは非常に大きく、これが、非金融プレイヤーが金融サービスを完全にディスラプトできない最大の理由です。

    規制上の障壁と密接に関連しているのは、異なる組織モデルを確立するための業務コストです。組織の中核的な価値提供メカニズム以外への如何なる投資も、本来の価値提案から外れることとなります。決済処理方法の考案やその周辺への取り組みに時間を費やすほど、企業は自身の中核的な価値提供に注力できなくなり、金融分野・非金融分野いずれの世界でも競争が困難になります。

    金融サービス領域をディスラプトしようとする企業がまず直面する最初の選択肢は、従来型のコアプロバイダシステムを採用するか、あるいは新たなコアプロバイダシステムを採用するか、という二択です。前者を選択した場合でも、その企業は表向きには最先端のデジタル企業のように見えますが、実際には古いシステムに縛られることになります。その仕組みを前提にイノベーションを行わなければならないため、やがて困難な状況に陥る可能性があります。

    Q4. Methodが支援するクライアントとの取り組みを踏まえて、非金融プレイヤーによる今後のディスラプションについての見通しを教えてください。

    我々のクライアントである販売業者やサービスプロバイダにとっての重要な目標は、依然として初回の購入とリピートの最適化であると考えています。Methodは、製品戦略から販売・オンボーディング体験の設計開発、そして顧客エンゲージメント戦略に至るまで、あらゆる面で企業をサポートします。販売業者やサービスプロバイダとのこれまでの連携の多くは、いわゆる「ファネルの最前線」、つまり販売成功率を如何に高めるか、そしてエンゲージメントとロイヤリティ施策を如何に継続するかという点を重視していました。多くのクライアントが、エンゲージメントとロイヤリティを通じて、顧客関係をどう最適化するかについての見識を求めて、Methodを訪れます。

    一般的に、規制が変更されない限り、販売業者やサービスプロバイダが規制対象の金融事業体に移行する可能性は低いと思います。唯一の例外はFord Creditのケースです。完全な形の銀行とは言えないものの、同社は認可機関となるための申請を進めています。

    プラットフォーム領域では、既にスーパーアプリが確立された一方で、新興のディスラプターも台頭しています。スーパーアプリ企業は社内に成熟した製品開発組織を抱えていることが多いため、外部のサードパーティベンダーのサポートを求める可能性は低いです。Methodでは、主にGlobalLogicを通じてGoogleなどと連携してきましたが、その多くは金融サービス関連というよりむしろ、バックエンドのデータ領域の支援です。

    最近はB2B金融サービス分野で特定の機能を果たす企業から、弊社への支援依頼が急速に増加しています。こうした企業は、特定のニッチな領域から複数領域へと事業を改善しながら拡大し、自社の価値や競争力の向上を図っています。このようなディスラプターは、高付加価値の市場やプレミアム領域へのオファリング拡大において課題に直面する可能性があります。そこに、MethodやGlobalLogicのビジネス機会が生まれます。

    最後に、サポートの観点から見ると、従来の金融機関はディスラプションの波に脅威を感じており、顧客体験の向上とクライアントとのマルチプロダクトによる関係の促進を支援するため、MethodやGlobalLogicのサービスを求めています。

    Q5. 近年、大手テクノロジー企業、小売業者、通信事業者などのうち、どのような非金融事業体が金融部門でディスラプターとなる可能性があると感じますか。

    歴史的にも将来的にも多額の投資やディスラプションが発生するのは、依然として資金移動分野であると思います。この分野は規制が比較的少ないため、各種の手段を通じて資金移動を支えるあらゆる場面で、ディスラプションを継続する大きな機会が存在します。

    過去数年間の非金融企業の成功例を見ると、スターバックスは、顧客体験とロイヤリティを豊かにするデジタルウォレットプラットフォームを確立し、なおかつ、チャージされた未使用残高を自社で保有する仕組みを作り上げました。過去15年間で最も成功を収めた小売企業と言えるでしょう。これは、販売業者が創造力を持ち、顧客体験とロイヤリティに焦点を当てて、顧客理解を深めることで、決済を含む金融サービスの基盤の一部をディスラプトすることができたという興味深い例です。

    AppleとAmazonも顧客ロイヤリティに関して様々な試みを行っており、クレジットプログラムも運用しています。現在、Appleカードの発行・運営を担当している金融機関が、その業務を他社に引き継ぐために売却しようとしている動きが見られます。両社は独自の価値提案を持つので、今後もディスラプションを生み出す領域が広く存在します。

    Teslaは自動車分野で最も大きな可能性を有しており、販売代理店から車内、そして充電ステーションに及ぶエコシステムを創出しています。イーロン・マスク自身が決済業界の経歴を持つので、本人や関連企業が、外部の第三者に頼るのではなく、既存の価値をディスラプトしてより多くの価値を得ようとする手段として、決済分野にさらに進出する可能性があります。

    既に言及したように、資金移動や決済ソフトウェアは、特に暗号通貨やステーブルコインが主流に加わりつつあっても、依然として注意すべき領域です。こうした新しい価値移転手段は、商業金融をディスラプトする大きな可能性を有しています。MethodとGlobalLogicは、商業金融がディスラプトされればされるほど、ユーザー体験の設計・開発への投資が加速すると確信しています。こうした中、ERPやEMR*2といった、固定されたユーザー基盤を持つシステムは、企業財務において中心的役割を果たし、既存のユーザー体験への重要性を背景に、ディスラプションにおける重要なプレイヤーとなるでしょう。

    *2
    ERP(Enterprise Resource Planning)は企業資源計画を意味し、EMR(Electronic Medical Record)は電子医療記録を意味する。

    Q6. ステーブルコイン、生成AI、量子コンピューティングなどの新たな技術の出現により、非金融機関の金融部門への参入が加速するでしょうか。

    ステーブルコインの発行、そして関連取引プラットフォームを巡る高揚感の一部は、それらのビジネスモデルが金利と密接に結びついているという事実によるものだと思います。しかし、最近の金利動向は、そのビジネスモデルにとっての逆風となりつつあります。そこには興味深い緊張関係があると思います。

    また、ステーブルコインが制度面や企業面で最大の価値を有するという議論も耳にします。膨大な量の資金を移動させることができるので、例え小さなマージンであっても、数十億ドルや数兆ドルの規模となると、わずか1%の差でも大きな違いがあります。これは、決済の歴史を通して私たち全員が学んできたことです。

    金融業界は今、転換点にあるのだと思います。米国には、他のほとんどの国よりはるかに多くの銀行や金融機関があります。今後、その数は劇的に減少していくと思います。これは既に市場トレンドとなっています。そのため、金融サービス市場や金融機関の構造そのものさえも、今後の更なる統合や淘汰を経て、変化していくものと考えます。

    非金融サービス企業が市場に参入するには、いくつかの条件が成立しなければなりません。第一に、規制当局が、参入を可能とする方向性を示す必要があるでしょう。すなわち、企業が市場参入を検討できるよう規制緩和が必要であるということです。第二に、金融商品の基盤となる中核技術が現代の製品開発のスピードに応じて確実にスケールできるようにするため、関係する企業が相当な額の先行投資を行う必要があるでしょう。

    金融サービスへの参入や事業拡大を進める上で、老朽化した中核バンキング技術が大きな障害となっています。従来の中核プロバイダがAIを駆使して従来のコードを最新のコードに書き換え、更新版を作成することで最新化を実現できるのか、それとも、クラウドネイティブでマイクロサービス型の技術を持つディスラプターが、如何にして高付加価値市場や高度な金融商品市場に進出できるのか、このような競争が繰り広げられているのです。

    高付加価値市場への進出と商品ラインの拡大を必要とするフィンテック系ディスラプターか、既存市場に存在する巨大企業のどちらが競争を制するかを予測するのは難しいと思います。勝敗の行方は、これらの巨大企業が迅速に技術革新を進め、ポートフォリオを転換し、競争優位性維持を実現できるか否かにかかっています。現時点では、どちらが競争を制するかは五分五分でしょう。

    企業向けの金融サービス市場では、今後多くのディスラプションが起こるだろうと思います。これは注目すべき動きであるので、クライアントとの連携を深めるのに非常に重要な分野だと考えています。

    Q7. GlobalLogicとMethodでは、顧客をどのようにサポート、あるいはアドバイスしていますか。

    私どもが積極的に開発・強化しているオファリングは3つありまして、戦略の最適化や変革に取り組む金融機関だけでなく、金融サービスへの参入又は拡大に取り組んでいる非金融機関も支援できると確信しています。MethodとGlobalLogicが採用している多角的アプローチの一部であるその3つを紹介します。

    第一に、最新プロダクトアプローチです。商品提供における摩擦点を検討した上で、効率と効果を重視しながら、提供速度と品質向上をめざす実践的なアプローチにより企業を支援します。アセスメントを行って企業と協働し、実践的に企業と協力することで、体験設計を改善して企業の戦略目標の達成可能性を高めることができます。

    第二に、GlobalLogicと共同で開発した、エンベデッドファイナンスのプロダクトオファリングです。パートナーの決定から、拡大と更新を容易に行うことが可能な環境の構築とサポートの最適化に至るまで、包括的に支援するものです。弊社ではこのオファリングを昨年展開しましたが、現在も高水準の需要が継続しており、大規模かつ継続的な案件を得る大きな機会になるという手応えを感じています。

    第三に、弊社が新たに展開したイネーブルメントオファリングです。弊社の従来のリサーチや体験設計アプローチと相性が良く、企業に対しては、AIと自律型ソリューションが人、プロセス、技術に与える影響の認識や、真の価値を提供する反復的なリリースサイクルの開発ができるよう支援を行っています。

    これらが、弊社が現在注力している、市場での大きな需要を見込んでいる中核事業の一部です。こういった取り組みにより、Methodが得意とする、企業の戦略立案とユーザー向けソリューション設計の支援においても、あるいはGlobalLogicが得意とする、将来に向けた持続的なインテリジェント・アーキテクチャの構築においても、弊社は優位な立場にいられると考えています。

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