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Tshilidzi Marwala 氏,鈴木 教洋

No.59 Tshilidzi Marwala(チリツィ・マルワラ)氏

AIの活用が導く持続可能な未来

    私たちは今、社会のあらゆる分野に人工知能(AI)技術が浸透している「AIの時代」に生きており、AI技術の急速な発展が、あらゆる国・地域、政府や企業、そして市民の強い関心を集めています。AIがもたらす恩恵に大きな期待が寄せられる一方で、AIに支えられた社会で生じる倫理的問題やリスク、雇用や暮らしへの負の影響も懸念されています。今回は、国際連合大学学長であり、AIの理論・応用の世界的権威でもあるチリツィ・マルワラ教授に、AIの現在と未来、そして持続可能な開発を進める上でAIをどのように活用すべきかについてお話を伺いました。
    (聞き手は、日立総合計画研究所取締役会長の鈴木教洋が担当)

    Tshilidzi Marwala 氏

    Tshilidzi Marwala(チリツィ・マルワラ)教授

    国際連合大学学長 兼 国際連合事務次長

    ケンブリッジ大学、プレトリア大学、ケース・ウエスタン・リザーブ大学を卒業。前職はヨハネスブルグ大学副学長 兼 第一校長。2023年3月より現職としてUNESCOやWHOなどの国連機関と連携。
    複数の著名な科学アカデミーのメンバー。
    著書は25冊以上にのぼる。南アフリカの「マプングブエ勲章」ほか受賞歴多数。
    マルワラ教授の活動について、詳しくは、https://unu.edu/rectorを参照。

    国際連合大学学長であり、AI研究者でもあるマルワラ学長が見る日本

    鈴木国際連合大学(以下、国連大学)学長として来日してから、日本あるいは東京という街について印象深く感じたことは何ですか。また、国連大学が東京に置かれている理由やその独自の役割についても教えてください。

    マルワラ東京に来て一番驚いたのは、人口約3,700万人*1という大都市圏であるにもかかわらず、人があふれていると感じないことです。その理由の一つが、公共交通システムが充実していることです。遅延がほとんど生じませんし、自動車より速く移動できます。私は世界のさまざまな都市で生活してきましたが、日本の交通網はこれまで見てきた中でもトップクラスです。

    次に国連大学を東京に設立した理由ですが、アジアに拠点を置く国際連合(以下、国連)の機関は東京の国連大学のほかには、タイ・バンコクにある国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)*2があるものの極めて少ない状況です。そのため、アジアで国連の認知度と影響力を維持する上でも、東京に国連大学を置くことは極めて重要で、意義があることです。国連の教育・学術関連機関である国連大学として、世界トップクラスの高等教育就学率を誇る日本の学術エコシステムの恩恵を受けることができ、きれいで住みやすい街であることや、交通網が発達していることは重要な要素だと考えています。

    鈴木日立は新幹線・鉄道インフラの整備に貢献してきたので*3、日本の交通システムに感銘を受けたと伺い、とてもうれしく思います。

    マルワラ新幹線について聞かれたとき、私がいつも話すのは「テーブルに置いたコーヒーがこぼれない」ということです。一見簡単に思えますが、これを支えているのは振動制御システムです。このシステムは、あらゆる固有振動数を打ち消して揺れを防止できるため、テーブルの上の飲み物がこぼれないのです。

    鈴木振動といえば、以前教授は、おばあさまが陶芸をしていた影響で、子どもの頃に振動と構造の関係に興味を持つようになったと述べていました。幼少時の経験が、どのように機械工学とAIの研究に打ち込むことにつながっていったのでしょうか。

    マルワラ祖母はラグマットを織ったり、陶器のつぼをつくったりしていました。彼女は生まれながらのエンジニアで、私に工学を教えてくれた最初の先生でもあります。祖母は学校に通ったことがなく、振動の理論を知っていたとも思えませんが、本能的に理解していたのでしょう。つぼをつくるときは、まず川に行ってつぼに適した粘土を見分けます。その後、つぼの形に成形して窯で焼き、時間をかけて冷まして、つぼを一つ一つ軽くたたいて音を聞くのです。祖母いわく「音が長く響けば良いつぼ。短ければ悪いつぼ」なのだそうです。これはエンジニアであれば、振動を学ぶときに習う減衰係数という概念を用いて説明する現象です。祖母はそのような概念などまったく知り得ませんが、良いつぼかどうかを本能的に聞き分けていたのです。

    私が博士号(PhD)の取得をめざして研究していたのは、まさしく物体の構造です。構造物を軽くたたき、その音を加速度計や振動計などの高度な計器を使って計測し、計測データをAIシステムに入力して解析するという振動試験を行っていました。この試験の中で、私はAIを活用した自動化の力を実感したのです。人は疲れたり、パフォーマンスに波があったりして、判断にばらつきが出ますが、AIで異常検知を自動化することで、こうしたリスクが軽減されます。「たたく」でいえば、面白いのが蒸気エンジンの時代、英国では列車のレールをたたくという仕事がありました。祖母がつぼをたたいていたのと似ていますが、たたくことでレールに問題があるかどうか調べていたのです。今日ではここにもAIが用いられており、AIを搭載したひずみゲージや振動計、加速度計などの高度なセンサーや計器が、この分野に不可欠なツールとなっています。

    対談の様子

    *1
    千葉・埼玉・神奈川を含めた首都圏の人口の概算値。
    *2
    アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)の本部はバンコク。https://www.unescap.org/
    *3
    新幹線・日本の鉄道インフラ整備への日立の関与:  https://www.hitachirail.com/blog/the-shinkansen-a-worldwide-symbol-of-prestige/

    AIの進化と未来

    鈴木日立はデジタルとAIを中核に据えたデジタルセントリックな企業への変革を加速させ、社会イノベーション事業を通した独自の価値の創出をめざしています。生成AIの出現で「新たな革命が起きようとしている」とマルワラ教授はよく言われていますが*4、AIの現在の進化をどのように見ていますか。

    マルワラ生成AIは多くの人にとって革命です。1980年代、すでにAIシステムを利用して自然言語処理が行われていました。では今、当時に比べて何が変わったのでしょうか。その一つは、優れた測定装置やデータ処理技術、大容量のデータストレージで、ロスを最小限に抑えながら膨大なデータの収集が可能になった点です。また、演算能力も劇的に進歩しています。とはいえ忘れてはならないのは、生成AIが真に新しいものをつくり出すことはないという点です。生成AIはモデルの学習で使用された既存データに基づいてアウトプットを生成するので、学習データが不完全であったり不備があったりすれば、誤りやもっともらしい嘘(うそ)を出力するという問題が生じてしまいます。だからこそ、未来に目を向けるときには、AIがどのように進化していくかを考える必要があります。今後もAIの応用は広がり、将来的に、例えば製造業であれば、組み立てラインに口頭で指示を出すだけで、工程を改善できるようになるでしょう。ただそのためには、人間が新たな状況に常に素早く適応する能力を備えているように、AIも進化しながらその適応力を高める必要があり、AIシステムが自己適応型になっていくことが重要となるでしょう。

    演算コストの削減も重要です。半導体装置は演算中に大量の熱を発しますし、半導体の製造とデータセンターの冷却にもかなりの水資源が必要です。これを解決するためには、半導体技術の進歩と持続可能なリソース管理が重要となります。

    そしてAIの普及が進む中で忘れてはならないのは、ガバナンスです。AIのガバナンスをどのように行うかが私たちの未来にとって極めて重要となってくるでしょう。ガバナンスはイノベーションを妨げるものであってはならず、有害な使い方を排除しながら、有益な利用を推進することが必要です。

    鈴木私たちは、エネルギー供給、冷却システムでの実績を生かして、エネルギーと水資源の持続可能な利用に貢献するためにも、生成AIを活用してLumada*5を進化させる取り組みを続けています。
    日立では、デジタルエンジニアリングのほか、インフラや製造などの分野でAIの活用を進めており、その過程でAIが従来産業を変革していく様子を目の当たりにしています。AIの社会実装という観点で、最も期待が持てるのは、どのような分野だとお考えですか。

    マルワラ一つは医療分野です。日本は平均寿命が長いのに、平均寿命が短い米国より1人当たりの医療費が少ない。日本はどのようにして米国より少ない支出で、成果を上げているのか、という疑問が生じます。医療費の抑制・削減という極めて重要な社会課題の解決において、日本はAIを活用し、診断精度を向上させる取り組みを進めてきました。AIは人間の医師よりミスが少ないことから、すでに医療診断に活用され、コスト削減に、またコストを上げないスクリーニング回数の増加に寄与しています。今後は医療機器にもAIが活用され、その多くが機能の拡張や診断・治療の精度向上につながり、平均寿命の伸長にも貢献することでしょう。

    もう一つは、サプライチェーン管理の分野です。今後は自動化が進み、生産性が向上する一方、工場の雇用は縮小します。職を失った労働者の受け皿を用意することが重要となりますが、将来人口減少に直面する諸国にとっては、自動化は生産性と経済的豊かさを高める手段となります。

    教育分野におけるAIの役割も重要です。東京のある地域では、デジタル教育システムを試験的に導入していると友人から聞きました。生徒は学習支援AIと対話し、分からないこともAIに尋ねます。これはまだ発展途上で課題も多い試みのように聞こえるかもしれませんが、将来的には教育分野でのAIの活用は今よりはるかに普及するはずです*6。ただし、教育は単なる知識の取得ではありません。生産性を高めるために人と人が力を合わせ、グループで何かを成し遂げることが重要です。人間とAIのハイブリッド型の教育について、考える必要があるでしょう。

    鈴木日立ではドメインナレッジ、インストールベース、デジタルケイパビリティを生かしたソフトウエア開発の合理化や、NVIDIA AIを活用した鉄道事業者向けデジタルプラットフォーム「HMAX」*7のようなAIソリューションの高度化に取り組んでいます。今後も、AIを活用したLumadaの進化、HMAXの産業分野などへの拡大を進めていきます。

    対談の様子

    *4
    Marwala T. The Fourth Industrial Revolution has arrived. Comments on Moll (S Afr J Sci. 2023;119(1/2), Art. #12916). S Afr J Sci. 2023;119(1/2), Art. 15429.https://doi.org/10.17159/sajs.2023/15429
    *5
    詳しくは、https://www.hitachi.com/products/it/lumada/global/en/index.htmlを参照。
    *6
    マルワラ教授の変革的教育(transformative education)に関するビジョンについて詳しくは、
    https://usaf.ac.za/tshilidzi-marwalas-vision-for-transformative-higher-education/
    https://medium.com/@tshilidzimarwala/generative-ai-and-education-1e203acdf83fを参照。
    *7
     https://www.hitachirail.com/products-and-solutions/digital-asset-management/

    AIガバナンスに不可欠な枠組み:イノベーションと倫理的な利用の両立

    鈴木先ほどガバナンスの話がありましたが、マルワラ教授は論文やインタビューで、AIシステムに内在する倫理的リスクとバイアス*8を強調しています。技術革新と人間の尊厳の両立という課題に対処するために、どのようなガバナンスの在り方が必要だとお考えですか。

    マルワラまず何を対象にガバナンスするかを明確にしなければなりません。ガバナンスが必要なのは、第一にデータ、第二にAIを想定どおりに動作させるソフトウエアやプロセスを含めたアルゴリズム、第三にGPUとCPUの役割のすみ分けやエネルギー需要とエネルギー効率のバランスなどのコンピューティングインフラ、第四にAIアプリケーションです。AIアプリケーションへのガバナンスは、医療や教育、製造など、AIが展開される分野によって変わります。

    鈴木このような枠組みはどのように導入していくべきでしょうか。

    マルワラ第一のステップは、価値観に根ざしたガバナンスとは何かを考えることです。国連の職員である私たちの価値観は、世界人権宣言の原則*9に基づいています。ガバナンスの枠組みを採用するときは、国連憲章*10の指針に従い、人に害を及ぼすものではなく、人を守るものにしなければなりません。例えば、AIは他国への侵略に利用されるべきではありません。

    第二のステップは、主に教育を通して、開発者、利用者などAIシステムを扱う人の姿勢を変えることです。例えば国連大学では、マイクロソフト社の支援金を原資とした日本語でのAIリテラシー講座を実施しようとしています。

    第三のステップは、実際のAI活用の仕組みに関するものです。政府は国内外の企業によるAI技術の責任ある導入と生産性の向上を促すために、どのような施策を講じればよいのかを考えていかなければなりません。

    第四のステップは、政策、規制、標準です。標準については、国際標準もあれば国内標準もあるでしょう。例えば、故安倍晋三元首相は、2019年に世界で初めて「信頼性のある自由なデータ流通(Data Free Flow with Trust:DFFT )」*11を提唱しました。これは、プライバシーとセキュリティを確保しながらデータの自由な流通を促進させるという、AI分野にとって非常に有益な概念です。

    そして最後のステップは、法規制に関するものです。どのような法令を策定する必要があるのかを見極めなければなりません。その代表例が、欧州連合のAI規制法*12です。法によるガバナンスは、イノベーションを抑制することなく、便益の最大化と有害性の最小化を両立させるものでなければなりません。

    鈴木日立は2021年に社会・産業インフラにおけるAI活用の企画立案、実施、管理を対象とする「社会イノベーション事業にAIを活用するためのAI倫理原則」*13を発表しました。そしてAI倫理に関する社内教育、リスクアセスメントチェックリストの整備、外部有識者による「AI倫理アドバイザリーボード」の設置、AI向けの開発・認証ガイドラインの導入などを実施しています。こうした取り組みは、日立がガバナンスの確立、人権の尊重、プライバシーの確保を図る上で不可欠です。また、AIのエネルギー消費への対処とカーボンニュートラルの促進が、持続可能な開発目標(SDGs)達成の鍵を握るということも忘れてはなりません。

    マルワラ日立がAIの倫理的活用を徹底させるための包括的なプロセスを確立したことに敬意を表します。私が先ほど触れなかった項目の一つに、AIを監視するガバナンス組織をつくることの重要性があります。日立がAI倫理アドバイザリーボードを設けていることは、責任あるAIガバナンスの観点で模範的な取り組みであり、大変素晴らしいと思います。

    *8
    倫理的リスクとAIバイアスに関するマルワラ教授の主な論文: https://unu.edu/article/dual-faces-algorithmic-bias-avoidable-and-unavoidable-discrimination; https://unu.edu/article/algorithmic-problem-artificial-intelligence-governance
    *9
     https://www.un.org/sites/un2.un.org/files/2021/03/udhr.pdf
    *10
     https://www.un.org/en/about-us/un-charter/full-text
    *11
     2019年1月の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で安倍首相(当時)が世界で初めて提唱した概念。プライバシー、セキュリティ、知的財産権に関する信頼を確保し、自由なデータ流通の促進をめざすもので、同年に開催されたG7とG20でも議論された。 https://www.mofa.go.jp/ecm/ec/page4e_000973.html;https://www.oecd.org/en/about/programmes/data-free-flow-with-trust.html
    *12
     https://artificialintelligenceact.eu/
    *13
     https://www.hitachi.co.jp/products/it/lumada/about/ai/ldsl/document/ai_document_en.pdf

    持続可能な開発の加速に向けたテクノロジーの役割

    鈴木国連はグローバルな社会問題への対処と包摂的成長の促進を目的に、SDGsを策定しました。しかし、ナショナリズムの高まりや地政学的紛争などが起きている今、SDGsの項目の多くは、2060年以降にならなければ達成できないのではないかとの見方も出てきました。こうした中で、世界の現状をどのように見ていらっしゃいますか。

    マルワラ世界は今、憂慮すべき状況にあります。中東や欧州を中心とした対立の激化は悩ましい問題です。また、SDGsはコロナ禍の深刻な景気低迷の影響を受けています。2023年のSDGsサミットでは、2030年までのSDGs達成は極めて難しいという内容のレポートが発表されました。*14パリ協定で合意された目標を確実に達成するためにも、やるべきことはなお多く残されています。

    エンジニアリングの観点から言うと、テクノロジーを活用してSDGsを進展させる方法を精力的に検討する必要があります。具体的には、エネルギーや医療、農業、教育、気候変動対策などの分野に最新技術を適用することです。対象が電力網であれ、医療体制であれ、AIは最適化技術の一つに過ぎません。そのAIシステムを用いて、パフォーマンスを犠牲にすることなく、今よりコスト効率が高く優れたモデルを開発する方法を検討すべきです。ただし、AIの責任ある運用も大切で、AIの使用が多くの二酸化炭素を排出し、演算に膨大な水とエネルギーを必要とすることを忘れてはなりません*15

    私は、日立のように持続可能な開発に向けた取り組みを支援する企業が必要だと思います。食料生産、エネルギー供給、電力網の制御や最適化のいずれにおいても、企業の支援はとても重要です。

    *14
      https://unstats.un.org/sdgs/report/2023/The-Sustainable-Development-Goals-Report-2023.pdf
    *15
      https://news.mit.edu/2025/explained-generative-ai-environmental-impact-0117

    人間とAIのコラボレーションに不可欠なハイブリッド人材

    鈴木技術が進化し、社会が複雑さを増すにつれ、人間の果たす役割はどのように変化していくとお考えですか。人間とAI、人間とロボットがコラボレーションする時代には、どのようなマインドセットや教育が必要でしょうか。

    マルワラ人間が常にAIなどの技術と協働する、ハイブリッドな業務モデルに移行しつつあるのではないでしょうか。例えば、工場のマネージャーは今や人間の従業員だけでなく、AIシステムも管理しています。こうした状況下で求められるのは、人間と機械の両方を理解できる人材の育成にどのような教育インフラが必要かを考えることです。

    私が考えるソリューションは多分野にまたがる教育*16です。科学・工学・技術分野の学生は社会科学や人文科学も学び、同様に社会科学・人文科学分野の学生もSTEM(科学・技術・工学・数学)学科を学ぶ必要があります。

    鈴木マルワラ教授は、今日のリーダーには科学技術のリテラシーだけでなく、包摂力や思いやりも求められると強調されてきました。これから社会イノベーションをけん引するリーダーに不可欠な資質とは何でしょうか。

    マルワラリーダーに不可欠な資質の一つはデータドリブンであることです。データや観察を基に判断を下す必要性を理解し、必要なデータを収集するためのインフラに投資することが不可欠です。また、技術とその使い方について理解することが求められます。生成AIなどの技術は、インターフェースが分かりやすく、自然言語で操作でき、簡単に使えます。一方で、こうしたテクノロジーの基となるデータセットに含まれない言語は取り残されてしまう懸念もあり、そういった点への配慮が必要です。技術的限界や財務的制約があることを踏まえ、リーダーを含めた全員が、技術を活用する上での責任を負うことも必要です。

    *16
      https://www.dukece.com/insights/the-hybrid-imperative/

    日立グループと日立総研への期待

    鈴木日立の新経営計画「Inspire 2027」*17で、私たちは「環境・幸福・経済成長が調和するハーモナイズドソサイエティの実現に貢献し、持続的に成長すること」をめざすと発表しています。本日お話いただいたAIやサステナビリティの分野で、日立へ期待をお聞かせください。

    マルワラAIの導入には適切な監督が極めて重要であり、この役割を担う日立の「AI倫理アドバイザリーボード」は素晴らしい取り組みです。また、より包摂的かつ倫理的なAIシステムの利用、エネルギー効率や環境への影響といった問題への取り組みも極めて重要です。さらに教育も欠かせません。教育は生涯にわたる取り組みであり、学ぶことは常にあります。ぜひとも日立の全従業員に学び続けるというマインドセットを浸透させてほしいですね。学び続ける組織であるためには、組織全体でデータ収集と再学習を継続する必要があります。倫理ガイドラインを含めたルールと規則も進化しなければならず、定期的に見直して新たな注意点を反映させる必要があります。

    鈴木最後に、日立総研と研究員への期待もお聞かせください。

    マルワラ日立総研は日立のグローバルな成長を支えるシンクタンクとして、インパクトのある研究とイノベーションをリードするのに適した立場にいます。日立と日立総研にはぜひとも、国内外の研究機関だけでなく、国連大学などの大学とも積極的に連携して、グローバルな視点を取り入れていただきたいと思います。例えば、サバティカル制度を通して、ほかの研究機関の研究員との交流を推進することでイノベーションの幅を広げ、今までにない発想を育むこともできるはずです。

    技術・システムの開発と導入を進めるにあたっては、透明性と説明責任が技術開発の基盤となるべきです。その際には、人間中心の設計を研究の核とし、行動科学の知見を取り入れることが重要です。これにより、人々の動機や不安を理解し、技術がそれらの人間的要素にどのように対応できるかを探ることができます。私たちには個人プレーよりチームプレーが必要であり、チームとして働く文化を奨励すべきです。また、多様な背景や考え方を持つ人々が受け入れられて活躍できるチームの重要性がかつてないほど高まっている今、日立総研が今後もこの分野に貢献し続けてくれると信じています。

    対談の様子

    *17
      https://www.hitachi.com/New/cnews/month/2025/04/250428/f_250428pre.pdf

    対談後記

    チリツィ・マルワラ教授と対談して、私たちは今、人類の進歩を決定づける分岐点に立っているという考えを改めて強くしました。AIと持続可能な開発の実現には、技術的必然性と倫理的責任の両方が求められますが、これは日立の社会イノベーションにも密接に合致する原則です。
    適応型AIや多分野にまたがる教育の価値、多様性に富んだ社会や、そのプロセスを構築する枠組みの重要性に関するマルワラ教授の見解は、AI技術の進展によりもたらされる未来に対応するための長期的な指針となります。教授は人間中心設計と、人間とロボットのハイブリッドなコラボレーションを重視しており、これはまさに日立のアプローチとも合致します。
    技術だけでは世界の喫緊の課題に対処できません。私たちは引き続きLumadaプラットフォームを進化させ、グローバルなプレゼンスの拡大を図る中で、これらを認識しておくことが重要です。産業界とアカデミア、先進国と新興国、人間とインテリジェントシステムが連携して、価値観を共有し、包摂性の実現に取り組まなければ、進歩を遂げることはできないと考えています。

    株式会社日立総合計画研究所
    取締役会長 鈴木教洋

    機関誌「日立総研」、経済予測などの定期刊行物をはじめ、研究活動に基づくレポート、インタビュー、コラムなどの最新情報をお届けします。

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