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【短期経済予測】関税影響と政策支援の微妙なバランスに立つ世界経済

    2025年9月25日

    1.世界:世界経済は3%成長も、関税影響と政策対応の微妙なバランスに立つ

    トランプ関税を巡る状況は、協議継続国や特定品目の扱いなど、なお不透明要素は残るが、多くの国で合意、一部を除き税率低下でやや落ち着きをみせている。今後一定の影響が顕在化するが、そのインパクトに対する不安はやや緩和した。各国でインフレ安定を受けて景気に配慮した金融・財政政策対応による短期的な経済押し上げ効果も想定され、微妙なバランスの上で25年はかろうじて3%成長維持の見通し。利下げや関税に伴うインフレ、雇用悪化など、米国起点リスクに注意が必要。世界実質GDP成長率は、25年3.1%、26年2.9%。

    2.米国:民間投資は底堅さを維持も、雇用悪化で米経済は消費を中心に減速

    米国経済は、個人消費を中心に景気の減速感が強まっている。8月の非農業部門雇用者数は、前月差2万2千人と雇用減速が鮮明となり、レイオフ数も増加している。インフレ率は2%を上回る推移が続くが、FRBは雇用減速を理由に利下げを再開、25年内に追加利下げを実施すると予想する。トランプ政権は、他国や国内企業からの投資誘致を積極的に推進し、設備投資は底堅く推移する公算が大きいが、個人消費の減速が続く中で25・26年の米経済は減速を見込む。米国の実質GDP成長率は、25年1.8%、26年1.6%。

    3.欧州:欧州経済は、国防・インフラ投資などにより緩やかな回復が続く

    ユーロ圏経済は、25年半ば以降、景況感に改善の兆しが見える。背景には、関税交渉合意、油価下落、歳出拡大への期待などがある模様。26年にかけても、国防費増加やインフラ投資拡大により、ユーロ圏経済は緩やかな回復が続く見込み。ECBは、2%の水準で政策金利の据え置きを続けると予想する。英国は消費の停滞が続くものの、インフレ率が上昇の兆しを示す中、BOEは慎重なペースでの利下げを継続する見込み。ユーロ圏の実質GDP成長率は、25年1.2%、26年0.8%。英国の実質GDP成長率は、25年1.3%、26年0.9%。

    4.中国:政府は財政拡張策を継続するが、米向け輸出減や製造業投資鈍化により減速

    中国経済は、消費の寄与により堅調に成長も、製造業を中心に景況感は弱含んでいる。輸出はアジア向けが増加する一方、米国向けが急減し、減速している。国内競争激化による販売価格低下により、自動車など製造業の利益率は低下傾向で、製造業投資は伸び率が鈍化する。消費は政府の消費促進策の効果が続くが、可処分所得が伸び悩み、不動産低迷により資産価格も下落する中で、今後の大幅増は見込み難い。中国政府は財政拡張策を継続するが、成長率は減速する。実質GDP成長率は、25年4.5%、26年3.9%。

    5.日本:米関税などの影響で輸出が減速も、底堅い投資と消費の復調により回復が続く

    日本経済は、米関税などを受け輸出の減速が続くと見込まれるが、内需が底堅く推移することで、回復基調が続く見通し。春闘を受けて実質賃金が今後プラス転化することで、消費は緩やかに回復する。設備投資は、海外減速の影響があるが、非製造業を中心に高い利益率や設備不足感を受けて、底堅く推移する。公共投資は国土強靭化の最終年であり、住宅投資は省エネ規制の反動減があるため、25年は低調。日銀は年内に追加利上げを想定する。実質GDP成長率は、25年1.1%(年度0.8%)、26年0.6%(年度0.6%)。

    6.インド・APAC:インドは内需中心に6%台前半の成長、ASEAN5は4%台半ばに減速

    インドは、米国による50%の高関税率に直面しているが、輸出依存度は低く、物品・サービス税(GST)見直しによる消費刺激効果などによって関税影響の吸収は可能とみられる。インドの実質GDP成長率は、サービス産業の牽引(けんいん)で、25年度6.3%、26年度6.4%。ASEAN5も4%台の総じて安定成長続くも、国ごとに政治経済情勢が異なり、関税影響や米中経済減速・中国過剰供給拡大の影響などにも差が生じ得る。タイや韓国など家計債務問題を抱える国、インドネシアなど政情不安が発生している国など、各国のリスクを注視する必要がある。ASEAN5の実質GDP成長率は25年4.6%、26年4.5%。

    世界経済の見通し(実質GDP成長率)

    世界経済の見通し(実質GDP成長率)
    注:暦年ベースのため、日本の値は下表の年度ベースと異なる。ただしインドは年度ベース。
    ASEAN5はインドネシア、タイ、マレーシア、フィリピン、ベトナム
    資料:実績はIMF、予測はIMF(ブラジルおよびロシア)、日立総研(その他)

    日本経済の見通し

    日本経済の見通し
    注:端数処理により、数値の合計が一致しない場合がある
    資料:内閣府ほか、予測は日立総研

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