所属部署 政策経済グループ
氏名:高畑和弥
現在、企業のビジネス活動が急速にグローバル化しているにもかかわらず、日本、米国、EUではそれぞれ独自の会計基準を利用しており、企業結合、研究開発費、特別目的会社など多くの項目で会計処理が異なっています。会計基準の統合(コンバージェンス)とは、各国・地域によって異なる会計基準をより統一的なものに近づけようとする取り組みのことです。
会計基準の統合が注目されるようになった背景の一つに「会計の2009年問題」があります。これまでEU域内で上場する日本や米国の企業は、自国の会計基準によって作成した財務諸表によって情報開示することが認められていました。しかし、欧州委員会は2009年から EU域内で資金調達を行う外国企業に対して国際会計基準(IFRS:International Financial Reporting Standard)に基づいた財務諸表の作成を義務付ける見通しです。そのため、日本の会計基準に基づく財務諸表しか作成していない企業は、補完計算書の作成など追加の情報開示を迫られる懸念があります。
一方、米国の会計基準を作成する米財務会計基準審議会(FASB:Financial Accounting Standards Board)は、IFRSを作成する国際会計基準審議会(IASB:International Accounting Standards Board)と2009年までに互いの会計基準を承認する方向で検討を進めています。このため、米国企業は今後も自国の会計基準に基づく財務諸表によって、EU域内での上場が認められる見込みです。
米国とEUを中心に進む会計基準の統合の流れに日本だけが取り残されることになれば、世界の投資家に「日本の会計制度は国際標準とかけ離れている」という印象を与え、日本企業に対する信頼が低下する懸念もあります。そうなれば、グローバルにビジネスを展開している日本企業の資金調達が妨げられるだけでなく、日本の資本市場全体の投資先としての魅力が低下する恐れもあります。日本経団連も危機感を募らせており、「会計基準の統合(コンバージェンス)を加速化し、欧米との相互承認を求める」と題する意見書を2006年6月に発表するなど、国内外の関係者への働きかけを行っています。さらに、日本政府も市場活力の向上のために会計基準の統合を積極的に進めようとしており、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針 2006」(骨太方針2006)に「平成21年に向けた国際的な動向を踏まえ、会計基準の国際的な収斂の推進を図る」という内容を盛り込んでいます。
日本の会計基準を作る企業会計基準委員会は、会計基準の統合に向けたIASBとの共同プロジェクトを2005年1月に開始しているものの、相互認証に向けた道筋はまだ明確になっていません。日本の会計基準を世界の資本市場で通用する基準とするために、また、日本企業の国際競争力を低下させないためにも、会計基準の統合の取り組みを積極的に推進することが求められるでしょう。
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