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インフレ目標政策(インフレ・ターゲット政策)

    所属部署 政策経済グループ
    氏名:衣笠一歩

    インフレ目標政策とは

    インフレ目標政策とは、「インフレ(物価水準の継続的な上昇)を目標とする金融政策」のことで、「インフレ・ターゲット政策」、「インフレ・ターゲティング」などとも呼ばれます。詳しくは「金融政策の中心的な目標を物価水準の安定に置き、中期的に目標とする物価上昇率(インフレ率)を具体的な数値で明示し、中央銀行はそれを実現するための金融政策を実施するという枠組み(フレームワーク)」のことです。
    この定義の中で重要な言葉が二つあります。一つは「中期的」で、おおよそ1〜2年間を指します。金融政策が発動されると、それが企業や家計の行動を変化させ、徐々に実体経済に影響が及んできますが、政策の効果が実際の形として大きく表れてくるには1年程度の時間を要すると言われています。インフレ目標政策において、「1〜2年間の物価上昇率の平均値」という短期的ではなく中期的な目標が設定されているのは、この期間を織り込んでのものと考えられます。
    もう一つは「枠組み(フレームワーク)」です。インフレ目標政策は何が何でも数値目標を達成しなければならないという「義務(ルール)」ではなく、中央銀行が政策の実施にある程度の柔軟性を持てるようないわゆる「枠組み」であるという点が特徴的です。インフレ目標政策は、1990年にニュージーランドが世界で初めて導入して以降、カナダ(1991年)、イギリス(1992年)、スウェーデン(1993年)など、現在では20数カ国で採用されており、変動為替相場制下にあって日本や米国のようにインフレ目標政策を採用していない国はむしろ少数派なのです。

    論議の背景とインフレ目標政策の利点

    日本でインフレ目標政策の導入が論議され始めたのは2000年ころのことです。平成不況が長引き、経済がデフレのさなかにあったこのころ、中央銀行である日本銀行(以下、日銀)が市場に対してデフレ阻止の強い意思を明らかにすることによる効果を狙った金融政策の必要性が騒がれ始めました。
    インフレ目標政策の導入に肯定的な論者によれば、以下の二点が利点とされています。まず一点目は、日銀が物価安定目標を数値化することにより、物価安定の定義が明確化されるという点です。今のところ、何をもって物価安定というのかという定義付けがされていないため、識者の間でもかみ合わない議論が散見されます。これが、物価安定目標が数値化されれば、今がインフレなのかデフレなのか、物価水準は適正なのかが明確になるというわけです。
    二点目は、人々や市場のインフレ予想に直接働きかけることで実際に物価水準の安定化が図れるという効果です。政策の担い手である日銀が目標値を掲げるわけですから、将来の物価水準はだいたい目標範囲内に落ち着くだろうと予想できることになります。
    インフレ目標政策の論議が活発化した2000年ころと違い、現在の日本経済は戦後最長の「いざなぎ景気」(1965年11月〜1970年7月の57カ月間)を超える景気拡大期にありますが、物価は依然として低水準で推移しています。そのため、インフレ目標政策には、デフレに歯止めをかけるための特効薬として大きな期待が寄せられているのです。

    深刻なデフレ下での採用は世界初

    それでは諸手を挙げてインフレ目標政策を採用できるのかと言うと、反対意見も多く一筋縄ではいかないようです。よく耳にするのは、「これまでインフレ目標政策を採用してきた国はみなインフレ対策としてのものであって、長期にわたるデフレの対策として導入された例はない。物価を抑えることはできても引き上げることはできないのではないか」という反対意見です。たしかに日本がインフレ目標政策を採用することになれば、深刻なデフレ対策としては世界初の採用国となるのですから、慎重な意見が出るのも致し方ないところでしょう。このほか、「インフレが過熱した場合に物価の上昇を制御できなくなる危険性がある」、「中期的なインフレ率の数値目標を明示するのは難しい」といった意見も聞かれます。
    こういったことからも、導入への道のりはまだまだ険しいものと言えますが、今後の金融政策を考える上で、インフレ目標政策の導入を検討する余地は十分にあるでしょう。

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