所属部署 研究第一部
氏名:塩田光男
金ETFとは、金への投資を商品市場ではなく、投資家になじみ深い株式市場で行えるようした新金融商品で、金地金で運用する投資信託を株式市場に上場した上場投資信託(Exchange Traded Funds)です。金への投資は、株式や債券とリターンの相関関係が異なるので、ポートフォリオを組む上でリスク分散に有効です。インフレになると金価格は上昇するので、特にインフレ・リスクに対するヘッジとなります。しかし従来、金への投資は、商品市場で現物または先物を購入することが必要で投資家にとって敷居が高いものでした。それが金ETFの登場で、投資家がポートフォリオに組み込むのが容易になりました。ニューヨーク証券取引所(NYSE)では、streetTRACKS Gold Trust*1という投資信託が2004年11月に上場し、その受益証券がGLDというシンボルで売買されています。同じ受益証券がシンガポール取引所でも売買されているうえ、ほかの銘柄がロンドン、オーストラリア、南アでも上場しています。東京証券取引所でも、2008年春に上場予定と報道されています*2。大阪証券取引所は、2007年8月10日に金価格連動型ETF(金価格に連動して値動きするように有価証券を組み合わせた投資信託)を上場していますが、金地金の需給に直接影響する仕組みの金ETFとは厳密には異なります。以下、ニューヨーク証券取引所のGLD株を例に最近の状況を説明します。
株式市場でGLD株が売買されても、発行済みのGLD株の所有者が移動するだけで、それだけでは商品市場での金地金の需給につながりません。GLD株の新規発行または償還が金地金の需給になりますが、これは投資信託から認定されたブローカーが10万株単位で行います。その後、株式市場を経由してGLD株として投資家の手に渡るわけです。年金基金が金ETFをポートフォリオに組み込み始めたため資金が流入しました。世界中の金ETFによる金地金保有残高は、 2003年末32トン、2004年末156トン、2005年末342トン、2006年末559トン、そして今では724トン(=23.3Mオンス ×31.1035グラム/オンス×1トン/Mグラム)(2007年10月12日現在)へと増加してきました。時価750.90ドル/オンスで換算すると 175億ドル(約2.1兆円)になります。*3 GLD の株価は74.59ドル/株で750.90ドル/オンスの1/10に近いのですが、少し足りません。GLD一株は発行当初1/10オンスなのですが、金地金の保管費などの経費が金地金の売却によって賄われるため、発行から時間がたつと1/10オンスから経費分が削られていくためです。金ETFは1/10オンスに近い少額からの投資を可能にし、広く投資家を引きつけたと言えます。
年金基金が取り崩されて現金化されるとき、GLD株は償還され、保管されていた金地金は売却されます。つまり、年金基金の金ETFへの流入は長期的には金地金の需給に対して中立的なはずです。しかし、短期的には、金地金の市場規模は年間3,374トン(2006年)*4程度なので、金ETFの登場とその保有残高の増加は需給バランスに影響した模様です。1オンス当りの金価格は2003年末417ドル、2004年末438ドル、2005年末513ドル、2006年末636ドル、そして現在750.90ドルと上昇してきました。特に2005年後半以降、急騰しましたが、この間、金ETFの保有残高も急増しています。年金基金など投資家の動向が商品市況に影響する時代になったと言えそうです。
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