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集合知

    所属部署 技術戦略グループ
    氏名:北郷孝次

    集合知とは

    一昔前は、分からないことや見慣れない用語があれば百科事典や専門書をくまなく読んで調べていたものですが、最近ではWebのオンライン百科事典WikipediaやGoogle検索を用いて調べることが当たり前になってきました。また、商品の購入を検討する際に、価格.comで格安販売店を調べたり、口コミ情報サイトの商品評価を参考にして購入を決定したりすることも日常的になってきました。これらのWebサイトでは、多くの人の知識が蓄積され網羅的に体系付けられていることから、利用者にとって大変便利なものとなっています。このように知識を蓄積し、何らかの価値ある情報に体系付けしたものが、いわゆる「集合知」と呼ばれるものです。MIT(マサチューセッツ工科大学)のThomas W.Malone氏は「集合知は、1つの目的に向かって知的作業を行う個人の集合を指す(collective intelligence is groups of individuals doing things collectively that seem intelligent)」と定義しています。これは、多くの人から収集した個々の判断や知識を蓄積し、ディスカッションなどを通じて間違った情報を削ぎ落とし、最終的に個々の知識だけでは創造できなかったより高い次元の知識や最適な解を導き出すことといえます。Web2.0として総称されるSNS*1、Blog、ソーシャルブックマークなども集合知を活用したWebコンテンツに含まれます。

    なぜ今、集合知に注目するのか

    集合知はLinuxなどのオープンソースのソフトウェア開発などで古くから活用されてきたものであり、決して新しい考え方ではありません。しかし、オープンソースの時代と異なるのは、専門家に限らず広く一般の人々(個人)の領域で集合知が浸透した点が挙げられます。これは日常生活で集合知を利用する機会が増加したことのみならず、個人が集合知の形成に貢献する機会が大幅に増加したことを示します。その結果、Wikipediaなどの大規模な集合知が形成されるようになりました。 この背景には、近年のインターネット技術の急速な発展によりRSS*2といった双方向性コミュニケーション技術などWebを基盤とした集合知活用プラットフォームの整備が進展した点に加え、幅広い知識を自動的に体系付ける仕組み(データマイニング、タグ付けなど)によって新鮮な情報が手軽にリアルタイムで入手可能になった点が挙げられます。インターネットにおける広告収入モデルの活用によってユーザは無料でサービスを利用できるといった点も、個人の領域で浸透を加速させた要因に挙げられます。
    最近では消費者を対象としたBtoC型のコンテンツにとどまらず、集合知の活用範囲がビジネスの領域にまで拡大しています。目まぐるしい市場の変動の中、より迅速な経営判断が求められるようになったことから、ビジネス領域でも柔軟かつ顧客ニーズに応じた事業展開を図る手段として集合知が求められるようになってきました。

    ビジネスへの活用事例

    IBMは、2006年夏に全世界(104カ国)のIBM社員と家族、顧客企業(計15万人以上)を対象に「InnovationJam2006」と呼ばれる72時間にわたる大規模オンライン・ディスカッションを開催しました。これは、「Innovation(革新)をテーマにIBMが世界にどのように貢献できるか」というテーマの下、今後取り組むべき革新的な事業を社員一人一人の意見から決定するといった、集合知を活用した画期的な試みであったといえます。このディスカッションでは、3万7,000件余りのアイデアが投稿され、最終的に絞られた10のアイデアに、今後2年間で1億ドルもの投資を行うことが決定されています。IBMでは、このような全社員を対象としたJamを過去4回行っており、経営判断に集合知を活用しようといった姿勢が伺えます。
    国内では、2007年にエースコックが消費者参加型の新商品開発プロジェクトを立ち上げ、カップめんの商品化を行いました。このプロジェクトは、代表的なSNSであるmixi上に商品開発コミュニティを開設し、消費者自らのアイデアを投じて新商品の企画・開発に参加しました。コミュニティでは700以上の案が寄せられ、最終的に2種類の商品化が決定しました。このように企業が商品開発を行う上でも、集合知が取り入れられています。

    集合知の活用モデルの発展

    個人の領域ではBtoC型のビジネスモデルが確立し、集合知の活用事例が数多く出てきていますが、ビジネス領域における集合知の活用範囲も拡大しており、今後、経営戦略策定やリスクマネジメントといった経営上の重要な意思決定において、ますます集合知が活用されることも考えられます。このことは、集合知が企業活動における優位性確保の鍵を握ることを意味しています。 Web上で展開されるこれら集合知の活用はまだ発展段階ですが、今後、さらに集合知の活用が拡大し実用性が進展すれば、社会に与える影響も大きくなることが予想されます。最近ではヒヤリ・ハット情報を幅広く収集し、安全の確立を目指す動きが航空分野など社会インフラサービスの分野でもみられます。集合知活用モデルのさらなる発展に期待し、今後もその動向を注視する必要があるでしょう。

    *1
    SNS:Social Networking Serviceの略(インターネット上で会員制コミュニティを提供し、人脈づくりを支援するサービス)
    *2
    RSS:Rich Site Summaryの略(Webサイト上にある記事見出しや記事要約などの一覧を作成するための、XMLフォーマットの一つ)

    出典

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