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フォロワーシップ

    所属部署 経営グループ
    氏名:小寺克和

    フォロワーシップとは

    フォロワーシップとは、上司のリーダーシップを補完する概念として、部下が自主的な判断や行動により上司を支え、組織における成果の最大化をはかることを意味します。端的に言うとリーダーの指示やアドバイスを待つのではなく、自ら考え行動することを指します。

    リーダーシップからフォロワーシップへ

    アメリカをはじめとして世界中でリーダーシップに関する研究が行われてきましたが、その研究はリーダーそのものだけに注目し、メンバーなどその他の要素を考えていないものがほとんどでした。しかし、1990年代の初めになると、組織は、リーダー1人では成立しないものでありリーダー以外=フォロワーの力も含めた形でリーダーシップを理解する必要があるという考え、リーダーシップ偏重の思想を反省する声が上がり始めました。そうした中、カーネギーメロン大学のロバート・ケリー教授が、著書『The Power of Followership(指導力革命―リーダーシップからフォロワーシップへ)(1992年)』にて、上司のリーダーシップを補完する概念をフォロワーシップという言葉で初めて表現しました。 日本において、このフォロワーシップを最初に論じたのは、リーダーシップ論の権威である神戸大学の金井壽宏教授であり、2005年に出版した著書『リーダーシップ入門』の中で「リーダーシップを、リーダーとフォロワーの間にある現象だととらえ、リーダーの行動や資質だけに依存する考え方を超越するが、そのなかで効果的なリーダーシップが生起するため、フォロワーが能動的に行動することが重要だ」と指摘しています。

    今なぜフォロワーシップが注目されるのか

    日本企業は、長年ミドルアップ・ボトムアップ型の経営により成長を続けてきました。戦後、欧米からの先進技術を導入していくキャッチアップ型経済では、それが最適でした。目指すべき姿は欧米にあり、それに向かって現場はがむしゃらに働いていけば成果がついてきたためです。しかし、バブル崩壊後は、多くの日本企業は痛みを伴う大きな変革に迫られ、リストラによる人員削減や、新規採用の抑制などにより、多くの企業で職場の人員構成が大きく変わりました。その結果、フォロワー層が減少するとともに、教育投資の削減もありフォロワー層の育成不足が多く見受けられるようになりました。また、フォロワー層からみたリーダーシップについて研究している一橋大学の守島基博教授は、「今までは後輩に教えることを通じて管理職のミニ経験をいくつか積む形で管理職を作ってきた。それがある意味では日本企業の強さだったし、リーダー人材育成の根幹だった。しかしそれが次第に無くなってきて、後輩を教えたことのない先輩が管理職に、または何らかのリーダーシップポジションに着いてしまうという時代が来ている。」と論じています。*1厚生労働省「能力開発基本調査」を見ても日本企業の計画的OJTの実施率は、1993年の74%が2002年には42%と、約30%減少しているのがわかります。
    そうした中で、多くの企業で選抜教育の名の下に、一部のリーダー候補に教育投資を集中し、リーダー育成を行い始めました。ただ、いくら優秀なリーダーを育て、どんなに優れた理念やビジョンを立てたとしても、それを実現するフォロワー層がついてこなければ何も達成されません。フォロワー層がリーダーの意図をしっかりと理解する必要があるのですが、それが不十分なため、多くの企業で理念やビジョンの共有・浸透がうまくいっていないのが現状です。そこで注目されてきたのがフォロワーシップなのです。
    ケリー教授は、フォロワーシップに求められる能力を2つ挙げています。1つは組織に対して適切に「貢献する力」です。「貢献する力」とは、組織のビジョン実現のためにエネルギーを注ぐ、企業目標の達成のためにまい進することなどを指します。これはどちらかというとリーダーに対する依存度が高く、受動的なものです。求められるもう1つの能力は正しく「批判する力」です。そして、フォロワーシップが近年注目されている最大の理由は、この「批判する力」の意義にあります。これは、上司の指示が正しいのかを自分なりに考え、必要があればあえて上司に提言したりする力のことであり、言い換えると、上司の指示の正当性をいつも疑う冷静さとも言えます。これはリーダーと問題意識を共有する能動的なものとなります。フォロワーシップについて多くの調査をしている南カリフォルニア大学のウォレン・ベニス教授も、「冷静さを保ち、疑問や不満、リーダーの間違いなどをリーダーに対して伝えていくことがフォロワーシップの根幹だ」と述べています。もちろん、やみくもに批判したのでは、上司の個人的感情を悪化させてしまうリスクもあります。したがって、上司の感情を考え、反感を持たれないような表現で問題提起をし、疑問点や不満点を改善していくことが重要となります。

    いかにフォロワーシップをもった人材を育成するか

    グローバル経済化の進展とともに予測不可能な問題が組織の内外で次々と発生しています。企業は、従来のようにリーダーのみを育てる人材育成を行うのではなく、優秀なフォロワーシップをもった人材も同時に育てていくことが非常に重要な課題になるものと思われます。リーダーの指示を待つのではなく、自ら考え、指示が出る前に準備をしておけるような主体性を持った人材の育成が特に必要です。そうした人材の育成方法の1つとして、新しいこと・やり方にチャレンジし続けることを支援する体制作りがあります。新しいことにチャレンジすれば当然失敗もします。失敗すれば個人の業績、評価に響くというのが一般的ですが、失敗は明日への糧となります。失敗を恐れずに伸び伸びと成長してもらうためにも、失敗した時は一時的に評価を下げるとしても、再チャレンジが可能な仕組み作りが必要なのではないでしょうか。これからは、こうした自主的な判断や行動により上司を支えることのできる人材を多く持った企業が、大きく成長していくことになるのかもしれません。

    *1
    参考文献2007年産政研フォーラム内「人材育成への新しい視点」守島基博著

    機関誌「日立総研」、経済予測などの定期刊行物をはじめ、研究活動に基づくレポート、インタビュー、コラムなどの最新情報をお届けします。

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