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短時間正社員

    所属部署 経済グループ
    氏名:川上隼人

    短時間正社員とは

    短時間正社員とは、所定労働時間がフルタイム勤務より短い雇用形態の正社員です。正規雇用の一形態であり、契約期間が有期ではないこと、賃金や退職金、各種保険など一切の処遇はフルタイムの正社員を基準に就業時間に比例した取り扱いとなるなどの点で、従来のパートタイマーや派遣労働者とは異なります。

    ワークシェアリングの一形態としての短時間正社員制度

    短時間正社員制度はワークシェアリングの一形態です。一人当たりの労働時間を短縮し、一つの業務を数人の正社員でシェアするワークシェアリングには、全正社員の所定労働時間を短縮して賃金を抑制することで雇用を維持しようとする緊急避難型と、個々の正社員に多様、かつ均等な待遇の就業形態を認める多様就業型の二種類があり、短時間正社員制度は後者です。 短時間正社員制度は、主にオランダで発展しました。1980年代以降、オランダでは不況に伴う失業率上昇の対策として、労働法の改正、整備が進み、ワークシェアリングが発展しました。その中で、雇用者が自発的にフルタイムからパートタイムへ、パートタイムからフルタイムへ移行すること、およびフルタイマーとパートタイマーの労働条件を同一とすることが権利として認められるようになりました。「オランダ・モデル」と呼ばれるこの一連の労働環境の整備は、オランダの失業率低下に大きく寄与しました。
    日本でも1990年代末から失業率が上昇したことで、ワークシェアリングへの関心が高まりました。また、2008年秋のリーマンショック以降、企業の雇用調整、人件費削減が進む中で、派遣労働者をはじめとする非正規雇用者の労使問題や、正規雇用との格差問題が表面化してきました。このような情勢の中、企業や自治体のワークシェアリング導入は増加しています。その中で、パートタイマーを短時間正社員として登用する、またフルタイム勤務の正社員を短時間勤務に移行することを認める企業が既に現れています。また現在、日本では、短時間正社員制度を導入する企業に厚生労働省から助成金が支給されています*1

    短時間正社員制度の目的・意義

    短時間正社員制度は、雇用の維持を目的の一つとしながらも、正規・非正規間の格差是正や、働く人の価値観に合わせ、多様なワークスタイルを認めようとする目的を含むものととらえることができます。従って短時間正社員制度は、働き手にとっては自らのワークスタイルを選択できるということや、正規・非正規という枠を取り払って、労働に対する平等な評価、処遇がなされることに意義があります。こうした制度を持つ企業は、育児や介護との両立や、定年退職後の再雇用、ワーク・ライフ・バランスの実現などを望む人々にとって大きな魅力があります。また、企業にとっても、そうした多様な人材を確保、定着、活用できるメリットがあります。
    また、多様な人材を確保、定着、活用することは、長期的には人口減少とともに労働力不足が進むであろう日本の中で、企業にとって大きな課題の一つです。人口減少とともに、生産年齢人口(15〜64歳の人口)も減少が始まっています。労働力の絶対数が減る中で、企業が国内で十分な人材を確保するためには女性、高齢者、若年層なども含めて労働力率を上げなければなりませんが、そのためにも、多様なワークスタイルを認める短時間正社員のような制度が有効と考えられています。


    (図)日本の生産年齢人口(15〜64歳)の推移
    資料:国立社会保障・人口問題研究所 人口統計資料集(2009)を基に日立総研作成

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    06年以降は05年を基点とした推計値

    短時間正社員制度の課題

    短時間正社員制度の導入に当たっては課題もあります。企業にとって最も初歩的、かつ最大の課題は、何を目的とし、どのような制度を作るかということです。例えば、包括的な人材不足や定着率の改善を目的にするのか、あるいは優秀なパートタイマーや、高齢者、女性社員の活用推進を目的にするのかなど、その企業が直面する問題によって、最適な制度の適用範囲は変わります。具体的には、すべての非正規・正規社員に対し短時間正社員への移行を認めるのか、移行に必要な要件を定めるのか、非正規社員の移行に際しては登用試験を設けるのか、などは変わってきます。また、一つの職場にフルタイム勤務と短時間勤務の社員が混在することによって、業務の共有や遂行に支障が生じないような業務体系や、処遇や評価の基準にも工夫が必要です。
    このような点で制度がうまくフィットしない場合、雇用コストの上昇や生産性の低下を招きかねません。制度の最適な運用形態を見極めるために、自社の雇用・労働環境の分析や制度の段階的導入などが求められます。また、企業・労働者双方にとって制度が有効に活用されるには、労働者の側にも、能力やモチベーションの維持、向上が求められるでしょう。

    政権交代と雇用をめぐる動き

    政権を獲得した民主党が製造業への派遣を原則禁止し、さらにワーク・ライフ・バランス、同一の労働に対する均等待遇の実現を公約に掲げました。こうした動きの中で、日本の雇用環境は今後大きく変化する可能性があります。その中で、正規であり、かつ柔軟性のある雇用形態として、短時間正社員制度がどう扱われていくか注目されます。

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    参考URL

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