所属部署 ファイナンスグループ
氏名:井口紗貴
SIFIsとは、2008年9月のリーマンショック以降、金融規制改革に関する議論の中で用いられるようになった、新たな金融規制対象区分を表す言葉です。さまざまな表記方法が用いられていましたが、"Systemically Important Financial Institutions"、その略称としての"SIFIs"*1、邦訳では「システム上重要な金融機関」が現在は使用されています。従来、金融規制は業種・金融商品ごとに設定されてきましたが、それに対して、新たな規制対象区分であるSIFIsは、業種横断的に対象を指定します。すなわち、SIFIsとは銀行・証券会社・保険会社・ファンドなどを含む金融機関全体の中で、先の金融危機でのリーマンブラザーズのように、有事に与えうる負の影響力が大きい機関を規制対象として一括して表す呼び名です。
SIFIsに関する議論を含む今回の金融規制改革は、国際協調を一つの特徴としています。「グローバルな危機にはグローバルな解決が求められる」とG20声明*2にある通り、世界経済が多極化し金融の連動性が高まった現代においては、国際機関や各国金融当局の協調によって、世界統一的な規制ルールの策定を目指す必要があります。
規制項目の多くについては国際的な合意が進み、詰めの段階に移っていますが、いまだに明確にされていない規制項目が、SIFIsに対する追加的金融規制措置です。今後FSB*3によりSIFIsを対象とする政策提言がまとめられ、その提言を基にして、2010年11月のソウルサミットにおいて各国合意が目指されることになっています。FSBの中間報告*4では、SIFIsを対象とする今後の規制改革案には、破たん処理計画策定義務化、資本または流動性の規制値の引き上げ、監督体制強化、システム上のリスクへの課金による破たん処理基金設立、組織形態制限などが盛り込まれています。
SIFIsは今回の金融規制改革の特徴を多く反映した概念です。金融規制改革の議論から近年有名になったキーワードの一つに、"too big to fail"(または"too connected to fail")がありますが、この"too big"および"too connected"が、SIFIsの定義には含まれています。「大きくてつぶせない」金融機関は、有事の際の政府支援などをあてにしてモラルハザードを起こし、過度のリスクテイクを行ってきた、と一般に見なされています。その予防策として、過度なリスクテイクに対する直接的な規制を検討する議論と、組織解体や破たん処理計画の準備など「大きくてつぶせない」実態を変革しようという議論とが、両輪で進められています。これらの議論で規制対象として想定されるのがSIFIsだということです。
SIFIsは一般的な総称であり、SIFIsにあてはまる金融機関を具体的に特定する場合には、FSB・IMF・BIS*5が共同で示した(1)規模(size)、(2)代替可能性(substitutability)の欠如、(3)相互関連性(interconnectedness)の3軸で評価すると定めたガイダンス*6があります。各国の金融当局は、このガイダンスに沿っておのおのの事情を配慮して、対象とする金融機関を柔軟に選定することになっています。
金融規制改革に関する各国協調の動きは、方向性の合意までは順調に進みましたが、具体的規制の検討段階に入って、各国の思惑の対立が目立つようになりました。なぜなら、金融規制の国際的整合性が求められる一方で、各国の政策や金融経済事情、法体制の差異への配慮も必要であるためです。
日本は、当初から規制改革の議論において慎重な姿勢を示してきました。それは金融規制改革の方向性と邦銀の実態にずれがあるためだといわれています。日本では、銀行などの預金取り扱い機関が貸し出しを大きく上回る預金を持ち、個人や年金・保険の運用主体も比較的保守的な運用を行っています。そのため日本では銀行に対して、より一層のリスクマネー供給の期待があります。その中で伝統的な銀行業への回帰を目指す厳しい規制導入が日本でもなされれば、リスク資産算定や審査業務の厳密化などによって、金融仲介コスト上昇や貸し渋りによるリスクマネー供給の縮小などが起こる恐れがあるといわれています。金融規制改革の動向によっては、一般事業会社での資金繰り悪化など、実体経済全般への悪影響も懸念されるということです。規制の有効性と経済成長確保、その双方のバランスを適正に保つような慎重な判断が必要とされる中で、2010年11月のソウルサミットでの国際合意を目指した議論の動向が注目されます。
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