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業界横断EDI

    所属部署 社会・生活グループ
    氏名:高橋典子

    業界標準EDI(Electronic Data Interchange:電子データ交換)への取り組みの歴史

    わが国のEDIの歴史は、1970年代にシステム開発力のある大企業を中心に各企業が独自に専用回線やシステムを構築する専用EDIから始まりました。専用EDIでは、取引先に専用回線へ接続するための自社専用端末を設置させるため、結果としてサプライヤーや受注企業に多端末現象をもたらしました。 これにより、サプライヤーや受注企業側に運用や人員コストの負担が増大したため、多端末現象の解消に向けて通信プロトコルやデータ構造を業界ごとに標準化する動きが発生しました。 これが業界標準EDIで、業界標準EDI仕様では、企業間業務プロセス(業務連携)との関係においてEDIメッセージおよびEDIメッセージを構成する情報項目(業務情報)が定義されます。そのEDIメッセージは特定の構文規則によりコンピュータで読み取れる形式(情報表現)に変換が可能です。また、EDIメッセージを送受信する通信方式の定義、運用手順、標準帳票などの規定を含むこともあります。1980(昭和55)年に日本チェーンストア協会(JCA)の業界標準として通信プロトコルのJCA手順が、1983(昭和58)年には全国銀行協会連合会において全銀協手順が制定されました。 政府の動きとしては、1984(昭和59)年に旧通商産業省が製造業を対象として、「ビジネスプロトコルの標準化」を提言し、これを受けて1985(昭和60)年に「情報処理の促進に関する法律」を改正、業界EDI標準の開発・維持管理・普及のためのガイドラインである「電子計算機の連携利用に関する指針(連携指針)」制度が創設されました。

    表 連携指針が策定されている業界
    業界 策定時点など
    鉄鋼業 通商産業省告示第121号、昭和61年4月1日
    中古自動車販売業 通産省・運輸省告示第2号、昭和61年6月2日
    電気事業 通商産業省告示第286号、昭和62年7月15日
    家具業界 通商産業省告示第555号、昭和62年12月16日
    電子出版業 通商産業省告示第118号、昭和63年3月29日
    電子機器製造業 通商産業省告示第229号、昭和63年6月1日
    紙流通業 通商産業省告示第111号、平成2年3月23日
    機械工具業界 通商産業省告示第111号、平成2年3月23日
    電子、電気、電線、電力 通商産業省告示第364号、平成3年10月1日
    住宅設備機器等流通業 建設省告示第2101号、平成3年12月21日
    海上運送業 運輸省告示第394号、平成7年6月27日
    陸上運送業 通産省・運輸省告示第2号、平成9年6月16日
    生鮮食品等流通業 農林水産省第1052号、平成12年7月27日

    資料:各種公表資料より日立総研作成

    このように、業界標準EDI策定の取り組みは1980年代から続けられています。しかし、こうした流れの中で大企業主導により発展、策定されてきた業界標準EDIは、相互互換性がないため業界が異なると複数の標準を使い分ける必要があります。そのため、複数の業界を受注取引先とする中小企業に、費用、システム構築、人手という負担を強いる形となり、普及が進まないとの課題がありました。

    一方で、有力新興国BRICsの台頭や、成熟市場における製品のコモディティ化による価格競争の激化に伴い、サプライチェーンマネジメントの効率化が求められるなど、企業を取り巻くビジネス環境は急速に変化しています。このような変化に対応するため、産業全体の情報連携を可能にするビジネスインフラの構築が求められており、業界を横断するようなEDI(業界横断EDI)が必要になっています。

    業界横断EDI構築に向けた取り組み

    こうした状況を背景として、産業全体のビジネスインフラとなる業界横断EDIを構築し、大企業だけではなく、中堅・中小企業も含めて普及させていくことを目指した取り組みを、経済産業省とJEDIC(次世代EDI推進協議会)が中心となり進めています。ここで構築する業界横断EDIの条件として、次の3つが定められています。

    • (1)国際性:

      国内外の取引で使用可能規範となる国際標準EDIに準拠していること

    • (2)業際性:

      業界を跨る企業間情報共有において、それぞれの業界EDI間で相互運用性があること、また、異なる業界に属する取引先との情報交換において、業界ごとの異なる対応が最小限となるEDIであること

    • (3)健全性:

      下請法に基づく取引ガイドラインにのっとり*1、下請け企業に不当な負担を強いることなく、かつ中小企業の経営に役立つEDIであること

    上記の3条件を満たす業界横断EDIの促進を目的として、自動車部品業界・電気電子業界を対象とした中小企業を含めたビジネスインフラ実証実験が行われ、2010(平成22)年に枠組みが策定されました。同様の動きは石油化学業界や鉄鋼業界にも広がっており、今後さらに多くの産業に拡大していく予定となっています。

    *1
    平成20年12月、EDIの多画面現象などによる中小企業の負担を解消することを目的に、下請代金支払遅延等防止法(下請法)に基づくガイドラインの一つである、素形材産業取引ガイドラインにおいて、元請け企業(発注側)が下請け企業(受注側)に対し、独自仕様のEDIによる取引を強要することが下請法違反になるという解釈が追加された。ガイドラインでは、「委託事業者(発注側)が受託事業者(受注側)に対し、業界標準に準拠していない自社固有のWebEDIやEDI端末の導入を求めることは、自己の指定する物やサービスを強制して利用することを禁じる下請法第4条第1項第6号に該当するおそれがある」と記載されている。

    普及への今後の課題

    このような業界横断EDIの普及促進の取り組みは、これまでEDI導入が進まなかった企業における導入の契機となるものと期待されています。導入により、取引業務の効率化によるコスト削減や、これまで取引のなかった企業との新規取引による売上増加などのメリットが見込まれますが、導入メリットのさらなる拡大のために、社内情報システムとの連携や、EDIデータの多方面での利活用などの取り組みも求められているところです。

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