所属部署 研究第三部技術戦略グループ
氏名:大畑一成
「キュレーション」とは、「あるテーマに基づき情報を収集・選別し、意味付けを与えた後に、それを多くの人と共有すること」です。語源は英単語の「Curator(キュレーター)」であり、もともとは、博物館や美術館などで展覧会を企画し、展示物を整理し見やすくする専門職を指します。この言葉が転じて、ネット上で「情報を収集、分類、共有」することをキュレーションと言うようになりました。
近い意味を持つ言葉に、「アグリゲーション」があります。しかし、アグリゲーションは「情報を集める、まとめる」という意味で、これに対して、キュレーションは「ある“主観”や“テーマ”を持って情報を集めて、表現すること」になります。ここでは、情報をまとめる人や組織が主体となります。
インターネットの発展、スマートフォンの普及、FacebookやTwitterなどのソーシャルメディアの発達によって、人間が一日に得られる情報量は飛躍的に増大していますが、これらインターネット上の情報の信頼性、必要性、価値などは、全て自己責任で判断しなければならないのが実態です。人がテレビ、ラジオ、新聞などを通じて触れる情報は、それらメディアによってある程度フィルタリングされたものであると言えますが、インターネットを通じて入ってくる情報は、まさに玉石混交と言えるでしょう。
例えば、2011年3月11日に発生した東日本大震災では、大規模な停電などにより、テレビやラジオだけでなく、FacebookやTwitter、mixiといったソーシャルネットワークサービスや、Skypeなどのインターネット通話など、インターネットを使ったさまざまなサービスが話題になりました。しかしながら、これらサービスが利用される中で、放射能や計画停電に関する情報など、さまざまなデマ、誤報が広まったことも問題となりました。
人が得られる情報量が飛躍的に増大する中、情報をどのように効率的に取捨選択すればよいのか、という視点がますます重要になってきます。「キュレーション」は、ボランタリーな人がユーザを代行して、情報の「収集」「選別」「意味付け」「共有」を行うことで、「多くの(検索の)時間を節約できる」「自分が興味のある分野の重要な情報を見逃さないようになる」といったメリットを提供している点で、ニーズが高まっていると考えられます。
インターネットが普及した現代では、広告やCMなどで購買判断をする人は少なくなりました。一方、口コミやソーシャルメディアを活用した情報収集を行う人が増えてきているように、消費者の意識も変わってきています。上記のキュレーションサービスにおいても、ひとつの傾向として、Facebook やTwitterなどのソーシャルサービスでの口コミ情報との連携によって、優秀なキュレーターへのアクセスが容易になる仕組みも登場してきています。キュレーションに関連するさまざまなサービスが増えていくと予想され、今後の動向が注目される分野です。
キュレーションサービスの例としては「NAVERまとめ」「Togetter」「nanapi」があります。ここでは、個人がキュレーターとなり、好きなアーティストに関するもの、近所で起きた事件に関するものなど、興味のあるテーマに関して、インターネット上のさまざまな情報から「使える」と思う情報を選別し、関連付けやコメントを付記して、公開をすることが可能です。ユーザはサイトにアクセスし、キーワードを検索すると、そのキーワードに関連するまとめサイトを閲覧することができます。ほかにも、「はてなブックマーク」などのソーシャルブックマークや「All About(リンク集)」などのガイドサイト、「Wikipedia(情報を拾い集めて、整理して、共有する)」なども、同じようにキュレーションサービスの一例です。また、海外においても、各種ニュースメディアやブログなどが配信している記事を個人がピックアップして紹介する「Huffington Post」や、スマートフォンのGPS機能を利用して特定地域の口コミ情報を紹介する位置情報ソーシャルサービス「foursquare」など、さまざまなキュレーションサービスが提供されています。
表:キュレーションサービスの例
NAVERまとめ | Togetter | nanapi | |
---|---|---|---|
ユーザ数 | 約1,473万人/月 | 約200万人/月 | 約60万人/月(PC版) |
内容 | インターネット上のあらゆる情報を、自由に組み合わせてひとつのページにまとめる | 特定もしくは複数人のつぶやき情報をまとめる | ライフレシピ(生活の便利な知恵やノウハウ)を共有 |
運営会社 | ネイバージャパン(株) | トゥギャッター(株) | (株)ロケットスタート |
サービス開始 | 2009年7月〜 | 2009年10月〜 | 2009年9月〜 |
資料:各種公表資料より日立総研作成
最近では、動画配信の世界でもキュレーションサービスが登場しています。日本のベンチャー企業が開発・販売する「SPIDER」という製品は、一週間分のテレビ放送をすべて自動録画し、その中から自分の好きなキーワードに沿った番組だけを選んで視聴することができるビデオレコーダーですが、加えて、自分自身がキュレーターとなって、番組やCMなどのコンテンツを編集し、コメントを付記して、インターネット上で公開することができます。例えば、「誰々が出演している今日のメディアコンテンツ」「今日起きた出来事」など、映像とメッセージを合わせて伝えることで、ほかのSPIDERユーザへ番組を薦めることも可能となっています。
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