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健康中国2020

    所属部署 研究第四部 中国分室
    氏名:郭寧寧

    I. 「健康中国2020」とは

    2012年8月17日中国衛生フォーラムにおいて、中国衛生部は「健康中国2020」戦略研究報告を発表しました。中国政府は過去の不充分な医療事業計画を改善し、かつ衛生事業の全面改革を目指しています。このために、2008年から「健康中国2020戦略研究」に着手し、2020年までの医療改革に関する研究を実施してきました。今回公表された報告は、その成果です。

    「健康中国2020」では、今後の医療制度改革、国家医療戦略、2020年までの国民の健康維持管理に関わる事業発展計画、医薬品・食品安全管理、医療設備投資などの取り組みを示しました。

    II. 多方面から医療・健康問題へ取り組む中国政府

    この研究報告では、国民の衛生・健康問題を改善するために、「重点健康問題への対応」「重大疾病への対応」「健康障害要素への対応」を優先対応課題とし、「医療レベルの向上」を加えた4分野について具体的目標と行動計画を策定しました。

    表1「健康中国2020」の具体的目標と行動計画
    分野 主な具体的目標 行動計画
    重点健康問題への対応
    • 国民平均寿命を77歳まで引き上げ
    • 5歳未満乳幼児の死亡率を1.3%まで引き下げ
    • 妊産婦死亡率を10万分の20まで引き下げ
    • 親子の健康管理と生命維持行動計画
    • 貧困地域の健康管理行動計画
    • 労働人口の健康管理計画
    重大疾病への対応
    • HIV/AIDS、結核、ウィルス性肝炎などの伝染と拡大を抑制
    • 接種ワクチンの種類と接種率向上
    • 重大伝染病抑制行動計画
    • 重大慢性病抑制行動計画
    • (事故、犯罪など)傷害モニタリングと関連行動計画
    健康障害要素への対応
    • 室内空気清浄度(Indoor Air Quality)の合格率80%達成
    • 農村部の安全基準に達する飲用水の普及率を98%まで引き上げ
    • 食品・薬品の安全監督ネットワークシステムを構築、モニタリングカバー率100%を達成
    • 食品関連事故の大幅削減
    • 環境と健康行動計画
    • 食品安全行動計画
    • 国民健康ライフスタイル行動計画
    • 喫煙障害対策行動計画
    医療レベルの向上
    • 農村部の衛生サービス普及率95%達成
    • 国民の基本医療保険(注)加入率100%、医療費の個人負担分を全体費用の3分の1以内に低減
    • 医療科学技術の水準を中進国レベル相当へ引き上げ、健康関連R&D支出を大幅に拡大
    • 政府衛生支出の財政総支出に占める割合を11%まで引き上げ
    • 医療衛生サービスシステム建設行動計画
    • 衛生事業関連人材育成行動計画
    • 基本医療保険拡充行動計画
    • 医療安全保障行動計画
    • 衛生サービス効率向上行動計画
    • 公共安全と衛生応急救急行動計画
    • 科学技術イノベーション促進行動計画
    • 国家健康情報システム行動計画
    • 漢方薬など中国伝統医学行動計画
    • 健康産業発展行動計画

    衛生部は上記具体的目標の達成と行動計画の実行を確実にするために、衛生事業発展推進に向けた八つの政策も打ち出しました。

    表2「健康中国2020」推進に向けた政策
    対象・分野 内容
    行政管理 国民の健康促進を目指す行政管理システムを構築。医療保険データと診療データを一体化させた総合ヘルスケア行政管理システムの確立を目指す
    法律支援 必要な法制度の整備
    衛生事業発展モデル 衛生事業発展モデルを「疾病診療」から「予防と治療の一体化」に転換
    財政支出 経済発展レベルに相応な財政投資政策を設定。政府と社会の衛生分野への投資増加により、個人の医療・衛生関連支出を現状から30%程度下げる
    医療保険制度 保険制度を発展させ、基本医療保険の資金調達基準と給付率を高め、都市部と農村部住民の医療保険制度の統一化を推進
    医療人材 医療人材の育成強化を通じた衛生事業の振興戦略を実施。衛生サービス従事者のレベルを高める
    伝統医学 漢方薬などの中国伝統医学の優位性を発揮。漢方薬の伝承とイノベーションを促進
    国際協業 国際交流と国際協力を積極的に展開

    III. ヘルスケア関連市場の刺激策として期待される「健康中国2020」

    「健康中国2020」では、末端医療システム構築、インターネットに基づく医療情報化システム構築、精神疾患防止治療システム構築などの7大医療システム構築の重点プロジェクトも挙げています。さらに今後8年間に、この7大医療システム構築の重点プロジェクトに4,000億元(約6兆円)の投資が計画されています。そのうち、投資額上位3大プロジェクトとして県レベルの病院建設行動計画に1,090億元(約1.6兆円)、看護師育成プロジェクトに1,050億元(約1.6兆円)、総合診療医の特別雇用計画に1,000億元(約1.5兆円)をそれぞれ投資します。

    県レベルの病院設備は医療インフラ市場の新たな成長分野になる見込みです。医療関連産業ではハイテク医療機械メーカー、医療電子情報収集装置などの医療系情報機器メーカー、病院インフラ建設企業、医療看護師関連企業などが恩恵を受けると見込まれます。

    中国の医療機械設備の市場は2000年〜2010年の10年間で成長率が21.3%に達しました。さらに、2015年までには3,000億元(約4.5兆円)以上の市場規模に達するという予測もあります。今回の4,000億元(約6兆円)の中央政府による投資は地方政府による追加投資につながる可能性が高く、関連医療産業の大きな需要の喚起が期待されます。

    「基本医療保険」: 1998年12月、中国国務院は「都市職員・労働者の基本医療保険制度の整備に関する国務院決定」を公布し、全国的に統一し体系化された基本医療保険制度を制定しました。保険対象として、まず都市部の全ての事業所の労働者・従業員(農村部を除く)が基本医療保険に参加することが義務化されています。

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