ページの本文へ

物価連動国債

    所属部署 研究第一部 経済グループ
    氏名:長井徹

    物価連動国債とは

    物価連動国債とは、将来受け取るキャッシュフローがインフレの動向に応じて増減する債券のことです。1981年に英国で初めて導入され、2013年7月現在米国など世界30カ国以上で発行された物価連動国債があります。物価連動しない普通の固定利付国債は、発行時の元金額が償還時まで変わりませんが、物価連動国債は発行時の元金額が物価指数(日本の場合、全国消費者物価指数(生鮮食品を除く総合指数))に連動して増減します(増減後の元金額を「想定元金額」と言います)。発行後に物価が上昇すればその上昇率に応じて想定元金額は増加しますので、投資家にとってはインフレリスクをヘッジできるという利点があります。表面利率は発行時に固定し、全利払いを通じて同一利率ですが、物価が上昇して想定元金額が増加すれば利払い額も増加します。*1

    日本の物価連動国債の残高規模は小さい

    物価連動国債には元本保証型と非保証型とがあります。前者の場合、物価が下落したとしても償還金額が額面金額を下回ることはありません。欧米諸国では英国を除く大半の国が元本保証型を採用しています。一方後者の場合は、物価が下落すると想定元金額が減少して元本割れする可能性があります。日本で発行された2004年3月の第1回債から2008年8月の第16回債はいずれも非保証型でした。その間、デフレが続き想定元金額が減少したことで物価連動国債への需要が落ち込んだため、2008年8月を最後に新規発行が停止されました。

    その結果、2013年7月現在での日本の物価連動国債の残高規模は欧米諸国と比較すると極めて小さいものです。米国の物価連動国債(Treasury Inflation-Protected Securities) は1997年に元本保証型として発行されましたが、残高(2013年6月時点)は約8,200億ドル(約80兆円)と、物価連動しない普通の固定利付国債を合わせた国債全体の残高の9.2%を占めています。欧州では英国が元本非保証型を採用していますが、物価の上昇が見込まれたため1981年以来規模は拡大し、残高は約2,200億ポンド(約32.8兆円)と国債全体の17.6%を占めています。フランスは1998年に発行を開始し残高は1,183億ユーロ(国債全体の14.8%、約15.3兆円)、イタリアは2003年に発行を開始し残高は1,161億ユーロ(同8.9%、約15兆円)、ドイツは2006年に発行を開始し残高は410億ユーロ(同6.7%、約5.3兆円)です。 *2欧米諸国では、物価連動国債は国債全体の残高に対して約1〜2割程度を占めています。*3一方、日本の残高は2013年7月時点で約3.4兆円、国債全体の残高約713兆円(2013年3月末実績見込み)のわずか約0.5%にとどまっています。*4

    注目されるブレーク・イーブン・インフレ率だが、有用性には疑問も

    物価連動しない固定利付国債の利回り(=名目長期金利)と物価連動国債の利回り(=実質長期金利)の差である「ブレーク・イーブン・インフレ率(BEI:Break-Even Inflation rate)」は、金融市場がどの程度のインフレ率を期待しているのかを示す指標として注目されています。ブレーク・イーブン・インフレ率は、2012年2月14日に日銀が「1%を物価安定のめど」と表明したころから上昇し始め、2013年1月22日に2%のインフレ目標設定後、さらに上昇し、2013年5月には1.9%台まで達しました。

    日本の物価連動国債の償還年限は10年ですが、最後に発行された第16回物価連動国債の2013年7月現在の残存期間4年11カ月が償還までの最長残存期間となります。残存期間が等しい4年11カ月の物価連動しない第293回固定利付国債の利回りと比べると、2013年7月30日時点で前者はマイナス1.069%、後者は0.273%、ブレーク・イーブン・インフレ率は1.342%となります。 *5しかし、残存期間が日々短くなる第16回物価連動国債をベースにブレーク・イーブン・インフレ率を計算せざるをえないことや、残高規模が小さく市場に厚みがないことなどから、期待インフレ率の指標としての有用性には疑問もあります。

    日本は2013年10月8日に元本保証型で発行再開予定

    財務省は2013年10月8日*6にも10年物価連動国債発行再開を予定しています。商品設計面で従来と大きく相違する点は、元本保証型としたことです。安倍政権の政策や日銀のインフレ目標2%設定によってデフレを脱却しインフレ局面へと移行すれば、物価連動国債への需要が増す可能性があり、国債の市中消化を行いやすくする狙いがあると考えられます。また、物価連動国債の発行が再開されれば、残存期間が一定(10年)のブレーク・イーブン・インフレ率が計算でき、期待インフレ率の指標としての有用性が増すと考えられます。

    *1
    財務省HP 物価連動国債の商品設計
    *2
    円換算については、2013年7月平均値の為替レートを用い、1ドル=97.85円、1ポンド=149.47円、1ユーロ=129.95円で計算した。
    *3
    ゆうちょ資産研レポート2013年7月号 資産研コーナー ゆうちょ資産研究センター 主任研究員 室 博和氏
    *4
    財務省HP 平成25年度国債管理政策の概要
    *5
    Bloomberg
    *6
    財務省HP 入札情報

    機関誌「日立総研」、経済予測などの定期刊行物をはじめ、研究活動に基づくレポート、インタビュー、コラムなどの最新情報をお届けします。

    お問い合わせフォームでは、ご質問・ご相談など24時間受け付けております。